第56話~支払いにて~

ホテルでは様々なお客さんが来る。


中には、お金持ちのご夫婦や、サラリーマン姿の男性など、多種多様なお客様が来ることで、ある意味ホテルのブランドが成り立っているところもある。


私は一人のフロントマンとして、お客様の門番を任されているのだ。


先輩上司から言われていることはただ一つ


「お客様の頼みは絶対だ」


これは当たり前にして、このホテルの威厳を保つための、ある種おまじないのような言葉である。


確かにどのホテルもサービスがしっかりしている・しないで、かなり印象も雰囲気も変わって来る。


私たちは一流ホテルを保つためにも、サービス向上を日々追求しながらも、仕事に励んでいる。


しかし、そんなホテルでも、まだまだ足りないところがある。


それは支払い部分に関してだ。


このホテルは現金だけではなく、クレジットカード対応もしているのだが、時代の進化は恐ろしく、QRコード決済やスマホ決済など、様々な決済システムが出ている。


現在、目の前にいるお客さんも、その対応で困惑していた。


サラリーマン姿であり、見た目ではかなり重役をしてる会社員に感じた。


「申し訳ございません。そちらの支払い方法は使えなくて」


「え?ペイ払いダメなの?」


「はい。ここでは使えなくて」


「スマホペイも?」


「はい」


「ペイアンドペイも?」


「申し訳ございません」


「しまったな・・・」


「できれば、クレジットカードをお持ちであれば、決済は出来ますけど・・・」


すると、男性は


「あの・・・社内ペイは?」


「無理です」


こいつ、なぜ現金を出してこない。


いかにもクレジットカードを出してもおかしくない男性であり、こちらとしてはその準備をしていたのだが、まさかの「ペイ」を提示してくる。


恐らく「ペイ払い」で行こうと思っているかもしれないが、ここはクレジットカードと現金しか使えないのだ。


「あの、クレジットカードか現金はありますでしょうか」


「あっ、家に忘れてきました」


じゃあ帰れよ。


私はつい心の声が出そうになってしまった。


この二つを忘れてきたのであれば、用意できる部屋はないのだ。


私はそれを伝えようとすると


「え?でも向こうのホテルは使えたけどな」


「向こうは向こうですから」


「じゃあ、今からペイ使えるようにしてよ」


「はい?」


「早く」


何だこの時間は。


それも後ろにはかなりの長列が出来ている。


私は、少し苛立ちと焦りを覚えながらも


「あの、そうでしたら、ご用意できる部屋はないのですが・・・」


「そうか・・・分かったよ」


そう言って帰ろうとすると、上司のフロントマンが焦った表情で男性を呼び止めた。


「大臣、すいません。こちらへ」


「そうか、悪いね」


そう言われて、男性は上司に連れられてその場を離れていった。


まさかの男性の正体が大臣であり、私はつい動揺で固まってしまった。


だが、心の声が遂に大きな声で現れ


「先に言ってよ!!」


~終~

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