第13話~医療ミス~
自分は一人の人間を殺してしまった。
今回の主人公である、この男性医師は深く落ち込んでいた。
先ほど、とあるご年配の男性が患っているすい臓がんの手術をするために、手術台に立ったのはいいものの、誤って血管を切ってしまい大量出血。そしてしばらくして、患者は息を引き取ってしまった。
なんていう過ちを犯してしまったのか。自分でもよく分からなかった。
今まで手術ミスをしたことはないのに、なぜだという疑問や一人の人間を殺してしまった罪悪感でいっぱいになった。
しかし、次に大変なのは、ご遺族に対する説明だ。
一体どんな説明をすればいいのか、自分でも悩むばかりであった。
正直に手術中にミスをしてしまったというべきなのか。
いや、それをすると、自分のキャリアに傷がついてしまう。
自分は、病院長から時期院長候補だと言われているほどのキャリアを積んでおり、この病院には二十年以上働いているため、こんなことでキャリアに泥を塗るわけにはいかない。
手術に立ち会った医師や看護師たちには、あとで金を支払っておこう。いわゆる口止め料だ。
金さえ払えば、誰も告発できないに決まっている。
もし告発されたとしても、圧力をかけるよう院長に言っておけばいい話である。
だが、ご遺族には金を支払ったところで、完全に解決してくれるとは限らない。それも金を支払ったところで、逆鱗に触れるのは間違いないことだ。
それだったら、手術中に血圧が下がり、そのまま亡くなったことにした方がいいのか。
患者の年齢は御年八十歳であり、手術中に血圧が下がることなんて珍しいことではない。
これで行こうと決意を決めた。
人間、時には必要な嘘も大事である。たった一つのミスで大事なキャリアを失うわけにはいかないし、それに今後の人生にも響く。
自分には当然妻と子供がいるため、家族を路頭に迷わすわけにはいかないのだ。
亡くなった患者さんには悪いが、今回ばかりはそれで亡くなったことにしておこう。
だが、先ほどから視線を感じる。部屋には自分しかいないのに、一体誰なのか、分からなかったが、とりあえず、ご遺族が待つ応接室に向かうことにした。
目に涙を浮かべているご遺族に、自分は血圧が手術中に突然下がり、そのまま亡くなってしまったと話した。
当然最初は納得をしてくれなかったが、とりあえず医療知識を使って、理由を無理やりこじつけた。
そのかいがあってか、ご遺族は次第に納得してくれた。とてもありがたいことである。
安堵しながら、暗い廊下を歩いていると、なぜだが足音が後ろから聞こてきた。
一体何なのかと思い、後ろを振り向くと、そこには・・・
~終~
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