第9話 新たなメイド

あれから数日で、レムリア氏族の民の移住を完了させた。

驚いたことに、その数は190000人にもなった。

まあ、城下町は数十万人単位で居住できるので、全く問題ないけれど。

決闘の結果急に配下になったわけだから、一応不満とかないのかな、と思い尋ねてみたけど


「強者が上に立つことは当然のこと」

「族長がやられたんなら仕方ない」

「土地に住まわせてもらうんだからそれぐらいは」


的な感じで実にあっさりと受け入れられていた。

グラセフさんにも聞いてみたけど、どうやら少なくともここいら周辺では強者はとても尊ばれる様で、なおかつ、今回の件では一人の死者も出なかったため、これだけあっさりと受け入れられたのだろう、と言われた。

「それって一回も負けられないやつでは?」と思ったけれどとりあえずはスルーした。

·····聞いてしまっては逃げられなさそうだ。


「あ!おはようございます、雷の巫女様!」


朝からわたしを起こしに来たのはリリアではなく、アルマーー決闘のときの女の子だった。彼女はかなり有能でここ数日でわかったことだが、だいたいのことは瑕疵なくできる。料理がさっぱりなのが唯一の欠点といえば欠点か。


「·····あれはひどかったなぁ」


甘いはずのケーキが無茶苦茶酸っぱかったり、オムレツを作れば倒れる人が出るほど苦かったり、カレーを作らせれば死ぬほど甘ったるいなどとめちゃくちゃだった。

しかも、それは見た目だけは完璧なので余計タチが悪かった。

見た目詐欺もここに極まれリだなと思ったのは内緒だ。

······わたしが食べたのが酸っぱいケーキだけで済んだのは幸運だったのだろうか。


「?なにか言われましたか?」


アルマがこてん、と首を傾げるので慌てて「なにもないよ」と伝えた。

アルマに着替えさせられながら城下町を見ると、ちらほらと人が見えた。

町の外の農場で働くことを選んだ人が12万人ちょっとで、残りの7万人ほどが街で暮らし、与えられた仕事を行っている。


「何度見ても美しい白髪ですね〜」


アルマが髪をすきながら言う。


「そう?わたしには見慣れない色だし、あんまりいいイメージはないんだけど」


「え?きれいな色じゃないですか。確かにあまり見ない色ですが、穢れなしって感じで特別感ありますよ。いえ、まあ雷の巫女様自体が特別ですし至上なのは当然ですが」


相変わらずのわたしに対する神聖視に苦笑いを返しながら広間に向かう。


あ、そうだと思いつき振り返って言う。


「わたしのことは、アリサでいいよ」


「ですが、雷の巫女様にそんな·····」


「じゃあ、命令ね。わたしのことはアリサって呼んで」


「······それでは、アリサ、様」


「むー。まあ今はそれでいいかな」


惜しいっと思ったけれど、今でも不承不承といった感じだし譲歩を引き出せただけいいかと思い直し、再び広間に歩き出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



広間につくともうグラセフさんは席についていた。

朝食を食べながら街の者たちの状況や、農場に行った者たちの陳情などを聞いていた。


「ーーーというわけなのでこちらにゴーレムを数体回してもらえると」


「それに関してはわかった。あとさっきのことだけどーーー」


「はい、それについてはーーー」


「ーーーーーで」


「ーーーーーーのほうがーーー」


「いえ、そうするのでしたらーーーーー」


30分ほどでそれも終わり、後のことはグラセフさんに丸投げすると、自室に戻ってきていた。そのままのんびりと渋っていたアルマと一緒にお茶をしていると、突然激しい鐘の音が鳴り響いた。

カンカンカンカン、カンカンカンカンと四拍子で鳴り響くこの鐘の音は


「緊急、最優先の合図!?」


「アルマ、わたしも出ます。着替えを」


「はい!」


数分でラフな部屋着からいつもの緋袴に矢絣の振り袖に着替えて、<天祗>を持って、鐘の音が鳴っている東門に急いだ。

屋根の上を走って東門につくと、そこからは数万人は下らないだろう集団がいくつもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る