第57話~歩き回る子供~
久しぶりの新幹線だ。
俺は一人の刑事であり、既に警視庁に勤め始めて二十年。
今までどれくらいの犯人を逮捕してきただろう。
この世に事件が少なくならないことは承知をしており、殺人事件に関しては日に日に増加の一報を辿っている。
無念にも殺害された被害者の心境を考えながらも、事件解決に向けて走り続けている。
だが、今日は休みだ。
久しぶりに旅行がてら名古屋に行くため、新幹線を利用しているのだ。
プライベートで新幹線に乗るのは何年ぶりだろうか。
現在起こっている事件などを同僚に任せて、何も考えずに景色を楽しむ。
こんな幸せなことがあるだろうか。
俺は通路側の席から、微かに見える太平洋の海を見ながらも、車内にある電光掲示板を見ていると、奥から一人の子供が走ってきた。
赤い帽子をかぶっており、白い靴を履いている男の子だ。
確かにこの時期は、親子連れの乗客が多い。
実際にもこの車両にも何組かいる。
だが、走り回ることは大変危険だ。
親は一体何をしているのだろうか。
恐らくどこかの車両にいるのかもしれないが、それでも子供を自由に走らせているのは、俺はいかがなものかと思っている。
もし転んでしまい、他の乗客の方に迷惑をかけたら、その子だけの責任ではなくなってしまうのだ。
誰も注意をしない他の乗客にも苛立ちを覚えながらも、子供を見ていると、俺の横を普通に通り過ぎて、隣の車両に行ってしまった。
一体何故誰も注意をしないのかと思っていると、また子供がこちらに向かって走ってきた。
俺は声をかけようと、通路に顔を出してから、声を出そうとすると、子供が俺の方をじっと見てから、こちらに来て
「おじさん、こっちに来て」
「え?」
「早く」
そう言って子供は先ほどとは逆方向に進んでいった。
おじさんと呼ばれるのに慣れていないため、その呼び方に若干の違和感を覚えたが、子供のあとをついて行くと、とある車両にて何やら野次馬が出来ていた。
俺はその中にいる乗務員に声をかけた。
「どうかされましたか?」
「はい?」
「私、警察のものなんです」
そう言って、普段から念のために持ち歩ている警察手帳を見せた。
すると、乗務員は驚きながらも
「あっ、お客様同士が喧嘩を始めまして」
「喧嘩?」
「はい・・・」
一人の男性の乗客が、他の乗客によって取り押さえられている。
近くには、恐らく殴られたのか。口から少しばかり血を出している男性が座って救護を受けていた。
なんだただの喧嘩かと思いながらも、取り押さえられている男性をじっと見ると
「お前・・・」
こいつは、連続殺人事件の容疑者であり、今警察でも追っていた人物であった。
近いうちに指名手配をする予定であったため、こんな形に遭遇に驚きながらも
「見つけたぞ」
そう言うと、男性も堪忍したかの表情で下を向いてしまった。
だが、よく見ると、先ほどの男の子の姿がない。
俺は戸惑いながらも、乗務員に
「あの、赤い帽子被ってる男の子いませんでしたか?」
「え?見てませんけど」
「はい?」
その後、その男の子と会えることはなかった。
あの子は一体何者だったのか。
それは今でも分からないことである。
~終~
ショートストーリー集「人間」 柿崎零華 @kakizakireika
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