第50話~強盗と子供~
俺の手元にはわずか二百円しかない。
金がないこの状況に悔しさを覚えながらも、とある一軒家の前に立っている。
本当はこんなことしたくはない。
人様の家に入り、金目になりそうなものを盗むという行為自体、人として失格なことなのだ。
だが、俺には多額の借金がある。
到底返せない金額であるため、このようなことをしなければ、俺のこの先がないのだ。
俺は勇気を振り絞って、庭に入り、窓を割ろうとした。
この家の下見は済んでおり、周り近所の状況も把握しているのだ。
家主である夫も妻も、共働きであり、昼になると誰もいなくなる。
俺は絶好のチャンスだと思い、窓ガラスを割ってから、部屋の中に侵入した。
恐らく、妻のへそくりや、通帳など金目になるものは多く揃っているだろう。
それも夫は証券マンをしているため、貯金も多くあるはずだ。
微笑みながらも、まずは二階を散策しようと、階段を上がろうとすると、そこにうずくまっている男の子の姿があった。
この家に子供がいるという情報はどこにもなかった。
俺は驚きながらもトンカチを出してから
「そこで何をしてるんだ」
男の子がゆっくりと顔を上げると、頬は紫色になっており、目には小さなこぶがあった。
これは完全に怪我をしている。
俺は逆に心配の感情が勝ってしまい、トンカチをすぐそばに置き、男の子に近づいた。
「どうしたんだ、その傷」
すると、男の子が声を振り絞ってから
「パパとママにされたの」
その一言で全てを理解した。
恐らくこの子は虐待を受けている。だから、息子の存在を消していたのか。
それにしても、俺は強盗という一人の人間として失格なことをしているが、子供を虐待するということは、到底許せないと思った。
だが、このまま通報しても俺はどのみち逮捕される。
すると男の子のお腹が鳴り始めた。
「お腹空いているのか?」
「うん、何も食べさせてくれないの」
「何日もか?」
「うん・・・」
まるで鬼畜の仕業だ。
確かに子供の頬はこけ始めている。
可哀想に・・・
そう思った俺は
「・・・分かった。ちょっとおいで」
俺は男の子を連れて、キッチンに向かう。
だが、キッチンはまるでポルターガイストが起きた後みたいに荒れ果てている。
これでは料理も作れない。
俺はゆっくりと考えてから、男の子の背の高さまでしゃがみこみ
「お兄さんと一緒に、お巡りさんのところに行こうか」
「どうして?」
俺は微笑みながらも
「美味しいご飯、食べさせてもらいに行くためだよ」
俺は子供の手を優しく引っ張りながらも、近くの交番に向かうことにした。
俺の人生より、この子の命が最優先だ。
~終~
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