第3章 かふぇ・れいんの新たな仲間
第1話 もちぱふぇ
雨が静かに降り、晴れ着姿の人々が傘を差しながら足早に歩いていく元日、雨の日限定で開店をしている『かふぇ・れいん』では夕雨と雨月が普段と変わらぬ様子で仕事をしていた。
「年明けですけど、やっぱりこうして働いてるといつもと変わらない感じでホッとしますね」
「そうですね。年神様がいついらしても良いように準備はしていますし、それ以外はいつもと変わらないので穏やかな気持ちになります」
「色々なお客さんが来るかもなんて話してましたけど、今のところ来る気配はありませんし、この後が忙しくなるかもしれませんね」
「はい。ですが、そうだったとしても私達のやる事は変わりません。夕雨さん、今年もよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします、雨月さん」
二人は笑い合うと再び作業を始めた。すると、ドアベルを鳴らしながらドアが開き、雨仁と雨花を連れた創地と年神が中へと入ってきた。
「いらっしゃいませ……おや、天雨さんに年神様、それと……」
「あれ、
「あ、はい……お久しぶりです」
「何の連絡もせずに来たのは済まなかったな、二人とも。とりあえずこの二人について話を聞いてもらっても良いか?」
「はい、構いませんよ。では、どうぞお座り下さい」
その言葉に頷くと、創地は年神達と共に並んで座り、全員が座ったところで夕雨が創地に話しかけた。
「それで、いきなりどうしたんですか? まあ天雨さんが抜き打ちで来るのはよくある事ですし、年神様が新年にいらっしゃるのはわかっていた事ですけど……」
「それなんだがな……夕雨、雨月、この二人をここの後任として育てながら保護者として預かってはくれないか?」
「え?」
「以前からお話をしていた後任の方の件ですね。ただ、保護者として預かるというのは一体?」
雨月が不思議そうに言うと、年神は小さく息をついた。
「簡単に言えば、こっちの雨仁は唯一の身寄りだった祖父を亡くして天涯孤独の身になっていて、雨花は自分の道に迷っているのだ」
「雨花……? あれ、名前は小花ちゃんだよね?」
「それは過去の名だ。お前達も恐らく知っていると思うが、雨花は一人前の神となるための修行をしていた。だが、その修行が中々上手くいかなくてな。自分に司る事が出来る物がないのではないかと考えて、すっかり自信を喪失してしまったのだ」
「そうでしたか……」
「そこで、それを聞いた俺が雨花を一度修行から帰し、俺が一時的に預かる事にしたんだ。それで、以前ここで知り合った際に聞いておいた情報を元にして創地のところに行き、事情を話したら雨仁の話も聞かされて、それならば二人揃ってここの後任として育てていけば良いのではないかという結論に落ち着いたのだ。身寄りも信頼出来る相手もいない雨仁にも頼れる相手が出来、雨花もその内に自分が進みたい道を見つけられると思ってな」
「因みに、雨花という名前はワシがつけた。元の小花から花を取り、お前達に共通している雨をつけただけだが、ここにいる存在としては雨がつく名前の方が相応しく感じたからな」
「天涯孤独の男の子と自信と進むべき道を失ってしまった女神……なんというか私達からすれば他人事ではないですよね」
夕雨の言葉に雨月は頷く。
「はい。それに、私は天雨さん達の考えを悪くないと思っています」
「私も同感です。雨仁君と雨花ちゃんはどう? 天雨さん達の考えは聞いてるんだよね?」
「……勝手に色々裏で進められていたから今更どうにも出来ないと思って諦めてるだけだ。俺は放っておいてほしいだけなのに……」
「私は天雨さん達の考えに対してありがたいと思う反面申し訳ないなという気持ちがあります。私なんかのためにそこまでしてもらうなんて……」
「……お二人とも、違う方向でだいぶ心がお疲れになっているように感じますね」
「たしかに……よし、とりあえず何か食べてもらってそれから話を進めましょう。という事で、やりましょうか。雨月さん」
「はい、夕雨さん」
二人は頷き合うと、作業を始めた。そしてその様子に創地や年神が満足げな顔をしていると、雨仁は信じられないといった様子を見せた。
「な、なんだこのスピード……」
「ああ、そういえばそれを説明してなかったか。二人は元祭神と元人間の半神半人なんだ」
「信仰が失われていった事で消え去りそうになっていた雨導月絆尊と日頃のストレスなどで壊れそうになっていた夕雨が雨の日に神社で出会い、雨導月絆尊の延命のために一体化した後にここに偶然来る事が出来た事で二人はこうして今も存在し、今は創地の後を継いで店を営んでいるのだ」
「あの時はちょっと自棄になっていたから気づきませんでしたけど、今思えば自分にとってメリットの少ない提案を受けましたよね、私って。まあ後悔はしてませんし、雨月さんと出会えなかったらそもそも今は生きてないので出会えてよかったと思ってますよ」
「私もですよ、夕雨さん。さて、そろそろ仕上げていきましょうか」
「はい」
夕雨が返事をした後、二人は作業を続けた。そして十数分後、四人の目の前にはフルーツなどが盛り付けられたパフェグラスと紅茶が注がれたカップが置かれた。
「もちぱふぇ、そしてこうちゃ。お待たせ致しました」
「もちぱふぇ……また変わった物を考えたな。名前の通り、白玉の代わりに餅が載った和風のパフェというわけか」
「その通りです」
「お正月から何か贅沢な気持ちになってもらおうかと思って考えたんです」
「たしかにこんなに食べて良いのかなって思っちゃうかも……」
雨花が少し不安そうな顔をすると、雨月はクスクス笑った。
「もちろん構いませんよ。では、どうぞごゆっくり」
「ああ。では……」
『いただきます』
四人は手を合わせながら言うと、添えられたスプーンを手に取り、それぞれのペースで食べ始めた。
「……美味しい。お餅のパフェと聞いてどんな物なのかなと思いましたけど、あんこと果物の相性も良い上にお餅がとてももちもちとしていて食べてて幸せな気持ちになります」
「……たしかに美味いけど、昨日食べた天雨さんの料理の方が美味い気がする」
「あ、天雨さんの料理食べたんだ。なに食べたの?」
「そばなぽりたんだ。パスタの代わりに蕎麦を使った物だが、思っていたよりも相性が良いから後でレシピを教えてやろう」
「はい、よろしくお願いします。さて、こちらのお二人の件ですが、私達でよければお預かりします」
「経験がない事なので色々大変だと思いますけどね。ところで、着替えとか私物とかはどうしてるんですか?」
夕雨の問いかけに年神は静かに答えた。
「俺の部下に運ばせてる。俺達が先に来たからそろそろ追い付く頃だろう」
「因みに、三が日が終わるまではワシもここに世話になるぞ。二人の部屋の準備などやる事は色々あるからな」
「あ、それならちょうどよかったです」
「ちょうどよかった?」
「天雨さんの料理を食べてみたいという方が近日中にいらっしゃる予定だったのです」
「ほう、そうか。それならば存分に腕を振るうとしようか」
創地が嬉しそうに言うと、夕雨は雨仁と雨花を見ながら優しい笑みを浮かべた。
「という事で、二人とも。これからよろしくね」
「は、はい……! こちらこそよろしくお願いします……!」
「……よろしく頼む」
雨花が緊張した様子で、そして雨仁がそっぽを向きながら答えると、雨月はその様子にクスクス笑った。その後も雨が降り続ける中、『かふぇ・れいん』の店内では雨花と雨仁がもちぱふぇを食べ続け、夕雨と雨月は創地と年神と共に話し合いを始めた。
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