第5話~開催か?中止か?

今のご時世、エンタメ業界は追い詰められている。


特に音楽業界は、未知のウィルスが原因で、仕方なく無観客や配信ライブ、もしくは中止に追い込まれる事態が発生している。


今は音楽界でも緊急事態の状況である。


今回は、それをテーマにした物語である。


主人公は、バンドのリーダー兼ボーカルを担当している人物であり、オリジナル楽曲の作詞・作曲をほとんど受け持っているバンドマスターである。


そんなリーダーの姿は、とある会議室にあった。今日はかなり重要な会議であり、メンバー全員緊張気味で望んでいた。


テーブルの奥に、異様に佇むホワイトボードには大きくこう書かれていた。


「今年のツアーについて」


こんな単純なタイトルだけど、数年前の俺たちだったら、構成・演出・セットリストなどを決めていたが、今の自分たちにはそれすら、軽々しく言葉に出来ない世の中になっている。


何故なら、今回のツアーについては、重要な二択を決めないと先に進めないからである。


その二択とは・・・


「開催か・中止か」


数年前の俺たちだったら、中止なんてまず頭に出ないほど、自分たちは活発に活動していたが、今はそうは言ってられない。


未知のウィルスには、どうしても他人事に済ませたらダメなことだし、それにこのウィルスには、まだ完全な対策方法がない。


そのため、あまり下手な行動が出来ないのだ。


三年ほど前から流行りだしたウィルスが原因で、二年連続でツアー中止に追い込まれている。


中止の決断をするたびに、悲しむファンの姿が目に浮かぶ。確かに自分たちも悲しいし、ファンに会いたいという気持ちは誰よりも強い。


しかし、こればかりはどうにもできない。万事休すな状態である。


開催したとしても、今度は感染対策や演出面を変えなければならない。それに中止をしたとしても、スタッフやメンバーにも家族がいるため、リーダーとしては一番、今がきつい時間である。


本当は今年も、一番の逃げ道である中止という決断しかないと思い、自分が口に出そうとした瞬間、ギター担当のメンバーがこういった。


「開催場所、アリーナでやるんだけど、観客を10人にするのはどうかな」


それは画期的なアイデアであるかもしれない。数年前の俺たちだったら、激怒しているかもしれない。


しかし、今のご時世だったら、観客を十人にしたとしても、感染対策はバッチしだし、ファンには最高でプレミアムな時間を届けられるかもしれない。


このやり方をしているアーティストもいるが、自分たちはまた別の演出をしよう。それ以外にも色々と構成を組むことが出来る。


そう思い、自分の口から出た言葉は


「では、今回のツアーは中止で」


他のみんなが驚きの顔で見ている。しかし、自分にはまだ言葉に続きがあった。


この世の中、エンタメは絶対に終わらせないと意味も込めて、力強く


「プレミアム公演を、緊急開催で」


~終~

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