第10話 謁見(という名の脅迫?)

近づいてくるわけでもないその集団を見て、わたしは判断に迷っていた。

確かに鐘を鳴らさなければならないほどの数だけど、特に攻撃してきたりするわけでもないわけで。

結果奇妙な静観状態に陥っていた。

様子見以外の明確な指示を出せないまま十数分がすぎ、ようやく、グラセフさんが到着した。


「すまない、雷の巫女様。遅れた」


「いえ、それよりあの集団に見覚えは?」


「おそらくどこかの氏族のものだとしか····ここ最近はあまり、ほかの氏族とは交流を取れていなかったもので」


「そうですか·····」


有力な情報はなし、と。

それじゃあますます、動けない。

ほんとにどうしよう、と考えていると、集団がざわめきだした。


「···?人?」


出てきたのは女性一人、男性二人の三人組だった。

白地に黒の蛇の紋章。あれは確か交渉を求めるものだったはず。


「雷の巫女様。いかがしますか?」


「応じないわけにもいかないし。いくしかないでしょ」


交渉旗を掲げた相手を攻撃するのは暗黙の了解で禁止されているし、もしすれば、次から交渉を受けることもすることも、難しくなる。

かといって、無視も得策ではないし、第一このまま睨み合っているわけにもいかない。


「こっちも交渉旗を掲げて」


持ちかけられた側が交渉旗を掲げるのはそれを受けたという合図。

······本で勉強していて良かった。

知らなかったら大恥をかいていたところだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


交渉場所は三時間後に城でと決まり、レムリア氏族から志願していたメイドさんたちが準備に奔走していた。

グラセフさんやレムリア氏族の幹部級の面々を集め、話し合ううちに約束の時間になった。

そんなこんなでやっと交渉に入ったのだけど


「お初お目にかかります。私はロマリス氏族族長フォネア・ロマリスと申します」


「アンカム氏族の族長、リグル・アンカム」


「フレンツェ氏族のウルガ・フレンツェです」


何故か聖座の間(いわゆる玉座の間。レムリア氏族の人たちがそう呼んでいる)での謁見という体になっていることに対して、内心頭を抱えていた。

なんとか表情には出さずにこの一時間で必死に覚えた謁見の順序を思い出しながら進める。


「顔を上げてくれ、みな。よく来たね。三氏族の長たち。」


三人の長たちとその従者たちが顔をあげた。

長たちは表面上は変わりないが、従者たちは明らかに少女のわたしを見て侮ったような表情になった。

長たちはいいけど、従者たちは明らかにこういう交渉の場には不合格だ。

表情を隠せない者は交渉の場では不利な材料にしかならないからね。


「長ったらしい挨拶はいらない。要件だけを答えてほしい」


わたしの挨拶はいらない、と言ったところで従者たちがわずかに怒りの表情をみせる。

こういう場での挨拶はいらないという言葉は、挨拶を聞く価値がないというのと同じだからだ。

まあ、わかっていて挑発したんだけどね。ここで怒り狂うぐらいなら交渉するほどの価値は彼らにはない。


「ーーーはい。厚かましい願いだとは思いますが、どうか私達を配下の一員としていただけませんでしょうか」


「·····ん?配下····?」


「はい。私達のいた土地は魔物たちに奪われてしまいました。慌てて逃げてきたのですが、行く宛もなく·····」


なるほど、グラセフさんたちと同じように住んでいた土地を奪われてやってきたようだった。でも疑問も残る。


「ふむ。じゃあなんでわたしのところに?他のところにも氏族はたくさんあってでしょう?」


別にわたしじゃなくてもいいはずだ。それこそ別の無人の土地で一からやり直すという選択肢もあったはず。


「確かにそうです。しかし他の氏族に身を寄せてもその氏族まで魔物たちにまたやられては意味がありません。一からやり直すのも同じです」


「··········」


「そこで、この魔竜王の縄張りの中で堂々と暮らして行けているあなた達を見て、ここならと思いこうして参ったのです」


「そう······」


まあ、確かに避難したところまでやられちゃったら意味ないしね。

それに、農地や街の建物はまだまだある。

じゃあ受け入れるかなと思っていると、従者の方から横槍が入った。


「もう我慢ならん!」


「ん?」


「黙っていればいい気になりやがって!」


「よせ、やめろ!」


「臆病風に吹かれた親父は黙ってろ!!」


なんとそいつは、ウルガさんの息子さんだったらしい。

それに同調するように従者のうちの何人かが立ち上がった。


「こんな小娘になんか従わずにそいつを捕まえて、ここの土地を奪えばいいじゃないか!!」


「やめろといっている!!!」


ウルガさんはもうあおざめていた。

その言葉と同時に護衛の兵たちが殺気立つが、わたしが静止をかける。

息子さんはそんな護衛たちに怯まずに真っ直ぐにわたしを睨みつけてきた。


「捕まえる、ね。どうやって?」


わたしが面白そうに聞くと、彼は顔を真っ赤に染める。


「ふ、ふざけんなぁ!!!!」


剣を持って襲いかかってきた彼を<雷閃>の一撃で文字道理わたし以外の認識が追いつかないほどの速さで吹き飛ばした。

剣は粉々になり、本人は壁にめり込んでいた。

他の立っていた従者たちは、武器を抜いたところを護衛たちが次々に制圧し、拘束していった。


「弱っちいの。遊びにもならないし」


ボソリと不満を漏らすと、三人の族長たちの表情が引きつっていた。

どうやら彼が一瞬でやられるとは思っていなかったらしい。

······彼は戦士としては強い方だったのだろうか?


「他にわたしの配下になるのに反対の人はいる?」


わたしが尋ねると彼らはブンブンと首を振った。どうやら後は賛成らしい。


「それじゃあ、受け入れるよ。ーーーーようこそわたしの元へ。歓迎するよ」


こうしてまた配下が増えたのだった。

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