第25話 兄妹怒る

コンコンと扉がノックされた。


「失礼いたします。夕食の準備ができましたのでお呼びにまいり、まし·····た·····」


メイドさんがわたし以外の二人の王族兄妹を目に入れてピタリと動きを止めた。

まあ、普通の反応だと思う。いないと思っていたところにまさかの王族が、それも二人揃っていたのだから。

王城ではメイドは殆どが貴族階級出身だけど、貴族の邸宅のメイドは大抵は平民出身だしまあこうなるだろう。二人の担当は恐らくハインメル伯爵の親族だったはずだし。

わたしも皇族だけどそれよりも自国の王族のほうが大事なのはわかるしね。わたしは別に気にしないし、この程度では別に腹も立たない。


「らしいですよ。行きましょうかーーー」


二人とも。と続けようと振り向いてわたしも硬直した。


「ほう。他国の王に対してこの扱いとは·····」


「これは私達に対する侮辱と取っても宜しいですわよね、お兄様」


「そうだな。いかなる理由があってのことか、問いたださねばな」


「ええ、じっくりと」


ひいいいいいイイ!!??

ヤバい。何がってもう全部がヤバい!!

もうなんか黒い気配?瘴気?が見える!

顔はニッコリと満面の笑みと言ってもいいぐらいなのに目が、目が全く笑っていない。

フフフフと笑っている二人を見ると、王族兄妹というよりも魔王兄妹にジョブチェンジしている!!!!

なんか二人を見るだけでゾワッと寒気がする。

メイドさんは、はわわわわと、パニクってるし。


「えっと、お二人さん····?ま,まずは食べに行きませんか?」


お腹が満腹になればある程度収まるはず。あわよくば忘れてほしい!


「そうだな。シオリもお腹が空いているだろうしな。行くとしよう」


「弾劾なら夕食の席でもできることですしね。シオリは食べているだけで構わないわ。後のことは私達がやるわ」


ヤバい。選択を完全に間違えた気がする!!

というか弾劾って何!?夕食の席で何を始めるつもりなの!?完全に暗黒面に落ちたような感じになっているんだけれど!!


「そ、それじゃあ案内してくれる?」


「は、はははははいいい!!」


·····メイドさん大丈夫かな?

まだ十代だろうし、この気配に耐えれているだけでも凄いと思う。魔竜王の威圧に通ずるものがあるとわたし的には感じるし。

背後からの形容し難い威圧感に、逃げ出したいのを我慢しながら食堂に向かった。


「よ、ようこそおいでくださりました。両殿下。国主様」


ハインメル伯爵の顔が引きつっている。

不機嫌丸出しどころか、若干怒気が漏れ出ている王族兄妹を見れば大抵の人間はビビる。

ビビらない人間は、余程肝が座っているか、面の皮があつすぎて気づいていないかの二択だろうし。むしろそっちのほうが凄いな。


「どうぞお座りください」


微妙に震えているメイドさんたちが椅子を引いてくれる。

そこにわたしが座ろうとしてーーーヴィルフリートとエフィーに止められた。


「え?な、なに?」


思わず素で質問してしまった。

二人はそれに答えずに奥の空席だった、所謂お誕生日席、上座に座らせられた。


「シオリはここだ」


「そうよ。私達より王は地位が高いのですから」


ぽかんとするわたしを置いて、二人はその左右に座った。


「伯爵も席に着かれると良い」


「は、はい」


完全に予定外の流れにハインメル伯爵は完全に流されてしまっていた。

上座に座らされたわたしとしては、何が起こっているの!?という感じである。

というか、王太子が下座っていいの?形式上とはいえあまりよろしくないと思うんだけど。うちってできたばかりの新興国だし、正統性もへったくりもないよ?

わたし、the平民 だし。


「伯爵」


料理が運ばれてくると、ヴィルフリートの凍りついたような声が響いた。


「何でしょう」


この少しの時間で落ち着いた様で表面上は平静を装って返事をしている。元外務大臣は伊達ではないようらしい。


「先程まで、国主とは一緒にいてね。迎えに来たメイドが平民だったんだ」


聞いているだけで言われている相手でもないのにヒヤリとする。


「別に平民を差別するわけではないが、王または、王族を相手にする場合は貴族出身のものを遣わすのが礼儀のはずだが、何故か平民のメイドが来ていた」


ヴィルフリートがハインメル伯爵をじっと見つめる。

ハインメル伯爵は虚を突かれたように驚いた。


「な、なんですと!?」


どうやら彼も知らなかったらしい。慌てて近くにいた執事に確認を取っている。


「エルメダを呼べ!!」


どうやらエルメダという人が関わっているらしい。

名前からすると女性だと思うんだけど。

少しして、扉の前のメイドがエルメダの到着を伝えた。


「参りましたお父様」


やってきたのは16,7歳の少女だった。

普通に見て美少女だった。特に胸。わたしだって普通ぐらいはあるはずだけど、彼女のそれは反則だった。世の男達が拝むような大きすぎない巨乳である。

つい、それを擬視していると、キッと一瞬だけ睨まれた。


「お前は国主様を案内せずに何をしていたのだ!!」


「王太子殿下に色目を使うような女など、見たくもありませんわ」


「い、色目·····。わたし、今までそんな事を思われていたんですね·····」


衝撃的すぎる事実の発覚に心をえぐられる。

も、もしかして、今までの全員にそう取られていたの·····!?

ヤバい。その気がないのにそう思われるのが一番痛い。


「だ、大丈夫、シオリ!?」


軽くフラリとしたわたしに慌てて気遣うエフィーに大丈夫と伝えつつエルメダを見る。

多分、彼女はヴィルフリートが好きなんだと思う。やり方は雑で、不味くてだめだけど。

でも、ヴィルフリートを見る目に宿っている熱を見れば間違いないと思う。

わたしを巻き込まないでほしいとは思うけど、恋ゆえの暴走とか可愛くていいじゃない。


「どうして笑ってるの?」


「いえ、可愛らしいなぁ、と思いまして」


「ええ·····?」


ちょっと応援したくなってきたなぁ。

別にわたしはヴィルフリート狙いでもなんでもないし。むしろ、友人としていい女を紹介するのもいいよね。彼女はヴィルフリートを愛してくれてるみたいだし、後はヴィルフリートの心次第と言ったところかな。

未だ、エルメダを叱っているハインメル伯爵を見て今回の失点をどうにかして回避できないかを考える。

そして、二人のところに歩き出した。

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