第3話 1/2 入学試験まで暇しなかったよ

 俺は今冒険者ギルドにプルメリアと来ている。旅に出る準備をする認識票作りの為だ。

 街から出て戻ってくるだけならその町の住人用の認識票で通行料はタダになるが、今後は色々な村や町に出入りするのにあった方が便利だからだ。

 こんなもん狩りを生業にしてない奴にしてみたら、身分証明書用の免許証みたいなもんだ。

「ではこちらにお名前と、前衛か後衛か、得意な武器や戦闘スタイルをお書きください」

 そう受付の女性に言われ、紙を受け取って空いている席に座った。

「んー。私に名字ってあるのかな? お父さんが持ってるけど、街の認識票には書いてないんだよね」

「ならそのままだ。偽名でも良いらしいが、本名の方が面倒が少ない」

「ふんふん。プルメリア……っと。前衛で、得意な武器は……素手?」

「俺に聞くな。その辺は更新手続きで変えられるから雑で良い」

「なら素手っと。得意スタイル? 近接戦ね。あー本当の年齢なんか覚えてないなー。どうしよう?」

「問題ない。ギルドの水晶に触れれば勝手に出るから空欄でも良い」

 一応ギルド職員の免許もあるので、俺が全部やっても良いが、こういうのは本人にやらせた方が思い出になるしな。

「できましたー」

「ではこちらの水晶に触れてください。産まれた時に測定した魔力を、過去の情報から引き出しますので」

 プルメリアは素直に出された水晶に触れると、受付側にあったタッチパネル風な厚い水晶っぽい板に情報が開示され始めた。

 本当このシステムすげぇよな。データベースがどこにあるのか知らねぇけど、まんまパソコンやタブレットだし。ってかいい加減プリンター作れよ。なんで未だに手書きなんだよ。

「ふーん。私百八十歳とちょっとだったんだ」

 どう見ても胸だけ発育の悪い十六歳前後にしか見えないけどな。

「過去の犯罪歴もありませんし、特に問題はありませんのでこちらの認識票をお持ちください。ランクなどの説明は今必要でしょうか?」

 受付の女性は認識票を笑顔で机に置き、説明はいるかと確認してきた。

「いりません。自分が説明しますので」

「一応職員からの説明が原則となっておりますので、お仲間の方からの説明は困るのですが……」

「冒険者ギルド職員の資格があるし、冒険者ギルドでの労働の経験もある。確認してくれ」

 俺は認識票を受付の女性に渡すと、眉間にしわを寄せながら水晶でできた四角い物に置くと、水晶の板に俺の情報が開示されはじめた。

「確かに冒険者ギルドの職員資格があって、労働や試験官の経験も実績もありますねぇ……。ならばルーク様から説明をお願いします。ではプルメリア様の登録は終了です。ありがとうございました。次の方どうぞ」

 受付の女性は認識票をプルメリアに笑顔で渡し、次に登録待ちをしていた人を呼んだ。

 ってか俺の経歴をまじまじと見るなよ。確かに五から六ページ分くらいある情報が出たけどさ、暇だから資格とか取りまくってた時期があるんだよ。仕方ないだろ? 暇だったんだから。

「お兄ちゃんって、旅に出てた時になにやってたの? 冒険だけじゃないっぽかったけど?」

「暇潰しになりそうなら、ある程度なんでもやったなー。王立の学校に通ったり、卒業と共にその国の兵士になったり。商人の免許を取るのに勉強したり、錬金術科のある学校に行ったけど商人の免許があるから、クラスメイトのポーションを禁止されてるのに商人ギルドに代わりに持ち込んでやったり」

 うん。結構面白かったのは確かだ。もう周りの年齢が高校生くらいだから、ノリはまんま高校を何回も通う感じで。ついでに魔法科と錬金術科、普通科の教員免許も取ったし。

「へー。私も入れるかな?」

「試験に受かれば誰でも入れるぞ? 受かればな」

「なら一回行ってみたいなー。良いかな?」

 プルメリアは顔を傾げて、可愛く聞いてきた。

「近所のお姉さんとかお兄さんから勉強を教えてもらってたけど、かなり別もんだぞ? 生きるために最低限の文字が読み書きができるとか、商人からお釣りを騙されない様にって感じじゃないけど、本当に良いのか?」

「うん! なんかお兄ちゃんが楽しそうに話してたから行きたい」

「お、おう……」

 確かに楽しい思い出だけどさ。平気かな?

「じゃ、最初の目標は大きい学校で」

 プルメリアはニコニコしながら言い、冒険者ギルドを出た。


「で、勉強できるのか?」

「普通のなら?」

「そうか。なら戦闘や魔法の訓練ある所でいいな。俺も何回か通ってたし」

 この国の、王立学校で倍率も高いけど。

「なんだっていいよー」

「なら最初はそこに向かうかー。冬も終わったばかりだし、試験に間に合うだろ」

 とりあえず最初の目標は決まったな。ここから馬車で四日くらい、徒歩で十日くらい行った場所に王都があったはずだから、急がなくても試験期間中に付くだろ。落ちても王立じゃないそれっぽい学校は王都にあるしな。



「ってな訳で、最初はこの国の王都、カーネリアンに行ってくる」

「そう。まずは必要な訓練って訳ね」

「プルメリアちゃんは十分に強いだろ? 種族的に」

「行きたいって言ってるんだから、別に良いんじゃない? 本人もノリノリだし」

 プルメリアは俺が作った問題を解いているが、前世基準で小学生を卒業してるなら難なく解ける問題をやっている。

 見た感じだが、頭の回転が良すぎて算数が少し苦手って感じだろうか? あとお願いだから数学や算数で多分は止めてくれ。

「種族的な長所短所を問題に持ち込むな。前提が崩壊する。ダンジョンへの長期探索の食料や軍の兵糧計算で、飢えに強い奴や大食らいな奴を考えるなよ。あとパンを作る小麦粉に、大麦やライ麦を混ぜて水増しすんな。与えられた数字だけで考えろ」

「えー、でも本当の事じゃん。人族だけの部隊とか今時いないし」

「ある意味種族的に平均的だし、数が多いからそう言う事にしてんだよ。そういう計算は専門家になってからやるから、学校の試験はコレで良いんだよ」

 プルメリアから返された問題を見て、俺はため息を付きながら答え合わせをしていく。

「長く生きてるから、そういう余計な知識が入っちゃうのねー」

「確かにエルフは小食が多いからな。けど他の実技で上位に入れば、問題ないぞプルメリアちゃん」

 母さんはニコニコとしながらお茶を飲み、父さんは超笑顔で親指を立てていた。

「近接戦はいいとして……。魔法はどうなんだ?」

「苦手かな? かまどに火を付けたり、水を出したりはできるけど、攻撃魔法ってなると……」

 プルメリアは手の平を上に向け、なんか濃い紫色というより黒色に近い火を出した。

「ちょっと待て。なんだそれ……。お前の魔法はどうなってんだ? 次は魔法を発動しないで魔法陣を見せてくれ」

 俺は少し困惑しながらプルメリアに聞くと、素直に見せてくれた。

「確かに火の魔法陣だな……。魔法理論や回路的には間違えてないはずだけど、なんで色が違うんだ? ちょっと触るぞ?」

 俺は眉間にしわを寄せながら指先で魔法陣を触り、魔力の流れを読んでみるが普通の魔力とは違う。何か違和感を感じる。

「魔力の質が違うのか? 式はあってるし、問題はない。魔法回路も問題ない。皆が出す火の色と違うからって、苦手意識は持たない方が良いな」

「本当? なんか失敗してるみたいで、間違えてるのかと思って恥ずかしかったんだよね」

 プルメリアは魔法を発動させずに、魔法陣を四散させて手を握ったり開いたりを繰り返した。

「一応魔法科の教員資格もあるから、間違ってない事は確かだ」

 魔法は魔法理論を覚え、式として魔法陣を脳内や空間に描き、魔力の無駄をなくしたりする事で効率を良くする。

 極端に言えば、広範囲の強力な魔法を使おうとすれば子供だって使えるになっている。魔力が足りなくて発動できずにぶっ倒れるけど。

 後は魔法回路が複雑になって、覚えられるか? って事になるだけだ。多少間違えてても、魔力の消費が悪くなるけど発動もする。

 つまり効率良く、魔力を無駄にしないで魔法を出せる事が魔法理論だが、上手い奴は回路を簡素化してオリジナルの魔法陣になったりする。

 やろうと思えばビームや銃みたいな魔法も出せる。発動場所を頭に持って行けばメン○ビームになる。俺だって少年漫画の技に憧れて、古い漫画のかめ○め波や霊○とか、山奥で一日だけ練習したし。

 結果的に言えば両方出せたけど、魔力効率が悪い魔法陣だから、練り直しがかなり必要になる。なので本格的にまだ研究はしていない。

 だから魔法を研究している奴らは、エンジニアみたいな感じだと俺は思っている。

「じゃあさ、ルークは先生になるの?」

「ならないな。もう一回試験を受けて、比較的苦手な教科や属性魔法を基礎から学ぶと思う」

「ふーん。なら一緒のクラスになれるかな?」

「基本最初の一年は大ざっぱに分けられるから、実力が同程度なら可能性は高いなぁ……。力のない貴族が無理矢理親のコネで上級クラスに入る事は別な学校であったけど、足引っ張りまくりで、上辺だけ仕方なく付き合ってた奴が多い。ちなみに今度通う予定の学校は、完全実力主義だな」

「んー。近接の実技だけで行けるかな?」

「俺はプルメリアの実力に合わせるよ」

 俺はお茶を飲み、数日後に旅に出る準備を始めるので席を外させてもらった。



「じゃ、行ってくるよ」

「行ってきまーす」

「多分引っ越さないから、安心して戻ってきなさい」

「長寿種なんか、死ななければどうにでもなるしな」

 三十年くらい旅してこいとか言っていたが、見送りの挨拶が超軽い。たしか五十年前も似た様な事を言われた気がするな……。

「ムーンシャイン、荷物は頼むぞ」

『了解』

 俺はムーンシャインの首筋を軽く撫で、正門ではなく王都側の門へ向かった。


 門番に認識票を預け、街から出た事を登録して街道をのんびりと歩き、通り過ぎていく馬車を何台も見送った。

「そう言えばさ、ムーンシャインちゃんは馬車に乗れないの?」

「乗れるには乗れるが、良い顔はされない。むしろ併走させられるから、可哀想になる。馬より遅いし、長く旅をしていると情が移ってな……。会話もできるからなおさらだ」

『疲弊』

「ふーん。のんびり旅ができるのは、長寿種の強みだねー」

「けど今回はそれなりに早く行かないと、試験に間に合わない。今のペースなら間に合うけどな」

「どうしても荷物があると、積載できる動物が欲しくなる。そうすると馬車に乗れないのが欠点だな」

『無理して荷物背負ってる奴もいるがな』

 ムーンシャインの荷物の上に、いつも通り乗って休んでいるレイブンが後ろの方を見て言った。

「そうだな。旅の仕方はそれぞれ違うから、俺達には関係ない。多分隣町か、少し離れた村に商品でも売りに行くんだろう。駆け出し商人ってとこだな」

 俺はパンパンのリュックを背負っている人を見て、何となくで答える。

 旅をするには荷物が多すぎるし、テントっぽい物も見えない。だから野営をしない事が前提だろう。

「儲かれば馬とか買うのかな?」

「食べ物とかの維持費を考えたら、俺ならまずはロバだな。馬より歩くのが遅いから、液体とかも比較的運びやすいってのもあるし、荷物も多く載せられる。多分ムーンシャインに、プルメリアだったらこの状態でも乗れるぞ?」

『余裕』

「ほらな? 考え方によっては馬より優秀だ。ただ、水と食事の量が俺達より多いけど」

 可愛いし、体格辺りの積載量も多いからな。けど骨格的なもので、後ろ足辺りに乗らないと揺れるけど。

「じゃ、疲れたらお願いね」

『了解』

 プルメリアはムーンシャインの首筋をポンポンと軽く叩いてから、銀髪混じりのたてがみを撫でていた。



「一泊したい。一人部屋を二部屋か、ベッドの二つある部屋は空いてるか?」

 問題なく王都に着き、いつも通り身体検査を受けるが、俺と一緒って事でプルメリアも個室に呼ばれた。

 問題なさすぎて、両手を広げて脇の下辺りをポンポンとされただけで終わったけど。

「申し訳ございません。ダブルベッド一つの部屋しか空きがないのですが……」

 宿屋で受付をしていた看板娘? 女性が、本当に申し訳なさそうに言って、頭を下げた。

 ちなみに個室で検査を受けた時に、衛兵からおすすめの宿を聞いてここに来たが、あの衛兵ここの宿を勧めすぎじゃね? 部屋に空きが少ねぇんだけど。

「私は気にしないよ?」

「俺がするんだよ……。お前と一緒のベッドで寝たら、襲われそうで怖いんだよ」

 今まで別の部屋だったから良いけどさ、ここに来てシングルもツインもないのかよ。

「うちの壁は他より厚いので、多少なら問題ありませんよ」

 カウンターでそんなやりとりをしたら、受付の女性がニコニコしながらふざけた事を言ってきた。そういう意味じゃないんだよ。本当に襲いかかってくるから怖いんだよ……。

「襲わないか?」


「…………襲わない」

「即答しろよ。はぁ……ソレを一部屋で」

 俺はため息を出しながら指を一本立て、ダブルの部屋を頼んだ。襲いかかってきたら殴ってでも止めよう。止まるか怪しいけど。

「かしこまりました。お食事の方はどうしますか?」

「夕食と朝食を付けてくれ」

「かしこまりました。では銀貨一枚です。夕食は今からでも大丈夫ですが、お荷物を置いてきた方がよろしいですね。朝食は六時頃……。教会の二回目の鐘が鳴ってから可能ですので、部屋の鍵を給仕に見せて下さい。お酒は別料金になりますのでご注意くださいね。では係りの者がお部屋まで案内します」

 カウンター脇で待機していた女性がこっちにやって来て、手の平を上に向けて階段の方を指したのでそれに従って部屋に向かった。

 時間の事だが、過去の転生か転移者が概念と技術を持ち込んだのか、一応ある程度広まっているが、さっきみたいに教会の鳴らす鐘の音とか、太陽の位置で言い表す事もある。本当ちぐはぐだ。


「で、酒は飲むのか?」

「飲まない。ってかあまり酔えないから飲んでない」

 今までの宿で酒の事を聞かれなかったので、なんとなく聞いてみたがプルメリアは酔えないみたいだ。

「毒も効きにくいって奴か? なら俺も飲まないでいいか。レイブンはどうする? 付いてくるか?」

 俺の頭に乗っていたレイブンにも一応声をかける。こいつは結構場の好みが激しいから、聞いておかないと急に食事を用意する事になるし。

『猫がいたから行かねぇ。あいつずっと俺の事見てやがった』

「そうか。ならテーブルにおいて置くぞ? 散らかすなよ?」

 カウンターにいた時から頭に乗っていたが、何も言われなかったのでペットに関して問題はないはずだけど、暇潰しで変な遊びとかカラスは平気でするからなぁ。

『わかってるよ。いいからさっさと食ってこい』

「あいよ。絡まれなければ問題なく済む」

「良い子にしててねー」

 プルメリアはレイブンの頭を撫で、くちばしを人差し指でくすぐる様に撫でてから俺の後に付いてきた。

「宿に酒場が併設されてるのか。だから鍵なんだな」

 先ほど給仕さんが来て、オーダーを取ろうとしたが鍵を見て、宿泊の方ですねと言って引っ込んでいった。

「提携って奴?」

「どうだろう? これだけ大きいと最初からコレを想定してた感じだから、家族か親戚の一族経営の可能性もあるな」

「そう言うのもあるよね。一族で横の繋がりは大切だし」

「揺り籠から墓場まで。ってのが理想だな。産婆、教師、錬金術師、教会関係者。コレが一族だと安定するだろう。そこに細々した色々な職種の親戚が増えれば、ある意味最強だな。一生食うのには困らないだろう」

 子供が産まれ、何かあればポーションで回復、そのうち勉強も必要になり、最後には墓場。本当に良い流れだと思う。

「だねぇ。そこに鍛冶師とか商人が加われば一生お世話になれるね」

「だな。まぁ、俺は全部一人でできるけどな」

 俺はにやけながら答えた。なんでできるかって言うと、暇だから全部資格を取った。出産に関しては産婆さんがいない寒村で、仕方なく知識だけで補佐したけど。

「お待たせしましたー。こちら宿の夕食となっております」

 給仕さんが夕食を持ってきてくれたので、そこで会話を一端止めて配膳されるのを待った。

「んー、お兄ちゃんはやっぱり凄いね。何でも挑戦してるんだね」

「資格や免許は重くない武器だからな。あれば何かでは生きていける」

「んっふっふ。なら私はお嫁さんって事で、料理をがんばらないと」

「俺より上手くなってから言ってくれ。とは言ってももうそれなりだから、二年三年作ってれば追いつけるだろ。んじゃ、いただきます」

「いただきまーす」

 食堂や酒場で短期労働の経験もあるから、教えてやれるってのは黙っておこう。一般大衆向けの安定した味より、プルメリア個人の味のままでいて欲しいからな。


「おう綺麗なねーちゃん。ちょっと酌してくれよ。一杯だけで良いからよー」

「へへへ。こんなべっぴんさん滅多にお目にかかれねぇーぜー」

 軽い雑談をしながら夕食を食べていたら、酔っぱらいに絡まれた。まぁこの世界では良く見る光景なので、俺は気にしてはいないが……。

「あ、はーい。こぼさないで下さいねー。ドワーフ流で良いですかー?」

 プルメリアは酔っぱらいから笑顔でを受け取ると、不穏な言葉を口にした。

 まぁ即喧嘩腰じゃなくて良かった。この男達が体に触ってたらヤバい気がするが。

「はぁー……」

 俺は眉間を揉みながら盛大にため息を吐いた。ちなみにこれからの事が想像できるからだ。

 そしてプルメリアは笑顔のまま酒をつぎ始め、持っていたカップからあふれ出すまで注いだ。

「あふれるまで注ぐのがドワーフ流。こぼれるまで注がないと、注いだとは言わないらしいですね。はーい、もう一人の方もー。あれあれー。お酌してあげたんだから、飲み干して下さいねー」

 プルメリアは笑顔だったが、赤い目が笑っていなかった。

「私とお兄ちゃんの食事を邪魔したんだから、そのくらいは飲み干して、こっちの事も楽しませて下さいよー。いっき! いっき!」

「お、おう……」「あぁ……」

 酔っぱらいは最初の勢いをなくし、なんか震えながら酒を一気に飲み干していた。可哀想に……。

「あれれー。ごちそうさまが聞こえないなー。もっと飲みたいんですねー」

 プルメリアはニコニコとしながら、もう一度カップにこぼれるまで酒を注いだ。

「はい。いっき! いっき!」

 今度は手拍子まで付けて、どんどん煽って飲ませていた。

「「ごちそうさま!」」

「顔が嬉しくなさそうですねー。足りなかったんですかー?」

 プルメリアは酒壺を傾けると、男達は酒壺を奪って逃げていった。

「どこでそんなの覚えたんだ?」

「お母さん。なんか良く酒場で絡まれてたみたいで、ああやると酒に強い種族以外は逃げてくから、覚えておきなさいって」

「そうか……。面白い方法だな」

 途中からパリピ風で、ウェーイな人達には受けそうな雰囲気だったけど、あんな事されたら普通なら逃げたくなるわな。ドワーフ流は知ってたけどさ。

「うん。本当に逃げてったから、お母さんの言う事は正しかった」

「プルメリアの雰囲気とか、目が笑ってない圧力だろ? まぁ、今後滞在する王都で、即衛兵の世話にならなくて良かったよ」

 俺はそう言い食事を再開した。あのまま喧嘩になってたら、俺は手を出さなくてもつれて行かれただろうし。


「はいよ、過去に受けた問題と、俺が試験問題として作って採用された奴だ。とりあえずやってみろ」

 受験対策で過去問を個人的に作ったが、教員資格もあるので俺ならこう出す。って感じで宿に寄る毎にちまちま作っていた奴を、王都に付いたって理由でプルメリアに出してみた。

「はいはい。とりあえずやってみるね」

 プルメリアは答えを別な紙に書き始め、特に詰まる事なくペンが進んでいき、制限時間内に終わらせて見直しまでしている。良い事だな!

「ん? 歴史で違うところがあるぞ? こことここだ」

 とある場所の国境沿いの小さな小競り合いから、大きな戦争になったきっかけの所や、ちょっと話題になった事件やら、どういう感じで国ができたかってところが間違っていた。

「え? この事件になった時、お父さんが近くにいたらしくて、直接聞いてたからコレで間違いないはずだけど?」

「歴史は勝者が作るって奴だな。実際はそうかもしれないが、学校でこれは相手側が切っ掛けって事になってるんだよ」

 長寿種あるあるネタが歴史に響いてるな。実際に見ていた。その場所にいた。ってのがあるから、ちょっとした違いが出ちゃうんだな。

「んー。俺が教師してた時には、こういう事はなかったからな。試験前に聞いておくしかないか?」

 そんな事を言いながら俺は採点を続け、このまま間違えていても他の教科で、合格ラインには余裕で届いている事がわかった。

 プルメリアって、意外に高性能なんだよな……。

「このままでも合格できそうだけど、どうする?」

「んー。歴史をねじ曲げられてたらどうにもならないなー。間違えた場所だけ覚えればいいよね?」

「んーそうだなー。それが一番早いな。悪いけどそうしてくれ」

 とりあえずそういう方向で行く事になり、試験勉強を続けることにした。



 王都に滞在して五日。プルメリアに襲われる事はなく、俺は無事に試験日を迎えられた。もちろんツインの部屋が空いたらそこに移ったけど。

「結構並んでるねー」

「この国で入学が一番難しいとされてる王立の学校だ。卒業時に成績上位者にはエリート軍人コースが約束されているし、普通の成績で卒業しても、騎士団やら魔法部隊とかに試験なしで入れるくらい優遇されるから必死なんだろ」

 俺達は買った昼食とペンケースしか持っていないが、他の奴等は分厚い本やら剣や杖を持っていたりで、こっちがかなり場違いな感じがする。

「んー。興味ない。私は学校に通いたかっただけだから」

 試験会場の受付列に並んで待っている時に、何となく立ち話をしつつ辺りを見回すが、本を読み返したり、ぶつぶつ魔法理論を呟いている奴が多かった。

「次の方」

 呼ばれたので受験料の銀貨を五枚テーブルに置いた。

「はい。これが受験番号ね。試験会場は看板に従って。次の方」

 プルメリアも俺と同じ感じで受付をすませて、横に駆け寄ってきた。

「一番違いだね」

「一緒に並んでたからだな。んじゃ向かうか」

「おー! 目指せ合格!」

「落ちても別な学校があるし、気楽にな」

 俺達は看板にしたがい、教室に入って待機する。ちなみに席は隣だった


「私が試験官だ。お前達は一般だから名前ではなく受付番号を書けばいい。不正行為は一発で失格だ。午後は実技になるから、昼休憩を挟んで闘技場に向かう事。以上だ、何か質問は? ないなら今から問題用紙を配るが、鐘が鳴るまでは表側を見るなよ」

 試験官はそう言って、副試験官と腕章がしてある人が問題用紙を配り始め、しばらくしてから鐘が鳴ったので、配られた問題用紙を表側にして受け付け番号を書いてからページをめくった。

 これ、俺が考えた引っかけ問題じゃねぇかよ……。まだこの問題出してんの? 進○ゼミでやった奴だ! ってレベルじゃねぇぞ?

 そんな事を思いつつも、どんどん答えを書いていく。楽勝すぎて後半は見直しが終わったら、ぼーっと試験官を観察してたら気まずそうに何回も目を反らされたわ。

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