第52話~飛行機デビュー~
俺はかなりの高所恐怖症だ。
今まで「展望台」や「タワー系」の建物には一切立ち寄ったことがない。
何故なら、理由は簡単。
怖いからだ。
だが、今日は姪っ子の結婚式に行かなければならないため、飛行機を使うことになった。
何故かというと、姪っ子は北海道の釧路に住んでいる。
だが、そこには新幹線も通ってないし、あろうことか鉄道を使うにはかなりの時間と費用が掛かると聞いた。
確かに俺は飛行機は大嫌いだ。
四十年以上生きて来た中で、一度も乗ったことがない。
なぜなら怖いからだ。
もう地に足が付いてない時点で、俺は心を失ってしまう。
だが、金と時間をかけてまで鉄道を利用しようとは思えない。
ましては俺は車の免許も持ってない。
姪っ子は俺にとっては可愛い娘みたいなものだ。
そんな子が結婚するとなると、俺にとっては行かないわけがないのだ。
俺は内心、鼓動を激しくしながらも、空港に近づき、搭乗手続きを済ませて、いよいよ搭乗することになった。
俺の心は既に崩壊寸前であり、最悪なことばかりを想像してしまった。
他の乗客の人は悪いが・・・
あえて窓側ではなく、通路側の席を選んだ。
何故なら・・・怖いからだ。
しばらくすると、女性の客室乗務員が近づいてきた。
俺は呼び止めてから
「すいません、あの釧路空港までは何時間で付きますか?」
「えっと、約二時間を予定しております」
乗務員の方が優しく言ってくれた。
「に、二時間ですか・・・」
終わった。
二時間も耐えられるはずがない。
俺は頭を抱えながらも、頷くと
「どうかなさいました?」
「あぁ・・・俺、実は高所恐怖症で。初めて飛行機に乗るんですよね」
「そうなんですか?確かに飛行機は怖いですよね」
「えぇ・・・」
「でもご安心してください。飛行機は世界で一番安全な乗り物ですから」
俺はその言葉を信じられずにいた。
確かにその言葉はテレビや新聞で何度見かけたことか。
だが、世界中で色々な事故が起きている。
あまり考えない方が良いかもしれないが、俺は考えてしまう。
何故なら・・・・・・・怖いからだ。
すると客室乗務員が
「あの、良かったらこれを」
そう言って機内専用のアイマスクを俺に渡して来た。
一体何故これを・・・と思ったが、乗務員が続けて
「ゆっくりとお眠りいただければ、時間あっという間ですよ」
「永遠の眠りですか?」
「はい・・・?」
ちょっとこれはスベってな。
予定時刻通り、飛行機は離陸したが、この二時間の間、やはり俺の心は終わってしまった・・・。
やはり飛行機は・・・怖い。
~終~
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