第16話 異世界フォルニアへ

あの後、三人の猛追求と引き止めをなんとか躱し、異世界フォルニアに行くために荷物を作ったり<書写>で書き写した本などをまとめたり、追記したりなどをしてまたたく間に時間は過ぎていき、あっという間に3日がたった。


「うっ····うう」


「詩織、こんなに立派になって·····」


「頑張るのじゃよ····くっ涙がっ」


「いや、大袈裟すぎじゃないの?今生の別れでもないんだし·····」


準備万端で行こうと意気込んでいたのだけれど、出発前から家族が号泣。

後ろの薫さんを筆頭とした使用人一同には、少しの間お祖父様が用意した別荘に行って来るとしか伝えていないために凄まじく生暖かい目で見られている。

·····我が家族ながら全力で恥ずかしい。穴があったら入りたいぐらいには羞恥を感じている。というか、そろそろ本気で視線が痛いから放して······


「じゃあ、行ってきます」


「「「「「「「いってらしゃいませ」」」」」」」


まだ泣いている家族を皆さんに託し家を出た。

冷たいと言うなかれ。これ以上あそこにいたら恥ずかしさで殺されてしまう。今でもかなりの重症だし······


「〈虚像迷彩〉」


すこし歩いたところで魔法を使って姿を隠す。姿を消すだけの魔法だけど使いようにはかなり使い勝手がいい。


「·······」


一応見えてないとわかっていても周囲を確認しておく。こっちに見破れる人はいないとは思うけど保険はかけとかないと。


「〈転移〉」


周囲からは見えないだろう光とともに地球からわたしの身体は掻き消えた。


―――――――――――――――――――


次に視界が戻るとそこは地球に帰ったときと同じ水晶の間だった。


「よし、成功したっ」


ふぅ、と緊張を解く。

とりあえずリリアとかアルマを探そうと扉に向かうと、いきなりバンッ!!と重厚な扉がありえないような勢いで開かれた。


「ぴっ!?」


あまりに不意をつかれたせいもあって変な声が出た。


「シオリ様!!」


「ぐふっ!?」


意識外からの強烈タックルがもろに入り、抱きついてきた者諸共倒れ込んだ。


「いててて·······だ、大丈夫?アルマ?」


問いかけるとぎゅうぎゅうとより強く抱きしめてくる。


「お帰りなさいませ、マスター」


「うん、ただいまリリア」


アルマの頭をよしよしと撫でながら笑う。


「グラセフも留守中の采配ありがとう」


「もったいないお言葉です」


スッと頭を下げるグラセフに硬いなぁと感想を抱くが慌ててそれを振り払う。

グラセフなしじゃもうわたしの支配地域の行政に支障が出ちゃうぐらいだし、頑張ってくれている彼に失礼すぎる。


「それでなんでわたしが来たのがわかったの?」


特に伝えてなかったと思うけど、と呟くとリリアが言った。


「転移の際には強い光が放たれるので、分かりました。この都市の者たちも見えたはずです」


なるほど。確かに今回の転移は特に光の隠蔽はしていなかったしそれでか。

にしてもアルマとリリアは早すぎると思うけど。わたしが転移してきてから十数秒だったはず。

·········まさか仕事放り出してきたんじゃないでしょうね?

問い詰めると案の定そうだったのでとりあえず仕事を終わらせてこい!と渋る二人を強制的に送り出した。


「いったか·······」


ひとまず嵐が一つ去ったので、まだ待っていたグラセフに向き直った。


「それで、何か用?あなたは忙しいんだし用もないのにこんな早くは来ないでしょ」


「ご明察です姫巫女様。わたしでは代行できないものでして」


「グラセフじゃ代行できない?」


わたしの疑問に首を傾げる。

わたしの全権代理だったグラセフが対応できないことって?


「はい。周辺の氏族が庇護を求めてやってきています」


「?」


それだけなら十分代理でも処理できる範囲だと思うんだけど·······


「実は問題はそれではなく―――」


――――北の海岸に王族を名乗る者たちが現れました。

卒倒しそうになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る