第16話~ラストランのホーム~
皆さんは、ブルートレインという列車を覚えていますでしょうか。
戦後の昭和から平成にて活躍した鉄道車両であり、別名「寝台特急」と呼ばれている。
しかし、そんなブルートレインにも遂に終焉の時が来た。
2015年3月。長年東京・上野と北海道・札幌を結んできたブルートレイン「北斗星」が定期運行を終了する。
この電車は、日本で走る最後のブルートレインと言われており、この電車の廃止を持って、ダイヤからブルートレインの名が消えることになる。
「北斗星」、そしてブルートレインが廃止にするに至って、たくさんの悲しみの声が届いた。
この男もその一人である。
長年実家である札幌に帰郷するために使っていたこの電車が、廃止すると聞いて居ても立っても居られなくなり、チケットを取ったところ、なんとラストランの日に取ることができた。
こんな奇跡があってもいいのかと思いながら、少しウキウキした気持ちになりながら会社生活を送っていた。
そして当日。自分の姿は上野駅にあった。
久しぶりに実家の家族に会える楽しみと、この長年愛してきた電車の最期を一緒に迎えるときが来る楽しみが混ざって、今でも泣きそうな状況だった。
ホームには大勢の鉄道ファンなどが、カメラを片手に電車が来るのを待っている。
よくこの光景をニュースとかで見たことがあるが、間近では初めて見たため、少し驚いた。
でもよく考えれば、それほど「北斗星」が愛されていたという証拠にもなる。
それに、長年平成ブルートレインの第一線で走ってきた電車が無くなると聞いただけで、これほど集まるということは、表では見えない悲しみもあるのだなと感じていた。
しかし、自分もこの電車には何度支えてもらっただろうか。
車内から見える夜の景色。これは自分で名前を付けるとするならば「未知の世界」である。
当然、深夜で街の暗い景色を見れることができるのは、この電車だけだし、それに癒しとはまた違う、別のリラックス効果が出るため、これは未知の世界としか言いようがない。
仕事の疲れや、プライベートでの辛さなど、この光景を見るととても和やかな気持ちになれる。
それに一番の楽しみは、何を隠そう「食堂車」である。
ここの料理はたまらなく美味しい。特にハンバーグはまるでフランス料理を食べているような感覚であり、それも電車の中で本格料理を食べてるなんて、とても贅沢なひと時を過ごすことができる。
とても好きな時間だ。
やはり、それを考えると、なんだかこみ上げてくるものがある。
本当は、全く泣く予定はなかったが、つい一粒の涙がこぼれてしまった。
それほど、この電車が無くなることに悲しみしかなかったのだ。
それでも、現実を受け入れよう。
この人生、常に現実だ。それを受け入れなかったら、どの人生も必ずつまづいてしまう。
車内アナウンスが流れる。まもなく電車が来るみたいだ。
よし、これから悲しみの気持ちは捨てて、一日を楽しもう。
そうしないと、この電車にも失礼だし、これから会う実家の家族にも失礼になってしまうため、笑顔で列車に乗ろう。
そう決めながら、ゆっくりと入ってくるブルートレインを眺めていた。
~終~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます