第17話 国の名前は

とんでもない爆弾はひとまず無視し、まずは新しくやってきた族長たちと謁見した。

いずれも5万から10万程の規模の氏族だったけど二十以上いたので増えた人口は143万で合計で192万人になった。

街周辺の土地が完全に埋まってしまったので、ゴ―レムたちで四方に衛星都市をつくった。

これでかなり過密になっていたのを解消できたけれど同じ規模が何度も来ると少しまずいかもしれない。

ついでに、以前からゴーレムたちに作らせていた魔導戦艦の管理に、信用できそうな近衛騎士たちを送り込んだ。

そんなこんなで数日たった頃。

執務室で簡単な決済をしているとコンコンと扉がノックされた。返事を返すとグラセフを筆頭にフォネア、リグルス、ウルガの4人が入ってきた。後ろにはアルマとリリアもいる。


「どうかしたの?4人で揃ってるなんて珍しいね。アルマとリリアまで」


グラセフは行政、フォネアは財務、リグルスは魔法、ウルガは軍事を主に担当している。アルマは城内の侍女長兼わたしの専属侍女、リリアはわたしの護衛兼専属侍女。

別に最初から決めていたわけじゃなく、いつの間にかそんな感じに仕事が別れていったので、わたしがやりやすく肩書を渡したというわけ。


「姫巫女様。私は出たほうがよろしいでしょうか?」


判断に迷ったようでわたしに尋ねてきたのは、こっちに帰ってきてからついたわたしの専属護衛兼近衛騎士団団長のアメリア・へーゼル。齢19で凄まじい剣豪で魔法も一流という才媛だ。

暁の様な長髪と瞳は同性のわたしでも惹き込まれてしまいそうになるほど綺麗だった。


「いいえ。そのままでいいよ。それで、揃いも揃ってどうしたの?」


意図を掴み損ねて疑問符を浮かべる。


「はい。最初期、と言っても一月ほど前ですがその時に比べて随分と人も増えてきました。そこでなどですが、この国に名前をつけたいと思いまして」


「なるほど······」


確かに国としての形がハリボテとはいえ出来上がってきたのだからそろそろ名前をつけるのもありかな。

というか今まで名前がついてなかった事すら気づいてなかったよ。今までそれで不便なかったしね。今更感がある。


「それじゃあ決めようっか。誰か案はある?」


意見を聞こうとするとササッとフォネアから紙が手渡された。

目を落とすと、国の名前らしいものがいくつか書かれてある。


「初期の私達4氏族の民にも聞き取りを行い良さそうなものを抜粋しました」


候補は4つで、スメラギ王国、シオリ連合王国、シルトフォード神聖皇国、レジリエス帝国。

とりあえず、2つ目は除外。自分の名前をつけるとかどんな羞恥プレイだ。

1つ目もぎり除外。となると選択肢は3つ目と4つ目に絞られるんだけど。みんなにも聞いてみようかな?


「一応2つに絞ったんだけどみんなはどっちがいいと思う?」


「この2つですか」


「悩みますね」


「おれはシオリ連合王国のほうがいいと思うぜ」


「人語を理解できない獣はだまらっしゃい」


「なんだと、クソジジイ!!」


「え?なんで私まで!?」


しばらく五人で悩んでいたけど思ったより早く結論が出た。


「じゃあ、皇国か、帝国かどちらがいい?」


「皇国ですな」


「皇国ねぇ〜」


「皇国じゃな」


「皇国だろ」


「皇国だと思います」


「·······まさかの満場一致なんてね。じゃあこれからこの国はシルトフォード神聖皇国ってことで」


「「「「「異議なし」」」」」


会議は踊るとかいうけど本当にこの国の会議は踊らないねぇ。まあ、結論がでるのが早くて助かるからいいけどさ。

これで話は終わったかな、と思い書類を手にとって執務を再開しかけたとき


「ではこの都市の名前を皇都スメラギとする」


「「「「異議なし」」」」


「!!??」


いきなりの奇襲攻撃を食らった。


「え!?なにそれ!?」


執務机を飛び越えて問い詰めるとグラセフが笑った。


「国民の要望です。九割以上の票を得て選ばれました」


「いつの間に!?」


どうやら知らないうちに国民投票なんてしていたらしい。というかわたしのところに報告が一つも来てないんですが!?明らかに計画的なやつじゃない!?

わたしこの国の王なんだけど·······

王の権限より横の繋がりのほうが強いなんて······わたしにはないのにずるくない?ていうか全員共犯か!!


「サインをくださいますか?」


な、なんか5人から怖い圧力を感じる。

拒否したいけど国民投票なんてした手前、やっぱりなかったことになんてできないし、したら信頼が崩れちゃう。

······く、わたしが折れるしかないか。

非常に、ひっじょうに不本意だけどファミリーネームだし、名前よりましだし!


「······仕方ない」


どこぞの大統領が降伏文書にサインするような気持ちでサインした。

······知り合いがこちら側に来ないことを祈ろう。


「これで姫巫女様も皇族ですな」


「もとからそんな感じはあったけどねぇ〜」


「フォッフォッ。法も作り直さねばのう」


「別に今までと同じだろう?」


「これからも誠心誠意仕えさせていただきます」


わたしが皇族ねぇ。想像したこともなかったな。一年前の自分に聞かせたら頭の心配をしていただろうし。まず、現代日本で皇族になること自体ほぼ不可能だし。······いや、現代日本じゃなくても無理か。

ーーーーあ。

王族といえば漂流してきていた人たちのことをすっかり忘れてた。

あんまり待たせるのもどうだし会いに行ったほうがいいよね?

······厄介ごとの匂いしかしないし、行きたくないなぁ。


「そういえば王族の人たちを案内してきたのは誰?」


「ワシですな。案内いたしましょう」


リグルスの先導についていきながらわたしは小さく息をついた。

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