第4話~夢の中~
夢の中は、とても面白いが、時には悲しみに包まれることもある。
今日はそんな物語である。
私は、とある関東地方に住む主婦である。結婚して早いことに五年。今では二人の子供に恵まれた。幸せな人生を送っている。
しかし、そんな自分に最近、凄く喪失感が起こる出来事があった。
それは、高校時代の恩人である国語教師の男性が亡くなってしまったのだ。
その先生は、自分が高校時代にいじめを受けたり、酷い仕打ちをされた時にも、いつもそばにいて話を聞いてくれて、時には助けてくれた。
それに、困ったときは、適切なアドバイスを送ってくれたこともあり、自分にとっては人生の恩人である。
卒業後は、何度か仕事場での悩みや、きつい人間関係、それに恋愛や子育てなどを相談したことがある。その時にいつも笑顔でこう言ってくれた。
「お前は大丈夫。でも、リラックスも必要だから、いつでもおいで」
これがどれだけ自分にとって、支えになったか。もし、自分に恩人や感謝を伝えたい人がいるとするならば、私はこの人を選ぶ。
しかし、最近になってからは、先生は持病の心臓疾患で何度も入院しており、一週間前に息を引き取った。享年八十。
自分はそこから、ある意味のうつ状態になってしまった。いつも話を聞いてくれた、心の拠り所が無くなってしまったのだ。
これほどの深い悲しみは無い。最近はろくに眠れておらず、常に目から涙が溢れてくる時間を送っていた。
今日の夜も深い悲しみに包まれながら、時を過ごしていた。
しかし、今日は何故だか、異様に眠たい。いつもは眠たくないのに。
なんでだろうと思っているうちに、既に夢の中に入っていた。
そこは今まで見た事のない、壮大な草原が広がっており、奥には小さな山の影が見える。
例えるとするならば、スイスの草原に今立っているような感じである。
何故自分がこんなところに立っているか、少し疑問を持ちつつ、少し足を動かしてみると、後ろから誰かが自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
振り向くと、近くには先生が立っていた。突然の再会に、喜びながら足を動かそうとしたら、何故だか、足が動かない。
自分は大きな声で
「先生、そっちに行かせて」
と叫んだ。
すると先生は大きな声で
「待ってるぞ」
と返してきた。
自分は何を言っているのだと思い、必死に足を動かそうとするが、次第に先生は奥へと消えてしまった。
その瞬間、自分の目線は家の天井を向いていた。夢から覚めたのだ。
部屋には日差しが入ってくるため、時計を見ると、既に朝の八時を回っていた。
自分はそんなことより、先生が言った「待ってるぞ」の意味を探るとした。何故、先生は自分は動けないことを知っていて、あんなことを言ったのか。
しばらく考えていると、一つのことを思い出す。自分はつい昨日まで「命を絶とう」と思っていたのだ。
理由はたった一つ、先生のところに行きたかったのだ。それ以外思いつかない。
それを含めて、先生の言葉の意味に辿り着くことが出来た。
恐らく先生は「まだ来るのが早い」と伝えに来たのではないか。足が動かなかったのも、先生が恐らくすぐに行けないように、操ってくれてたのではないかと、自分はそう思った。
なんか、そう思うと、少し気持ちが晴れてきた。きっと先生は上から見ている。きっと・・・
そして、自分はこう呟くことにした。
「先生、ありがとう」
~終~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます