第2話 2/2 久しぶりの故郷? なんかモップが襲い掛かってきたんだけど?
こちらは前後編の後編です。先に同時投稿された前編をお読みください。
――――
翌日。朝食を済ませてのんびりとしていると、プルメリアがやってきた。瞳を見ると金色に戻っており、言っていた事は本当だと思いつつ正面に座って、母さんからお茶をもらって飲み始めた。
「でー。今日は買い物で良いのかな?」
「あぁ。旅に必要な物を揃えるつもりだ。その服だと問題があるだろ?」
足首くらいまでの編み上げブーツはいいとして、シャツだかブラウスは生地が薄いから問題がある。腰くらいまである黒のワンピースだかキャミソールワンピースも黒のスカートも、ヒラヒラしてて引っかけて切れそうだし、肌の露出も多少ある。
「んー。そうかな? コレって気持ち悪いくらい汚れないし水を弾くの。汗の臭いとか体の汚れもね。しかもその辺の木に引っかけても、枝が根本から折れるくらい頑丈なんだよね。それでも必要?」
その布何でできてるの? 未知の素材? ヤバイ物じゃないだろうな?
「虫とかに刺されたり、毒草とか擦り傷にならない様に肌はなるべく晒さない方がいい」
「んー。ここ最近虫に刺された事ないし、包丁使ってて間違って指切っても刃が欠けるけど……本当に必要?」
「マジかよ……。どんな体の構造してんだ。ってか頭突きしても鼻血でてなかったしな……。母さんに吹っ飛ばされても、ガラス片で傷もなかった気がする……。あれ? もしかして分厚い服や防具関係は必要ない?」
「試してみる? 多分必要ないよ?」
「必要ないと思うわよ。だって指を切ったのうちで料理してる時だし、一緒に買い物してる時に、野菜満載の木箱から出てる釘に引っかけても引きずってたし。ちなみに包丁の切れ味は保証するわ。私が砥いでるし」
母さんの言葉にプルメリアは笑顔で顔を縦に振り、指をクイクイとしたのでカランビットナイフを渡すと、前腕に結構勢いよく振り下ろしたが刺さらずに、ペキッと小さく嫌な音がした。
そして立ち上がって少しスカートの裾を持ち上げ、刃の部分を当てて前後に動かすが切れず、お腹の辺りを突き刺すが突き抜けていなかった。
「ね。平気でしょ?」
「あぁ。平気だな……。ってか下着が見えそうだから、裾をそんなに持ち上げんな」
「絶対に見えないから平気。だって穿いてないし」
プルメリアは滅茶苦茶良い笑顔で言ってきた。ってか何言ってんだこいつ……。
「そうか、おもしろくもない冗談は止めろ。ってかナイフ返せ」
俺はプルメリアからカランビットナイフを返してもらい、刃先を確認するとやっぱり少し欠けていた。カッターナイフを折る様な音が聞こえたから、もしかしたらと思ったけど、本当に折れてたわ。泣きたい……。
そしてテーブルを低い位置から覗く様にして、金属片を見つけて指で強く押さえて指先を確認すると、小さな刃先が付いていたのでトレーの上に落とした。
「じゃあ……武器か? 何を使うんだ?」
「折れるし曲がるからいらないかなー」
プルメリアは首を振り、武器はいらないと言った。武道家でも何か拳につけるぞ?
「なら日用品か……。簡単に揃いそうだし、もう少ししたら出よう」
俺は考えるのを止め、ため息をついてお茶を一口飲んだ。
「でー。ナイフやら毛布やら寝袋は必要だから買ったけど、一人増えたところで今のフライパンや鍋でも問題ないし、テントは最悪交代で見張るから大きいのは必要ない。ランプもいらないし……。出発する時に食材だけか……」
買い物に出たのはいいが、買う物がそのくらいしか思いつかない。
「あー下着買わないと」
「あぁ、そうだった。服は必要ないが、下着の替えやブラウスは必要だな」
「うん。あと今日穿くやつも」
「お前。本気で今日穿いてないのか?」
隣を歩くプルメリアを見ずに、正面を向いたまま何となく返した。
「うん。今まではその日穿いてた奴を洗って、干してたのを穿いてて、予備に一枚あったんだけど、この間穿く時に足を引っかけて破いちゃった」
「女として、予備を含めて三枚ってどうかと思うぞ? ってかその話だとあと一枚あるだろ。どうしたんだよ?」
「あ、いや。おばさんに蹴られた時に地面を転がって、気が付いたら腰の所が破れてた……。そのまま穿いてると落ちそうだったから、今日は穿いてない」
「そうっすか」
「そうっす」
『人型って不便だな』
「そうだな。隠さないといけない場所が多い。お前等は冬毛とかあって便利だよな」
『モッフモフで濡れたら重いけどな』
「けど冬毛の動物って可愛いよねー。抱きつきたくなっちゃう」
「犬とかな。寒い地域の奴なんかモフモフで良いな。砂漠地帯のは毛が短かったりなかったりで、少し気持ち悪いのがいるけど……」
サモエドとか、スフィンクスとか。
「ってかおじさんが送ってきたのは服だけか?」
「娘に下着を送る実の父親ってどう思う?」
「……あまり関わりたくない」
「でしょ? その辺はわきまえてると思うよ? けどお母さんには派手な下着を送ってきてたけど」
「まぁ、自分の妻だしな。穿いて欲しい下着くらいは送る……か?」
セクシーな下着とかを送って、俺の渡した奴を穿いてくれてるなんて嬉しいじゃないか。とかエッチな動画や本みたいな事を言うんだろうか?
「ってな訳でー、下着を売ってる服屋にも行かないとねー」
「おう。行ってこい」
「お兄ちゃんも来るの! ってか選んで!」
プルメリアはそのまま帰ろうとする俺の手首を掴み、多分服屋のある方に歩き出したので、抵抗しても無駄だと思って引きずられる様にして歩いた。
『メスの方が強いのは人型でも同じか』
「ノーコメントで……」
レイブンにも突っ込まれ、ある意味本当なので答えを濁しておいた。
「いらっしゃいませー」
店員が女性で、いかにも女性服専門店です的な店に引きずりこまれ、辺りを見回すとカラフルな色から黒やら紫の布が少ない下着が飾ってあった。
「んー。どんなのが良いの?」
プルメリアは下着の方を指さし、俺に聞いてきた。俺がどんな物を穿いて欲しいかに聞こえるな。
「露出が少なく生地が厚い奴。後は肌触りとか汗を吸収してくれる繊維。色は汚れが目立たない物なら何でも良いんじゃない? 白だと……ねぇ?」
黄色いシミとかアレだし。
「ふーん。服に合わせて黒かなー? なんか黒だと派手なのしかないなー」
「この下着っぽいホットパンツでいいんじゃないか? ん? ホットパンツっぽい下着か?」
まんまボクサーブリーフっぽい奴。スポーツショーツって奴? 一部丈とか言っても通じないだろうし。
「えー。なんか可愛くないからやだ」
「冒険に可愛いは必要ない……。ってかヒラヒラしてるんだから、見られても良いのにしろよ」
見せパンみたいな物はないから、国民的アニメの次女みたいに見せっぱなしな感じな雰囲気になるのか?
「えー。どうせ見られるなら、この普通ので良いんじゃない?」
「紐パンは普通じゃねぇよ。ってか絶対に紐が解けて大変な事になるぞ? ならこっちのフレアで良いじゃん。スカートの下に、短い何かを穿いてるみたいだし」
「なら普通に買いたい下着買って、上着に似合うスカートを買うし」
「俺、必要なくね? あー、めくれても目立たない様に、この黒でいいんじゃね?」
俺はなんとなく陳列してあった、普通と思われる装飾のない下着を掴んだ。こんなもんただの布だし、未使用品なんだから恥ずかしがる必要はない。
「可愛くないから、こっちの黒でいい?」
「好きにしろよ。女性物の下着は良くわからん」
「なら、穿いて欲しいのはどれ?」
プルメリアはニヤニヤしながら聞いてきた。
ってかさっきから店員さんもニヤニヤしっぱなしだ……。
「んー。ならこの生地が厚くて強固な作りの黒だな」
「なら普段はこれかー。休日とか宿に滞在中は?」
「どうせ可愛いのとか言うんだろ? だったらさっき選んだ紐パンの黒で良いだろ」
「なんか適当じゃない? しっかり選んでよ。もしかしたら脱がせるかもしれないんだよ?」
「あ? ならソレこそ紐だったら直ぐだろ。扇情的に誘う胸もないし、最悪その過程をすっ飛ばしてそっちから襲ってくるんだから、装飾も多い奴とかは必要ないだろ? ってか上は選ばないのか?」
下ばかり選んでいるので、気になったので聞いてみた。
「付けてないからいらない」
まぁ、必要なさそうな大きさではあるが……。なんか服に突起が出ててもあれだし、一応言っておくか。
「付ける必要ないくらい小さくても、乳首が浮くだろ。それと擦れて痛くなるぞ? ワンピースだかキャミソールを着ないでブラウスだけの時とか。後は小さくても付けてないと形が崩れるぞ?」
もっともらしい事を言って、選ばせる事にした。多分擦れても痛くないだろうけど。
「ならこの肌触りの良い、なんかぴったりしてる奴」
「いいんじゃね? ってか乳首が黒くなりたくなければ付けろ。ブラウスだけの時に穿く奴は? スカートとか」
色素の沈着? 肌を強くするのにそうなるんだっけ? まぁ、出産するまでに黒くなるのは誰だって嫌だろうしなぁ。
けど二百年生きてて、変わってないなら平気なのか? そういや母さんに授乳されてた時、黒くなかった気がする……。不思議生物満載のファンタジー世界?
「じゃー、これください」
プルメリアはそう言って、追加で黒色や茶色系のスカートを数枚選んでいた。
「ありがとうございます。今お包みしますね」
「あ、一枚はここで穿くんで」
俺は買った物を全て包もうとしている店員さんを止め、紐パンを一枚掴んだ。
「え゛ぇ?」
店員さんは片目を細め、接客業の人が出しちゃいけない様な声を出した。
「こいつ、今ちょっとした理由で穿いてないんですよ」
俺は親指でプルメリアを指し、あきれた感じで言った。
「馬鹿! ここで穿くんじゃねぇ! 試着室に行け!」
店員さんの前で片足を上げたので、俺は注意して奥にある試着室の方を指さしたら、プルメリアはニコニコとしながら走っていった。
「はぁ……。女って事から教えた方が良いんだろうか? 今後注意するだけで疲れそうだ……」
「あの。失礼ですがどの様なご関係で? いえ、ただ個人的に気になったもので……」
「女しかいない家庭で育った、しばらく会ってなかった幼なじみです。旅に一緒について行きたいって言うので買い物をしてましたが、下着を三枚しか持っていなくて、全て洗濯中で今日は穿いてないそうです。ふわふわしてるので多少アレな感じですが、店でもあんな感じだとは……」
一応簡単に嘘も混ぜつつ説明し、誤解を解いておく。じゃないと変な噂が立ちそうだし。直ぐ出て行くけど俺の家族がね?
「穿いてきたよー。これでめくれても黒いから、服と同化して下着って意識されにくいんだよね?」
プルメリアはその場で回り、スカートの裾をふわりとさせた。
「今のじゃ見えないが、見えたとしても裾と勘違いされるから良いんじゃね?」
俺は適当に答え、一応買った物が入っている紙袋を持ち、店員さんに苦笑いしながら退店した。
「はぁ、なんか一気に疲れたわ。もう買う物もないし、さっさと帰ろうぜ」
「そうだね。とりあえず私は家にある着替えだけ詰めれば、もう出られるよ」
「予定ではまだこの町にいるから、数日以内に冒険者ギルドで認識票でも作っておけばいいさ。少しのんびりさせてくれ」
「はーい」
『ずいぶん疲れてるみたいだけど、中で何があったんだ?』
プルメリアはウキウキしながら歩いているが、レイブンは不思議がっていた。
「鳥類には一切関係ない悩みだよ……」
『そうか。人型は大変だな。お、くれるのか?』
俺は待っててくれたレイブンに、ナッツを手の平に乗せて与えて黙らせた。
「なにやってんの?」
家に着いたら、母さんがムーンシャインのたてがみと尻尾に、プルメリアの髪を編み込んでいた。
「んー? 家の前を掃いていたら、この子が自分にも付けて欲しいって言うもんだからね」
『秀麗』
「そうか。ロバ的にどうなんだ? やっぱり異性にモテるのか?」
『絶大』
「……そうか」
「でー、ちゃんと買えたの?」
「あぁ、もう出られると言っても良いくらいだね」
「下着も買ってきたんですよー。んふふー。黒ですよ! 黒!」
プルメリアは、俺の持っている紙袋を開けて、今穿いてない方の紐パンを取り出して母さんに見せていた。
「あらー。大胆ねー。選んだのはルーク?」
「色々省くけど、紐を選んだのはプルメリアだ。ってか家の前で女性物の下着出して、キャッキャウフフしないでくれ。羞恥心って物も持ってくれよ……」
俺は痛くなりそうな頭を押さえ、家の中に入ったらなんか滅茶苦茶かっこいいエルフが俺の弓を引いていた。
「何やってんの父さん……」
「ん? おもしろ……良い弓だなって思ってな。どうなんだコレ?」
父さんは弦をミョンミョンと弾いたり、水平機を指でつついたり、照準機を覗いたり前後させていた。ってか面白いって言おうとしたな?
「鹿の体を貫いて、地面に半分以上矢が刺さる。熊も毛が厚い所でも半分は確実に刺さる。
「ふーん。いいなこれ。弓本体は軽いし、引きもそれほど重くないし、特別な素材って訳でもないのにそんなに威力が出るのか。ちょっと射らせてくれよ」
「どこで射るんだよ……。危ねぇって」
「兵士の訓練所があるだろ? そこで。んじゃ行くぞ」
久しぶりに息子の顔を見たのに、会話がこの弓どうなん? ってどうよ? これがエルフの感覚なんだろうか? ってかもう出ちゃったし……。
「新しいおもちゃを買ってもらった子供かよ……」
俺はため息を吐きながら玄関を出ると、下着を持ったプルメリアと母さんがまだ道路でキャッキャウフフしてて、父さんが下着を見て似合うぞとか言いながら、良い笑顔で親指を立てていた。
酒場とかでウエイトレスさんのお尻を触ったりで、セクハラって概念がないからって、見た目二十歳くらいのイケメンエルフが、二百歳も歳が離れてる女性にそんな事言うなよ。
「ってか母さん、父さんが帰ってるなら言ってくれよ。こっちは久しぶりなんだからさ」
「あら、そうだったわね。討伐に出かけてたのが十日くらいだから、気にもとめてなかったわ。ごめんね。けど五十年くらい父さんはなんとも思ってないでしょ?」
母さんは父さんに確認する様に聞いているが、本当にどうでも良さそうだ。
「あー……五十年も出てたんだっけ? 特に気にしてなかったな。もう隣町に買い物頼んだ感覚で、昨日会ったみたいに普通に接しちゃったよ。そうだそうだ、たくましくなったなルーク。その髪型は斬新だな!」
もうやだこのエルフ……。なんで五十年が数日の感覚なんだよ。
「この髪型で顔を売ってたから。この間もこの髪型のエルフってなだけで、十年前くらいに縁のあった人族と再会したよ」
「エルフは長寿種だからな。こっちは向こうを忘れることも多いし、美男美女が多いからエルフで一括りにされるしな。けど向こうから声をかけてきたら、何となくは思い出せるもんだ!」
父さんは笑っているが、本当の事なので何とも言えないのは確かだ。子犬ちゃんだって、何となく面影があったからな。
「じゃ、訓練所に行くか! ちょっと行ってくる」
父さんは良い笑顔で、俺の弓を持ちながら訓練所のある方へ行ってしまった。
『お前の親父すげぇな』
「あぁ。俺が子供の頃から何一つ変わってなくて安心したわ」
『子供』
「男は皆、子供のまま見た目が大人になるのよー、ムーンシャインちゃん」
「ある意味否定できねぇ……。レイブン、来るか? 悪いけどムーンシャインは留守番な」
俺は眉間のしわを揉みほぐしながら答え、レイブンに付いて来るか聞いた。
「私も行く!」
プルメリアが持っていた下着を袋にしまい、玄関に置いてから手を上げて元気に答えた。
「なら私は昼食の準備ね」
『おもしろそうだから行く』
『了解』
「一気に賑やかになりそうだ……。じゃ、行ってくるよ」
「はいはい。そのまま狩りに行くとか言い出したら、殴ってでも止めなさい。帰ってきたばかりなのに、休もうとしないんだから」
母さんはため息を吐きながら、玄関の下着が入った袋を持ってキッチンの方に向かったので、俺は小さくなってる父さんの背中を追って小走りで付いていった。
□
「ふーん。こういう癖ね……」
訓練場に着き、父さんが偉そうな奴に借りるわ。と軽く一声かけて、勝手に弓兵用の射撃場に入り、目測三十メートルくらいの的に矢を射りはじめ、三本ほど矢を射ってからそんな事を呟いた。
そして四本目で的の中央に中て、五本目の矢を四本目の矢に中てて二つに裂いた。
「「「おぉー!」」」
訓練してた兵士達が驚きの声を上げ、拍手をしている。
「良い弓だな。これ、俺にくれよ」
「やだ。作るのにどれだけ苦労したと思ってんだよ」
「なら材料費と手間賃払うから、家族割で作ってくれ」
「色々な部分は消耗品で、俺が旅に出たら誰が作るんだ?」
「また旅に出るのか? だったら知り合いのドワーフに作らせ……る!」
そして話ながら父さんは、奥にある目視で百メートルの的に、一発で矢を命中させた。
「技術と機密の塊だよ? 大量生産はできないけど、その手の人にはある意味喉から手が出るくらい欲しい物なんだけど?」
「あぁ、実際に俺も喉から手が出るくらい欲しい……な!」
今度は一番遠くの、目視で三百メートルの的に中てていた。
数本でコツを掴み、二百メートルの的を飛ばして一発で三百メートルを中てるとか、父さんも化け物だな。長年生きたエルフってマジなんなの? 俺だってその弓に慣れるのに一週間かかったぞ?
「この変な棒が付いてる丸いのは良いな。どの距離でどの角度を付ければってのが直ぐわかるし、勘でやってたのが目である程度判断できる。けど最終的には風もあるからやっぱり勘だろうな」
父さんはそう言いながら俺に弓を返してくれたので、俺も対抗するのにスタビライザーを取り付け矢を魔石で生成し、父さんが使った三十メートルの五本目の矢を二つに裂き、リリーサーを使って百メートルの矢をかする様に当て、三百メートルの的にも中てておいた。
リリーサーとは弦を引く専用の道具で、指で引いて矢を放つよりブレが少なくなり、より安定する道具だ。
「お前も中々やるな。ってかそっちの棒は反動抑制用か。もう一回手に持っている奴も含めて貸してくれ」
俺は父さんに弓とリリーサーを渡すと、あまり狙わずに俺の射った矢を二つに引き裂き、もう一度三百メートルの的に中てていた。
兵士は口を半開きにして、俺たちのやりとりを見ているだけだった。
見ただけで反動制御用だとわかった父さんも凄いな。
「んー。この反動制御用の棒……いいな……。この弦に引っ掛ける道具も矢が安定する。本当冗談抜きで作らせたいくらいだ」
父さんは弓をまじまじと見てそんな事を呟いた。
「私もやろうっと!」
プルメリアがそんな事を言ったので、父さんが弓を渡そうとしたら足下にあった握りやすそうな石を持ち、なんか綺麗なフォームで投擲して、五十メートルの的を破壊した。
『化け物か?』
レイブンがそう呟きながら俺の頭に止まった。
「否定できない。けど人ってのは物を投げるのに特化した進化をしてるから、どの動物よりも物を投げるのが上手いのは確かだ」
「やるなプルメリアちゃん! 人の頭に当てたら確実に死ぬ強さだな!」
父さんは笑顔で親指を立て、プルメリアをほめている。胴体に当たっても肉を貫いて死ぬだろうけど。
「最近力が付いてきたので、こんなの楽勝ですよ!」
プルメリアは腕を水平に延ばし、ドヤ顔で力こぶを作るようにして曲げたが全然盛り上がっていない。ってか種族的な力の強さだろそれ。
「あの……的は直してくださいね?」
そして兵士が、青筋をおでこに浮かべながら超笑顔で言ってきた。
「人と同じくらいの太さの丸太か……。知り合いの建築専門のドワーフに言っておくから、それで許してくれ。もちろん金は払っておく」
父さんは親指を立てて超笑顔で言っているが、申し訳ないという気持ちが一切ないのが致命的だ。
「当たり前です! ってか小石で丸太を粉砕ってあり得ないですよ!」
「いやぁ、実際目の前で見ちゃったしなぁ。なぁ?」
「そうだね。申し訳ないって気持ちを、もう少し出した方が良かっただろうね。ってかプルメリアも謝れ」
「ごめんなさい。作業しやすい様に抜いておきますね」
「馬鹿! 今入んじゃねぇ!」
プルメリアはそう言うと射撃場に入っていったので、俺が急いで止めて、兵士さんが特定のリズムで笛を慌てて吹き、弓を射っていた全員の手が止まった。
「ったく……。こういうのは、矢を回収する時じゃないと入っちゃ駄目なんだよ!」
「ご、ごめんなさい」
その後、偉い兵士さんに三人でもの凄く怒られ、なんか知らないけど説明してなかった俺が悪いって事になり、初めて父親を恨んだ。
なんだよ。幼なじみってのを理由に俺に罪をなすりつけんなよ。言ってなかった俺と父さんの二人が悪いのによ……
その後、父さんにすまんすまんと背中を叩かれながら謝られ、プルメリアが丸太を片手で握りつぶす様にして指を食い込ませて抜き、数年は笑い話になるとか言いながら家に帰った。
○月××日
実家に帰るが、母さんは何も変わっていなかった。けどモップに襲われたのは驚いたけど、幼馴染のプルメリアだった。なんか俺が早く帰って来る様にって願掛けをしていたらしい。
プルメリアはハーフヴァンパイアを名乗り、夜中になるとヴァンパイアの力強くなるのか瞳の色が黄色から赤色になるらしい。
そしてその日の夜中にプルメリアに襲われた。いきなり窓を突き破って馬乗りされたが、頭突きを顔面にいれたが怯まず、本当に死を覚悟したくらいだ。ガチ襲いじゃなくて、性的な方で助かった。
○月××日
プルメリアとの買い物から帰ると、父親が帰って来ていた。相変わらずクソイケメンだが、超笑顔で親指を立てて笑ってくる。本当この人は五十年で何も変わってない。
そして俺の弓を勝手にいじり、この弓良いな。とか言いながら兵士の訓練施設にいき、数本矢を射って、中った矢に矢を中てる曲芸をしだして、皆を驚かせていた。
俺もできるので対抗して目視三百メートルを一発で中て、一応成長した事を見せたんだけど真剣に弓を見て、譲ってくれとか言い出した。マジで勘弁だ。これは技術の塊なんだよ。
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