第21話 親友と心

あっという間に放課後になった。

英語や古典は、言語理解を得てから全く苦労しなくなったし、新しく作成した魔法の<高速演算>で数学も余裕。学校がこんなに楽だったのは生まれてはじめてだった。

おかげで持ち込んだ書類の決裁がよく進んだ。


「♪〜♪〜」


気分も良くなり鼻歌まで歌ってしまう。

こんなことならもっと早くもちこんでおけばよかった!

いままでは一応授業中というのに配慮していたし、切羽詰まってなかったからやっていなかったのよね〜。


「やっぱり仕事は早めに終わらせるのが一番ね!」


「なにが一番なの?」


「うひゃあ!?」


突然背後からかけられた声に飛び上がった。


「ほ、穂乃香!?」


「はーい。穂乃香でーす」


まだ心臓がバクバクしている。知らない人や敵には近づかれるだけで反応できるけど、気を許している人にはさっぱり機能していないし。

·····もっと鍛えたほうがいいかな?

穂乃香がニコニコしながらこちらを見ている!

さっきのは聞かれてないよね?ね??


「ど、どうかしたの?」


若干身構えながら聞く。

穂乃香は唇に人差し指をつけ、んー、と言っていたけれど「ま、いいや」と言った。

わたしは、えっ?と目を思わず見開いた。


「·····いいの?」


それに対して穂乃香はあっさりとした感じでうなずいた。


「別に無理して聞くようなことじゃないし、そんなことで気まずくなるのはもっと嫌だから」


そういえば、この十年間わたしが踏み込んでほしくないところに、穂乃香が踏み込んできたことは殆どないな、と思い出した。わたしが一人だけじゃどうにもならなかった時とかは無理矢理にでも踏み込んできたけれど記憶にある限り理由もなしに、好奇心では一回もなかった。


「ありがとう」


「何いってんの。まあでも、話せるようになったら話してほしいな。そんなになってまで頑張るほどのものなんでしょ?」


「うん。絶対にいつか話すよ」


二人で笑い合う。あの日より前とあの日より後と全く変わらない笑顔はやっぱり眩しい。

彼女の在り方は小さいときからいつも、わたしの憧れた姿だ。


「あ、そうだ。今日、詩織の家に行っていい?しばらく行ってなかったからさ」


一瞬、部屋に異世界のものを置いていなかったか振り返り、なかったことを確認してから答えた。


「いいよ。じゃあ久しぶりにス〇ブラでもする?」


「いいね。詩織を見てる限りこの頃してないみたいだし、もう私のほうが強いかもよ?」


「言うね。コテンパンにしてあげる」


「ふふふっ、できるかしらね〜」


お互いに不敵に笑いながら駅に向かった。

わたしたちの不敵な笑顔を見て、すれ違った人が二度見していた。

·····反省せねば。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うはー負けたー」


「ふ、まだわたしのほうが上みたいね?」


「く〜!勘取り戻すの早すぎでしょ〜」


「わたしに勝とうなんて三年早い!」


「わ〜具体的な数字だぁ」


軽いこのやり取りがやっぱり楽しい。ちなみに勝敗は九勝五敗。後半で巻き返したかんじだった。

ずっと異世界じゃ、気を張りっぱなしだったし、そういう意味ではこういう時間もわたしには必要だったらしい。


「·····今日はありがと」


「ん?なんのこと?」


穂乃香が首を傾げる。でもわたしには、わかっていてすっとぼけているのが、手にとるようにわかっていた。


「わたしに気を使ってくれたでしょ」


「·····バレちゃってたかぁ」


やっぱりな〜、と穂乃香がつぶやく。


「何年の付き合いよ。お互い相手のことはなんとなくでも察せるようになるでしょ」


「まあ確かに」


お互いに苦笑いのような、嬉しいような笑顔を浮かべた。

やっぱり持つべきは気のおけない最高の親友だね。

何も言ってないのにこうして気にかけてくれるのは彼女のとてもいいところだ。


「だから、ありがとう」


「まあ、受け取るだけ受け取っとくね。それじゃ、そろそろ時間だし私は帰るね。あんまり無茶しすぎたらだめだよ?」


「うん」


玄関まで送っていく。


「じゃ、また明日」


「また明日。気をつけてね」


部屋にまた静けさが戻ってきた。やっぱりメイドさんがいるって言ってもどこかもの寂しい感じがする。


「穂乃香とも約束しちゃったし、無理はしないようにしないとね」


そうしてわたしは<転移>を使って、フォルニアのほうの執務室に入った。

また一日が終わっていった。

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