第17話~放課後の教室~

私は、この小学校で教師をしている二十代女性である。


去年この学校に赴任してきて、先月から担任として五年生のとあるクラスを受け持つことになった。


とても最初は楽しみにしており、この学校に通っている生徒と仲良くなっていけると思っていた。


しかし、とある日の放課後、ほとんどの生徒は帰り、支度を整え、職員室に戻ろうとすると、私はとある女子生徒に呼び止められた。


重々しい顔で、出た言葉はたった一言


「相談をしたい」


それが何を意味しているのか、すぐに分かった。


恐らくいじめ関係だろう。


いや、逆にそれ以外何がある。勉強関係であったら、別にみんながいても聞けるはず。恋愛にしてみれば、まだ早すぎるし、家族問題を自分に言う必要はないし、いじめの問題しかない。


自分は、教師になったら必ず経験することかもしれないが、この時に何を言ってあげたらいいか分からないし、たまに厄介な親御さんがいるのも事実であり、子供がいじめをするわけがないと言い張り、学校にクレームを言ってくるケースもある。


そのため、あまりいじめ関係の相談は苦手であった。


少し厄介なことになったなと、内心思いながら、話を聞いてあげることにした。


しかし、生徒は最初の五分、何も喋らなかった。


それどころか、少し泣いており、とても声をかけてあげられる状態ではなかった。


でも自分も一応用事があるため、一体何があったのかを尋ねた。


するとようやく口を開き、こう言った。


「私、死にたいです」


まだ小学生の子供から聞いたその言葉に、自分はとても胸を痛めた。


これはただことではないなと思い、話を聞いてみると、どうやらいじめ関係の相談ではなかった。


でもそれより、深刻な相談。それは・・・


「虐待」


その生徒は、親からひどい暴力を受けており、腕にできたあざを少しだけ見せてもらった。


これはかなりひどい・・・


自分は、この教師人生、初めて経験するケースであり、でもこの子をほっとくわけにもいかない。


この世の中で、一番許せないのは「虐待」だ。


強い大人が弱い子供に理不尽な理由で手を出し、それで亡くなった子供たちも大勢いる。


とても卑劣で、最低な話だ。


自分はこんなかわいい子に対して、平気で暴力をふるう親が許せなくなったが、果たして自分が立ち入ってもいいのか。


自分は表上教師なわけだし、この件だと関わるのは、児童相談所や警察関係である。


でもだからと言って、今自分に相談をしている子に対して、そこに相談しなさいと言えないし、一体どうしたらいいかと思い、たどり着いた答えは、自分が全ての責任を取る。


それが何を意味しているかというと、児童相談所や警察には自分で行って、全ての責任者として、関与すること。


これが果たして正しい答えなのかは分からないが、こんな子を見捨てるわけにはいかない。


教師という肩書がある以上、子供たちに正解を教えなければならない。そのうえでの行動である。


自分は急いで、その子の手を握り、児童相談所に連れて行った。


もしかしたら、クビになるかもしれないがそれでもいい。


自分は一人の人間だから・・・




~終~


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