最終話 あめのひかふぇ
ポツポツと小雨が降るある日、雨の日限定で開店をしている『かふぇ・れいん』の店内はいつになく賑わっており、その光景に夕雨と雨月は嬉しそうに微笑む。
「今日は賑やかですね。まあ、普通の店とかであれば、これくらいが望ましいんですけどね」
「ふふ、そうですね。それに、ここまでお客様が来て下さっているなら、“新メニュー”のお披露目にはピッタリだと思います」
「あ、たしかにそうですね」
雨月の言葉に夕雨が同意していると、それを聞いた
「え、新メニューがあるんですか?」
「はい。以前、
「それで、色々考えた結果、これかなと思うのが出来たんだ」
「そうなんですね」
「それで、俺達にどんなもんか意見をもらいたいってわけか?」
「そうですね。まだまだ試作段階ですが、お代は良いのでよければご感想を頂きたいです」
「因みに、飲み物が一つと食べ物が一つで、出来るならセットにしてもらいたいと思います」
「出来るならセットという事は、合わせた方が美味しい物なんですね……」
「そういう事なら断る理由はないな」
「そうだね。新メニューがあると聞いて、断れはしないよ」
「ふふ、皆さんの期待を良い方へ裏切れると思いますよ」
「雨で繋がってる私だからこそみたいな物ですしね」
「雨で、か……ふふ、たしかにここに来る人達は皆が雨に導かれてきたわけだからね」
「そうですね。そして今日も雨に導かれてきたわけですし、その新メニューとの出会いも良い物になると思います」
「この『かふぇ・れいん』の新メニューとの出会いなら、ちゃんと迎えたいところね。もしかしたら、これからも長い付き合いになるかもしれないし」
「はい。私達も新メニューは皆さんから長く愛されて欲しいと思っていますよ」
「こうして雨の日に来て、やっぱりこれだなと思ってもらえるようにはしたいですね」
「つまり、お客様にとって定番のメニューにしたいわけか」
「そういうのがあれば、たしかに楽しいかもしれませんよね。ここに来たからにはこれは外せないっていう物があれば、お客さん同士その話で盛り上がれますし」
「本当であれば
「豊与世司尊様もお二人に顔を見せられない事を残念がってましたけど、その分私が楽しんでくるように言われました」
「そっか。それなら、私達も気合いを入れないとですね、雨月さん」
「そうですね。では、夕雨さん」
「はい、雨月さん」
いつものように多くは言わずに頷き合った後、二人は新メニューを振る舞うために準備を始めた。人間と神という異なる存在が一体化を果たした事で成立している言葉を交わさぬ見事な連携によってぶつかったり場所を使うタイミングが被ったりする事はなく、その光景に店内にいる客達は感心したように息を漏らす。
「……相変わらずすごいなぁ」
「一体化してる分、相手の考えがわかっているし、何度も特訓してるんだもんね」
「世の中、コンビネーションに優れてる奴らは多いだろうが、この二人を超える奴らは見た事はないな」
「私もです。こうやって人間と神様が一緒に頑張ってるのってなんだか良いなぁって思います」
「雨に導かれて救われた人間と神様が今度は同じように雨に導かれてきた俺達を救う。たしかに良いな、そういうの」
「うん、なんだか小説の中の登場人物になったみたい」
陽達が話をしながら眺める事十数分、それぞれの席に新メニューが置かれた。
「お待たせしました、あめのひかふぇとあめのひけーきです」
「雨の日……ふふ、なるほど。たしかにあめふりぱふぇと同じでこの店にピッタリの名前だね」
「これは……紫陽花のラテアートですか? それに、なんだかコーヒーの香りの他にほんのり良い香りが……」
「そちらは香り付けにバニラエッセンスを使用しています。ラテアートは
「なるほど……それで、こっちのあめのひけーきは見た目は普通のショートケーキに見えますけど、なんだか小さい水色の物が載ってますね」
「それは雨の雫をイメージした飴細工です。ホールであれば、カタツムリや紫陽花の砂糖菓子を載せられたんですけどね」
「……おお、スポンジの部分が綺麗な水色だ」
「それは水色の食用着色料を使ったんです。雨の雫の飴細工だけじゃ、雨要素が少ないかなと思って」
「これはたしかにセットにしたくなりますね。それに、見た目も綺麗なので女の子にも人気が出そうです」
「お褒め頂きありがとうございます」
「それでは……」
「「どうぞ、召し上がれ」」
夕雨と雨月が声を揃えて言った後、客達は嬉しそうに笑いながらあめのひかふぇとあめのひけーきを味わい始め、味や見た目について楽しそうに話すその様子に二人は嬉しそうに微笑む。
「皆さんに喜んでもらえているようでなによりです」
「ですね。でも、まだまだ改良点はありますし、もっと雨要素を増やしていきたいです」
「そうですね。それに、これからも私の力で縁が結ばれ、雨に導かれてここへいらっしゃる方もいます。夕雨さん、これからも様々な方の心の拠り所となれるように頑張っていきましょうね」
「はい、雨月さん」
雨月の言葉に夕雨が微笑みながら答えていたその時、入り口が開いてドアベルが鳴ると、驚いた様子で店内を見る傘を持った人物がいた。
「おや、新たなお客様がいらっしゃったようですね」
「そうですね。それじゃあ、雨月さん」
「はい、夕雨さん」
二人は頷き合った後、新たな客へ視線を向け、微笑みながら声を揃えた。
「「ようこそ、『かふぇ・れいん』へ」」
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