第2話~ラジオ番組~

最近は、とても便利な世の中になった。


半世紀以上前は国民のほとんどが使っていた必需品、今では芸能人や文化人が大勢MCを務めるメディアの最高峰。


その名は「ラジオ」。それに出たいという若者も増えてきた。しかし、近年そのラジオというのが、少し言葉を変えて便利ツールへと変換された。


その名は「音声配信」。今度は一般人をターゲットに誰でも配信できるということをモットーに今では、音声配信で友人を作ることも出来る世の中になったのだ。


そんな世の中でも、本場ラジオ番組の出演者は、今日も人の心を掴むために日々奔走する。


今日の主人公は、ラジオ番組のパーソナリティをしている一人の俳優だ。


俳優は、今日もラジオブースに笑顔で入ってくる。毎日、ドラマや映画の撮影で忙しく、そして週末の深夜は、このラジオの生放送を控えている。


本当は疲れたと言いたいところだが、プロはそんな弱音は最悪な状態以外は吐かない。先輩俳優から言われた言葉である。


これを普段大切にして生きているため、あまり悩んだことはないし、今だって、こうして様々な仕事を抱える日々を送ることになった。


しかし、今日はスタッフからこんなことを言われた。


「そう言えば、音声配信知ってます?」


単なる世間話からのその言葉に少しばかり興味を持ち始めた。


確かに、近年音声配信の規模は拡大しており、芸能人ですら始めている人が多いくらい、需要は確実に伸びてきている。


だが、自分は少しの抵抗があった。


何故なら、このラジオ番組という歴史も古く、そしてこれからも時代を見据えて、日々奔走しているというのに、自分が音声配信なんて、簡単に出来るラジオツールを始めても良いのかと、少し悩みもあったからだ。


しかし、そのスタッフが話の流れで、こんな言葉を発した。


「でも僕はやりません。ラジオ局の人間なので」


その言葉をどう捉えるかは、それぞれ個々におまかせをするが、恐らくこのスタッフは忖度とかそんなことをしたわけではない。


恐らく個人の一種の決意にも見て取れた。


別にラジオ番組の裏方の人間が音声配信を始めたら、トークを構成したりするわけだし、話の話題や喋り方も、もしかしたら自分より上手いかもしれない。何故そんなことを言うのかと一瞬思った。別に誰が何を始めようが、誰も反対はしないと思う。


しかし、そのスタッフはこんな言葉も残した。


「僕興味ないとか忖度とか、そんなのじゃなくて、ラジオ業界に命をささげたいんです」


別に音声配信を下に見てるとかそんなことではない。


しかし、そのスタッフ曰く、ラジオはラジオ、音声配信は音声配信と分けることをしないと、ラジオ業界の特に裏方の人間が、安易な気持ちで音声配信を始めたら、ラジオ業界は路頭に迷うことになってしまう。それを恐れていた。


自分はどうであれ、一つの事を思った。


このスタッフに一生ついていこうと・・・




~終~

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