第38話~危ない!~
僕は俳優をしている一人の男だ。
俳優と言っても、まだ新米でペーペーの人間である。
元々は地方の田舎暮らしだったのだが、俳優を目指して上京し、僕が夢見ていた生活が充実できる思っていた。
だが、世の中はそんな甘くない。
この世には同じように俳優を目指して上京する人間は大勢いる。例え実力があっても、演技力が抜群でも、埋もれる人間はたくさんいる。
その埋もれた中に今俺がいる。
正直、田舎に帰ろうかと考える日も少なくはない。
そう思いながらも、俺は公園の周りを散歩していた。
すると、子供たちがにぎやかに遊んでいる。確かに今日は青空が大きく広がっているため、遊ぶには一番良い日かもしれない。
だが、ここは一番危ない地域でもあり、人通りが少なくても車どおりは異常なほど多い。
そのため、何人も子供たちが道を飛び出し、事故を起こす件数が増えている。
すると、遊んでいた子供たちが使っているボールが道に飛び出て、子供が取りに行く、しかし、奥から大きいバンがこちらに迫ってきていた。
これは危ないと思いながらも、必死に
「危ない!!」
と言って子供に近づき、抱いてからすぐにバンを避けるように体ごと飛び跳ねた。
運良くバンを避けられたのだが、腰をやってしまったらしい。上手く起き上がれなかった。
助けた子供はすぐに起き上がって
「おじさん大丈夫?」
と言ってきた。俺は微笑みながらも
「大丈夫だよ。気を付けろよ」
これで一件落着・・・ではないのだ。
本題はこれからである。
人を助けて事故に遭った場合に、保険金が下りるし、増してやこの子供の家族からお礼を貰える。こんなに美味しい話ではない。
俺には多額の借金があり、今も借金取りに追われる日々だ。そのため、子供たちが危ない時を見計らって待っていたのだ。
演技力には自信がある。いかにも散歩している若い男だと装うことは朝飯前である。
そしたら今、運よく子供たちが飛び出してくれたため、チャンスはこの時かと思った。
これで俺の借金がチャラになるのだ。当分は入院生活になるが、そんなの金が手に入るのであれば、もうケガなんて痛くも痒くもない。
俺は微笑みながらも、ただ天を見上げながらも、充実する日々を想像しながら目を閉じた。
頭の中には天使の子守歌が流れている。とても心地いいメロディーである。
すると目をあけたら、俺は三途の川の船を黙って渡っていた。これは夢なのか、いや夢にしてみれば、背景が鮮明すぎる。まさかこれは・・・
俺はつい言葉に出してこう言った。
「やばい、死んでもうた・・・」
~終~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます