第8話~タクシー運転手~

都会には何百台のタクシーが、走り回っている。特にサラリーマンたちにはとても助かる公共交通機関。


今回はそれをテーマにした奇跡みたいな物語である。こんな物語、あなたは信じますか・・・


様々なビルがそびえ立つ、東京・丸の内。ここは何万人のサラリーマンが働いており、この日本という国を動かしている。


そこで働く一人のサラリーマンがいる。彼は若いながら、営業部長を任されており、忙しい毎日を過ごしている。


時には受注連絡、時には企画会議、時には謝罪回りなど、毎日違う仕事が舞い込んでくるため、精神的にもあまり落ち着かない日々が続いた。


今日も夜中0時過ぎ、サラリーマンは部下が起こした受注ミスで謝罪の電話をかけながら、一つのタクシーへと乗り込んだ。


「はい、それは誠に申し訳ございませんでした」


この言葉はサラリーマン人生、どれだけ使った言葉だろうか。二度と使いたくないは絶対に不可能なほど、今もこれからも付きまとってくる言葉である。


相手先の会社も、最初は激怒していたが、次第に誠意が伝わったのか、少し落ち着いて話をすることが出来た。


そのまま電話を切るサラリーマン。明日待っているのは、相手先の会社まで出向かなければならない。それが一番辛い仕事だ。


すると、タクシー運転手の男性が自分に声を掛けてきた。


「お客さん、大変ですね」


自分はその言葉につい愚痴りたくなり、少しの間、愚痴を喋ってしまった。見ず知らずのタクシー運転手に。


しかし、運転手はゆっくりと話を聞いてくれた。


なんて優しくて紳士的な運転手何だろうと思いながらも、ふと、運転席に貼ってある一枚の写真が目に映った


どうやら、子供と一緒に映っている写真のようで、運転手はとても良い笑顔をしている。


時々通る電球の下ではっきりと映るその写真に、自分は驚愕した。


その写真に写っていた子供は、自分の息子だった。


そう言えば、妻の両親にはあまり会った事がない。それに妻の母親は随分前に他界しており、父親はタクシー運転手をしているしか覚えがなかった。


もしかして、この運転手は義父なのか。


よーく運転手の名前を確認すると、完全に妻の旧姓である。


これは確実だ、目の前にいるのは義父だと思い、自分は少し仕掛けてみようと考えて


「あの、それは息子さんですか?」


すると、運転手が笑顔で


「いいえ、私の可愛い孫です。娘の子供なんですけど、どうも夫が出来の悪い人でねぇ」


完全に悪口である。一体自分はどうしたらいいかと思い、ただ苦笑いをするしかなかった。


ここではっきりと、その夫ですと言った方が良いのか。いや、それだともっと気まずい状況になってしまう。


そのため、自分は家に着くまで一切、喋らないことにした。


俺は、この運転手にこう言いたかった。


「愚痴った時間を返せ」


~終~

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