第19話 今後について

······ん?え、そんなこと?

よっぽどとんでもないことでも言ってくるのだろうと、内心身構えていたのに、拍子抜けもいいところだ。

あまりにも予想の遥か斜め下を言われたせいで思わず顔から表情が拔ける。


「い、いやその、今まで過分にして聞いたことがなく。わ、私の勉強不足だと思っているのだがーー」


わたしの顔を見て慌てて弁解のような何かを言い募っている。

わたしの方はといえば大困惑だ。わたしやアメリア、リグルスはいつも道理だけど、ファルサス王国の騎士たちは若干、青ざめている。

なおも弁解を続ける王太子を尻目に見ながら今のどこに青ざめる要素があったのかと考える。

······ああ、そっか。ここをどこの国だと聞いた事自体がだめだったのか。

確かにこの国はどこにある国だ?などと聞けば、暗にこんな国なんて眼中に無い、または、取るに足らないと言っているのも当然になるわけか。

そりゃあ聞きにくいわけねぇ。

とりあえず、絶賛言い訳中の王太子を止める。


「大丈夫ですよ、ウィルフリード王太子」


「だからーーーえ?」


「別にわたしたちはそんなことでは怒りませんよ」


「な、なぜ?」


信じられないといった顔でわたしたちを見てきた。エフィーリア王女も似たような顔をしている。まあ確かに自分の国を侮辱されたも同然なのだし怒るのが普通なんだろうけどさ。


「知らないのも無理はありませんよ。建国されたのはつい最近ですから」


そう。つい最近。それもたった一ヶ月ちょっとなのだ。そもそも船で来たということは別の大陸からだろうし物理的にも聞いていないのも仕方がないと思う。人口一千万に満たない弱小国なのだから。

そんなものでいちいち怒っていたら本当に日が暮れてしまうよ。

やっぱりこういうのを見ると地球との違いを認識してしまうなぁ。地球なら普通に教えてくれるしね。怒る方がおかしいぐらいだし。


「そうだったのか·····」


すこし安堵したらしい。若干エフィーリア王女に支えられるようになった。


「それでここがどこかという話ですが、ここはファルサス王国のあるセイクレド大陸の南にあるゴルアナ大陸北方です」


「ゴルアナ大陸。·····そうかここがか」


些か戸惑いのようなものをにじませながら言う。


「なにか?」


「いや、ゴルアナ大陸といえば戦乱が絶えず、竜などの強力な魔物たちが跋扈している地だと教わったので、少々イメージと違ったものでな」


·····この大陸、そんな危険なところだったの?

チート魔力持ってなかったら本当になすすべなく死んでたかも。


「安心してください。ここら一帯の魔物は統率していた魔竜王共々既に倒しているので」


「ーーーえ?」


「へ?」


ぽかんとする二人。多分すでに魔竜王が殺されていたというのに驚いたのだと思う。

数秒ほどで我に返ったようだ。


「既に対処済みとは·····。しかし魔竜王を堕とすとは、な」


「かの竜は、いくつもの国を滅ぼしたほどの脅威だったと言われていたはずだけど······」


あー、確かに国を滅ぼすとか言われても納得できちゃうなぁ。空から一方的に上級魔法で弾幕を張ってくるようなアイツに対抗するには空を飛ぶか、圧倒的な速さで翻弄するかの二択ぐらいしかないし。空を飛ぶにしても相当の練度と戦闘力がないとすぐに落とさてるだろうし、中途半端な速さだとすぐに捕捉されるし。

·····改めて考えるとアレって本当にチートだったなぁ。この力がなければ最初の接触で死んでいたと思う。


「それに、この国は北部では最大の国でもあるので特に身構える必要はありませんよ」


「それは助かるな」


ほとんど攻められる心配がないのはいいことだよね。

まあ、国の規模とか以前にわたしがいる限り大概の武力には負けることはないだろうからね。所詮は一人だし限界はあるけどさ。


「本当ならすぐにでも送っていきたいのですがここのところ忙しく。大変申し訳無いのですが、一月ほど待っていただきたいのです」


「頭を上げてください。私達は頼む側ですしその程度なら大丈夫ですよ」


頭を下げたわたしに慌てて王太子が言う。

身分的には本来わたしのほうが高いからそうなるだろう。王太子は次期国王に内定しているだけで他国の王に比べれば格は下がる。


「お気遣い感謝します」


一月というのは臣従しに来る氏族に一区切りつくだろうとグラセフとフォネアが出した期間。そこまでいけば、後は独立を守るか、南の方にあるという帝国との間で日和見を続けるものかになるということらしい。

ウルガは特に何も言わずに兵の訓練に励んでいたけれど。


「それでは随分長居してしまいましたし、この辺で失礼します」


「はい、ありがとうございました」


「できればまたお話を聞かせてください」


「ええ。それではまた」


パタンと扉が閉まる音を聞いてからふ〜、と深く息を吐いた。


「お疲れさまですな、姫巫女様」


「お疲れさまです」


「ええ。本当に疲れた·····」


何が戦争の引き金になるかわからないし、今のこの国で戦争をするのは良くない。負けはしないだろうけれど、かなりの被害を受けてしまう。


「······それはなんとしても避けないとね」


「なにか言いましたか?」


アメリアの問になんでもないと言いながらゆるりと首を振る。


「さて、これから忙しくなりそうね」


「そろそろ文官も増やしますかな?」


「そのほうがいいかもねぇ」


「近衛騎士ももっと増やしてほしいです。今の数では警備に穴ができてしまいかねませんし」


三人で話し合いながら、国のことについて検討する。今までの自分なら今の自分を見てどう思うだろうか。

そんな事を考えながら一月後に向けてプランを練りつつ執務室に戻っていった。

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