第53話~保健室にいる生徒~
ずっとあの子は、保健室で寝ている。
私は、この高校で養護教諭をしている一人の女性だ。
生徒たちの病気やケガなどにしっかりと向き合い、治していく。
医師とは違うが、私は生徒たちに健康の観点から、物事を教えることが出来る。
そんな仕事に誇りを持っているのだ。
そんなある日のこと、二週間ほど前から高校三年生になる女子生徒が、朝にここに来ては夕方まで寝て帰るを繰り返していた。
本来なら「授業に行きなさい」と促すのが当然なのだが、私はなんだか精神的にも不安を抱えているのだなと思い、あまり追い出すようなことはしなかった。
この保健室というものは、ケガ・病気だけではなく、精神的不安もしっかりと見つめるのが、本来の目的だと思っている。
だからこそ、私は何度もその子に話しかけてみたのだが、いつも「大丈夫です」と言って流される。
なんだか違和感を抱えていたのだが、私は見守ることにした。
昼のこと。
私は、何も食べようともしない女子生徒に近づいて、食事用に買ったパンを渡そうとした。
「これ、食べる?」
すると目を開けて、こちらを見てから
「いいです。大丈夫です」
「何か食べた方が良いわよ」
「ちゃんと家では食べているので」
「そうなの? ならいいんだけど」
そう言って再び生徒は目を閉じた。
だが、一つ気になったことがあった。
その子は一切寝返りを打たずに、仰向けで寝ている。
それも二週間ずっとだ。
私は養護教諭をしているせいなのか、些細なことでも気になってしまう。
なんだか嫌な予感がしたため
「ねぇ、ちょっと、お腹見せてもらっても良いかな?」
すると生徒は目を見開きながらも
「嫌です」
「どうして?」
「そ、それは・・・」
「もしかして、妊娠してる?」
「・・・」
そこから生徒は黙ってしまった。
私はその隙に布団をはがすと、お腹は確かに大きくなっており、これはかなり妊娠してからはだいぶ日が経っていた。
私は生徒の目を見てから
「いつから分かったの?」
「三か月前です」
「もしかしてその期間休んでいた?」
「はい。体調が悪いって言って。でも流石に親からは学校行けって言われて」
「・・・父親はこの学校の人?」
「はい・・・」
高校生同士の男女関係は、本当に社会問題になっており、私たち教員の間でも困っていることだった。
まさか私の身近な人間に、こんなことが起きるなんて。
恋愛も本当にほどほどにしなければならない。
私はしばらく黙っていると、生徒が慌てながら
「あの、親とか担任の先生には言わないでください」
「言わざるを得ないの。これは」
「それだったら、赤ちゃんをどうか産ませてください」
「何言ってるのよ」
「え?」
「当たり前じゃない。妊娠した限りにはあなたは産む責任。その父親には養う責任を感じさせなければならないの」
生徒は涙を流し始めた。
私はゆっくりと抱きしめてから
「大丈夫。あなたを守るから」
私はそこから、担任や親御にも掛け合い、無事出産まで傍で見守ることが出来たのだ。
~終~
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