第55話~理科室の幽霊~
私の目の前に幽霊がいる。それも勤務先で・・・
この小学校に勤務をして早五年が経とうとしている。
他の先生たちにとってはベテラン的存在である。
正直、まだ小さい生徒たちとの見守り方や接し方にも慣れてきており、かなり仕事にも慣れて来た状態であった。
しかし、何故幽霊がこんなところに。それも理科室だ。
確かに学校では様々な心霊の噂を聞く、有名なのは「トイレの花子さん」だ。
だが、理科室では私は噂を聞いたことがない。
あるとするならば「人体模型が動く」ぐらいだ。
だが、目の前にいるのは完全に人であり、尚且つサラリーマンの格好をしている。
ここの元校長や教頭なのか?
それだとしても、何故こんなところに現れるのか分からないが、それでも何か言葉をかけなければならない。
まず、私は理科室に書類を忘れて取りに来ただけなのに、どうして幽霊と話さなければならないと思い、不機嫌状態になりながらも
「あなたは誰?」
「どうして・・・」
「え?」
「どうしてそんなに冷静でいられるの?」
「は?」
幽霊は少し慌てた口調になりながらも
「いや、普通さ、叫び声とか上げないの?」
「上げても良いけど、私が恥かくからあえてしなかったけど、ご要望でしたら」
「いや、やめて変なことになるから」
私は近くの椅子に腰を掛けて
「私ね。子供の時から霊感持ってるの。だから幽霊なんて日常茶飯事なのよ」
「まぁ、そっちの方がありがたいけどさ」
「あのさ、テレビの見過ぎ。どこで見たか知らないけど、あんなドラマみたいに「きゃ~」とか言わないわよ」
「まぁ、そうなんだね・・・」
私は幽霊より、一番怖いのは「人」だと思っているため、目の前にたとえ血だらけの幽霊が出たとしても、何とも思わないのだ。
「それで、なんでこんなところにいるのよ」
「え?」
「だから、なんでスーツ姿で理科室なんかにいるのよ」
「あぁ・・・それはね・・・」
「何かここに関係でもあるの?」
すると、幽霊が調子に乗って
「子供たちを驚かすためにだ~」
私はそのようなノリが一番嫌いであるため、睨みを利かせながらも
「殴るよ」
「すいません」
幽霊は、そこから全てを話してくれた。
どうやら、この学校の卒業生であり、理数系の世界を目指したのだが、挫折し、就職も逃したため、自ら命を絶ったのだという。
それでも、この世界に未練があり、思い出の深い理科室に残っているのだという。
私はあまり「自殺」という言葉は好きではない。
神様から与えられた命を粗末にしてまで、天国に行こうとは思いたくないし、もっと楽な方法は色々とあると思う。
だが、それほど苦しい思いをしたことは理解できるし、そんな人にあまり責めたくないのが本心である。
私もそんな日があることには変わりないからだ。
しばらく彼の話を聞いていると
「俺は、もう成仏した方が良いんですかね」
「あなたはどうしたいの?」
「そりゃ、もう少しここにいたいですよ」
「だったら、いればいいじゃない」
「え?」
「別に誰もいるなとも言ってないし、成仏してくれた方がありがたいけど、それだけここにいたいのであれば、好きなだけいればって思う」
「嫌じゃないのか?」
「別に。あっでも条件があるかも」
「何?」
「成仏は絶対にしないは無しだからね。ある程度気が済んだら、天国に行った方が、私は良いと思うけどな」
「あぁ・・・」
「それじゃあ、私は帰るわ」
私が、そのまま扉に近づき、手をかけると
「あっ・・・あの」
ゆっくりと振り返ってから
「何?」
「ありがとう」
私は微笑みながらも
「どういたしまして」
そう言って扉を閉めた。
だから、私は幽霊が好きなのだ。
~終~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます