第36話~若い男の悩み~
東京の新橋。ここは都会でもあり、サラリーマンが癒しを求める場所である。
ここにある居酒屋の店たちは、毎日夜になると居酒屋にはスーツ姿の男性たちが飲み明かし、仕事のストレスを発散するところでもある。
そんな一つの店に、サラリーマンの俺は片手に生ビールジョッキを持ちながら、元気な声で
「乾杯~!!」
そう言うと、俺を含めて四人の男たちが一斉にビールジョッキを合わした。
この「チン」という音だけでも、我々サラリーマンにとっては癒しの音であり、この音を聞いてからの酒を飲むという流れに、我々は幸福を感じている。
そこから始まるのは、会社への止まらない愚痴の数々である。
特に俺は営業課長をしており、営業活動・取引活動など、ストレスの山を毎日登らなくてはならないため、言いたいことが山ほどあるのだ。
しかし、俺には自分の中でのルールがある。それは、俺からはまず喋らない。
上司の俺から愚痴を話してしまえば、他の人間は気を遣ってしまう。
飲みに行ったら誰もがリラックスしないと意味がないため、俺から言うのは控えている。
すると、この中で最年少の二十代の社員が愚痴を始めた。
その社員は人事部にいる社員なのだが、切りたくもない社員をリストラしていくところを見ると、とても気持ちが落ち込むと話してくれた。
確かにそれは分かる。人事部というのは、血も涙もない部署と言われており、例え優秀な人材であっても、例え会社にいなくてはならない重要な人間であっても、人事部は容赦なく切っていく。
うちの会社もそうだ。以前なんか、綜合部長代行の若い女性社員がリストラの火にまかれてしまった。
その時は流石にやりすぎだと思ったのだが、人事部に矢を向けるわけにもいかない。自分たちも人生がかかっているのだ。余計なことをして失敗したくはない。
「でも、若いながら頑張ってるじゃないか」
俺はそう励ました。確かにその社員は人事部にいて、みんなから嫌われても必死に働いているところを見て、俺はとても感動を覚えたほどなのだ。
だから今日はこのメンバーに彼を誘ったのだ。
すると、若い社員は突然泣き出した。
一体どうしたのかと思い、尋ねてみると、彼からこんなことを言われた。
「だって僕、来月リストラされるんですよ」
とてもじゃないほど、気まずい雰囲気になり、なんて声をかけていいのか分からなかった。
そこから彼が泣き終わるのをただ待つしなかった。
俺はビールを一口飲んでから、心の中でこう思った。
〈酒、味しねぇな〉
~終~
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