第45話~元気だったか?~
僕がまだ幼い頃、通っていた田舎町の小学校の近くに、大きな木があった。
そこはよく夏になると、雷の標的にされており、何回も落ちてはボヤ騒ぎがあったほどだ。
そんなある日のこと。
僕は一人、家までの道をただ歩いていた。
もうすぐ僕は転校しなければならない。
親の都合とは言うが、折角仲良くなれた友達と離れ離れになるのが、僕にとっては苦痛だった。
このまま逃げ出したいなと思いながらも、いつもの木の前を通ると
「くぅーん・・・」
子犬の鳴き声が聞こえた。
それもどこか寂しそうな声だったため、ふと聞こえてきた方向に目線を向けると、木の下に箱に入った子犬がこちらをじっと見ていた。
犬種は柴犬みたいだ。
それも右足が血だらけであり、今でも痛そうな声が聞こえてきそうだった。
このまま放っておくわけにはいかない。
そう思った僕は、そのまま箱を持ち歩き、近くの動物病院まで連れていくことにした。
僕は犬や猫を飼ったことが、けがをしたらすぐに病院ということを、よく母親から教えられていたため、勝手に体が動いていたのだ。
病院にいる優しそうな白髪のおじいちゃん先生が、すぐに処置をしてくれて、しばらくはその病院が面倒を見ることになった。
まだ歩きにくそうに僕の方に近づこうとしたが、僕は家の門限があるため、そのまま帰ることにした。
時は経ち・・・十五年後。
俺は証券マンのサラリーマンとして、日々東京の大都会を過ごしていた。
だが、やはり襲ってくるのは仕事とストレス。
この日々に、俺は正直潰れ果てそうだった。
そんなある日、俺は墓参りのため、以前住んでいた田舎町に帰省することにした。
正直十五年振りに訪れるため、街がどんな様子なのか気になっていた。
タクシーを乗っていると、あの動物病院の建物が目に入った。
だが、そこは既に空き家となっており、看板だけが虚しく残っている。
確かに年齢の問題もあり、仕方ない部分があるとしても、寂しい気持ちが心を包んでいた。
二時間後、墓参りを済ませ、俺はそのまま再び止めていたタクシーに乗ろうとすると、一匹の柴犬がこちらを見ていた。
若い女性にリードで繋がれており、じっと見ている。
俺は柴犬の右足を不意に見ると、そこには傷の痕が大きく残っており、その瞬間に思い出した。
あの子犬のことを。
俺は驚きながらも飼い主の若い女性に声をかけた。
「あの、この犬はいつから飼ってるんですか?」
「えっと、私のおじいちゃんが動物病院の先生をやっていたので、まだ現役の時だと思うから、十五年前です」
俺は少し何とも言えない感情を抱きながらも、柴犬を見ながら
「覚えているのか?」
すると、必死に前足と左足を使いながら、こちらに近づいてきた。
すると大きな声で
「ワン!」
俺はしっかり抱きしめてから
「元気だったか?」
涙を流しながらもそう呟いた。
~終~
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