ファルサス王国編

第18話 王族兄妹

リグルスの案内で着いたのは城の奥まった場所にある高級感溢れるエリアだった。


「随分と警戒しているね」


横目で会釈してくる近衛騎士たちを見ながらポツリと言う。

先程からすれ違う護衛の騎士の数がわたしの寝室並の数がいた。いくら相手が王族でも普通の相手であればここまでの数は当てられないはず。


「護衛というより見張りね」


「ええ。敵か否かも定かではなく、かと言って粗略に扱うわけにもいきませんので」


「まあ、確かに扱いは面倒かな。王族を名乗る以上、偽モノということはないと思うし」


王族であると偽装すれば即処刑レベルの大罪になるからまずないとは思うけど。どこにでもバカは一定数いるからねぇ。後先考えないやつとか。


「一応ここに滞在してからは監視をつけていますが、特に怪しいところもなく、所作も驚くほどきれいでしたので、王族であることはほぼ確定かと」


「なら良いのだけれど·····。それにしてもリグルスは基本的になんでも知ってるのね」


「ふぉ、ふぉ。これでも長生きだけはしておりますからのう」


「私はいきなりポックリ逝かないか心配です」


「言いますなぁ」


アメリアの言葉にリグルスが笑う。まあ、リグルスは見た目は誰もが魔法使いと言われれば想像するような出で立ちだからね。年齢もお察しだし、アメリアの言ってることはわからなくはない。


「ここですぞ」


「ありがとう」


ついた扉の前には近衛騎士が二人立っていた。


「シオリ・スメラギ・フィン・シルトフォードです。開けてくれる?」


「これは姫巫女様。少々お待ちを」


近衛騎士の一人が入室許可を取りに行く。

あ、ちなみにフィン・シルトフォードは皇国を名乗るために付けられたわたしの名前だ。

フィンは古代神聖語で王を表し、シルトフォードで治める国を表しているらしい。


「許可が取れました。どうぞお入りください」


「ええ」


開けてくれた扉をくぐると中は上品な高級感のある広い部屋だった。わたしも初めて見た部屋だ。よく考えたらわたし、自分の城の中でさえ把握しきってない·······。時間ができたら覚えておこうかな。

目当ての人物はどうやら二人いるらしい。どちらも黄金を溶かしたような髪にサファイアのような碧眼。わたしの碧眼よりも深い色をしている。

一瞬二人がわたしの方を見て硬直する。


「お、お初お目にかかります。私はファルサス王国王太子のウィルフリード・デ・フィン・ファルサスです」


「同じく第二王女エフィーリア・デ・ファルサスですわ」


王族二人。それも一人は王太子とか·······。わたし、なにか悪いことでもしましたか!?特大の厄介事じゃないですか。わたし、ここのところ結構頑張っていると思うのですが!?

内心の動揺と心の叫びを顔に出さないようにしながら礼を返す。


「はじめまして。わたしはシルトフォード神聖皇国国主。シオリ・スメラギ・フィン・シルトフォード。以後お見知りおきを」


わたしが名乗ると二人は納得したような顔になった。どうやらリグルスがこの国でかなり高位の人物であるのは察していて、彼がわたしの後ろに控えているのがすこし不思議だったかみたいだし。


「姫巫女様、どうぞ」


アメリアが引いてくれた椅子に腰掛ける。アメリアとリグルスはわたしの後ろに立った。

王族兄妹の後ろにもファルサスの騎士であろう二人が立っていた。


「まずは私達を保護していただいたことに感謝を」


二人が頭を下げる。

本来王族がみだりに頭を下げるのは良くないけれど、わたしが立場上は上であるし何よりも命の恩人でもあるから下げられているんだろうな。後ろの騎士たちも黙っているところから見て了承済みなんだろう。

そんなことを考えながら頭を上げるように伝える。


「わたし自身は何もしていないので礼はいりません。礼ならリグルスに」


「わかった。リグルス殿。感謝する」


「ありがとうございます」


「くれると言うならありがたく頂いておきましょう」


軽く頭を下げる二人に好々爺じみた微笑みを見せながらリグルスがふたりをたたせる。


「ところでお二人はなぜここに?船で漂流してきていたと聞いていますが」


ちらりと二人が目を合わせてから話しだした。


「実はーーー」


話を聞いて大体の事情は察せた。

この事の原因は大元を辿れば王位継承権の争いらしい。今のファルサス王国には王子が二人、王女が三人の合計五人の子供がいたが、第一王女は既に自国の貴族に降嫁していて継承権はなく、第二王子は病弱でまともに公務を続けるのは難しい。第三王女はまだ十歳で幼く、また庶子であるため王位は基本的に継げない。だから公爵派と呼ばれる王室派の敵対派閥が最も王位継承の可能性が高い二人を殺そうとしたのだろうと言うことだった。

ちなみに公爵派の筆頭は王弟のエウィルド公爵で虎視眈々と王位を狙っているらしい。

正直、王位って国を背負うものが座る椅子のことだからあんまりいいものじゃないと思うんだよねぇ。

いうなれば貧乏クジというやつ。


「なるほど·····」


ドロドロすぎて地獄の釜みたいになってそうだ。あんまり近づきたくないけど私も皇族だしいずれはそうなるのかな?

······嫌だなぁ


「事情はわかりましたがそんな内情を他国の王相手に言っても良かったのですか?」


「大丈夫です。今更ですし」


今更ってどれだけ堂々とやってるのやら。というかこれって暗殺未遂では?なにげに私まで巻き込まれようとしてない?まんまと公爵派の暗殺計画を潰したわけだし。


「それで?わたしたちは送り返すつもりだけど、どこに連れていけばいいのでしょうか」


「う、うむそれなのだが·······」


ウィルフリード王太子が躊躇うように目をさまよわせる。


「······?どうしましたか?」


いきなり変な挙動をし始めたので心配になった。


「あー、その、怒らないで聞いていただきたいのだが······」


「はい?別に怒るようなことはないと思いますが······?」


怒るようなことって何?なにか言ったら相手が激怒するような事でもあるの?そんなに悩むって一体何なの!?


「お兄様」


「あ、ああ。そうだな」


エフィーリア王女の呼びかけに押されたように真っ直ぐにウィルフリード王太子がこちらを向いて


「その、この国はどこにある国なのだ?」


そう言った。

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