第46話~図書室の夜~
僕は一人の学校教師だ。
今日はひどく体調が悪い。
それは体ではなく、完全に心だ。
僕は幼い頃からの夢であった「教師」になりたいがために、必死に勉強をし、遂には夢を勝ち取った。
だが、理想はかなりかけ離れたものであり、毎日がまるで戦場だった。
問題児ばかりの高校に赴任をし、そこから毎日のようにその問題児と向き合う。
中には不良と呼ばれる生徒もおり、かなり対応に困り果てていた。
そんな僕でも、唯一のオアシスが学校内にある。
それが「図書室」だ。
僕は幼いころから本を読むのが好きであり、家には山ほどの本があるほどだ。
この問題児が帰った後の静まり返った図書室の夜。
僕はこの時間を「天国」と呼んでいる。
誰にも邪魔をされたくない。
そう思いながら今日も、アガサクリスティーの本を読んでいた。
しばらく読み込んでいると、静まり返った室内にドアの音が響いた。
僕は目を見開きながらも、ドアの方向に目線をやる。
そこにはまだ赴任したばかりの若い女性教師が立っていた。
僕は慌てながらも
「ど、どうかされましたか?」
すると女性が微笑みながらも
「ここにいたんですね」
「え?」
「だって職員室にもいないんですもん。探しちゃいましたよ」
「え、えっと、何の御用で?」
「本お好きなんですか?」
「え?」
一体女性教師は何をしに来たのか。
僕にはさっぱり理解が出来なかった。
だが、女性教師は僕の席近くの本棚をじっくりと眺めていた。
だが、何も言葉を発しようとしない女性教師に、僕は
「あの、本当に何の御用で?」
「気になっただけです。先生がどこにいるのかなって」
まだ赴任したばかりの女性教師から、そんなことを言われても僕は困惑するだけだった。
あまりにも理解が追い付かず、首を少しかしげていると
「先生、おすすめの本ってありますか?」
「はい?」
「教えてください」
その頬ましい表情に圧倒され
「僕がおすすめする本は、アガサクリスティーの「オリエント急行殺人事件」です」
「理由は?」
「単なるミステリーだと思わせて、そこには深い人間ドラマが詰まっているんです。オチは有名ですけど、ポアロがあの決断を下すには、相当なドラマが広がっており、一人一人のキャラクターもとても魅力的ですし」
すると女性教師は頬ましい顔で
「そこです」
「・・・え?」
「あの問題児を対応している先生より、本の魅力を語っている先生の方が素敵なんですよね。だから来ました」
「あぁ・・・」
「また本の話聞かせてくださいね」
そう言って女性教師はその場を去っていった。
僕はしばらくまばたきを何度もしながらも、事の状況を理解しようとしていた。
だが、一つ思ったことはまたあの人の前で本の話をしたいな・・・と。
~終~
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