【お遊びSS】キスしないと出られない部屋(兵×賊)

(ご注意)

 ここから先はIFストーリー(もしかしたらの世界線)です! パトリックとラギウスが一緒に行動しているので、時系列では4章終わりくらいでしょうか。でも本編とはまるで関係ありません。

 ツイッターでちょっと話題になったキスの日にちなんで何か書きたかったので、リクエストのあった(あったんだよ!)お話を書いてみました。


 ほんのりBがLする匂いがします。明言はしてません。匂うだけです。お遊びです。なのでそういうのが苦手な方は、ここから先に進むのはどうぞ自己判断でよろしくお願いします。

 本編のキャラのイメージが崩れた!等もありえますので、ほんとそこは自己判断でよろしくお願いします。(大事なことなので二度言う)


 では……○○しないと出られない部屋へ、行ってらっしゃいませ。








***









「あ? キスしないと出られないだ?」


 とある遺跡の散策中、トラップを踏んで落ちた地下にラギウスは閉じ込められてしまった。ご丁寧に壁には松明が燃えており、その明かりのおかげで唯一の出口である扉を見つけることができたのだが……そこにかけられた魔法陣に組み込まれていたのは、何とも珍妙で不可解な呪文だった。


「何の冗談だよ」


 わしわしっと赤髪を掻き上げて、自分が落ちてきた天井を見上げる。そこは既に石壁で塞がれており、魔狼の身体能力をもってしてもよじ登ることはできそうにない。試しに黒い魔石ノクリムの剣で扉を突いてみたが、魔法陣が消えることはなかった。ということは、呪われた魔法具の類いではないということだ。

 周りを見ても、出口はこの扉ひとつだけ。つまり、脱出するには魔法陣に組み込まれた呪文の通り「キス」しないと出られないわけで。


「一人だとマジでヤバかったかもな」


 そう言って振り返った先では、青い制服を着た金髪の美男子が、これでもかというほど眉を顰めてラギウスを睨み付けていた。


「二人でならどうにかなると思っているのか?」

「なるだろ? 一人じゃキスもできねぇし」

「私と君でできるようなものでもないだろう!」

「何だよ、照れてんのか? 海軍のくせにそっち方面には疎いのか?」

「愚弄するな! だいたい海軍を何だと思っている!」


 ラギウスに向けた剣には、美男子――パトリックの怒りを表すような紅蓮の炎が纏わり付いている。彼の指に嵌められている魔法具の指輪の力だ。指輪に込められた力は精霊の魔力。精霊の力なら、ラギウスの持つ黒い魔石ノクリムの剣が効く。


 キンッと高い音を立てて二つの剣がぶつかり合った瞬間、パトリックの剣から炎のうねりが消えた。同時に素早く距離を詰めたラギウスが、そのまま体当たり同然に突進して、パトリックを強引に押し倒した。

 海軍大佐であるパトリックでさえ目で追えない瞬発力は、ラギウスにかかっている魔狼の呪いのせいだ。忌々しい呪いの力さえなければ、海賊ごときに後れを取ることもなかったのに。そう悔やんでも、もうパトリックは両腕を上から押さえつけられ、さながらか弱き女性のようにラギウスに組み伏せられてしまった。


「押し倒すんならヴィオラの方がよかったんだが」

「っ! 彼女に手を出していないだろうな!」

「お前の基準がどうか知らねぇが、まだだと思うぞ。だから正直ちょっと堪えてんだよ。お前も男ならわかるだろ?」


 ラギウスの言葉の意味を知り、パトリックの端正な顔にサッと嫌悪感が走る。その表情を見て愉悦に浸っているのか、押し倒した側のラギウスは終始上機嫌だ。マリンブルーの瞳には、ほのかな色さえ滲み始めている。

 欲に従順なのは元々なのか、あるいは魔狼の呪いのせいなのか。どちらにしろ、今パトリックにのし掛かっているのは文字通りの「獣」だ。


「何も最後まで試そうってんじゃねーんだ。キスくらい、お前も初めてじゃないんだろ?」


 艶めく微笑に彩られて、ラギウス本来の美貌に余計な拍車がかかる。松明の炎に照らされて煌めく赤髪がパトリックの額を掠めたかと思うと――ふっと、堪えきれずにラギウスが声を漏らした。


「何て顔してんだよ、リッキー。冗談だよ、冗談」


 さっきまでの色香を豪快に吹き飛ばして、ラギウスが盛大に笑った。


「本気でキスするわけねーだろ。俺は男に興味ねー……って、うわっ!」


 上体を起こしかけた体を引き戻され、バランスを崩したラギウスの体を今度はパトリックが半回転させて組み敷いた。強かに打った後頭部に閉じていた目を開くと、形勢逆転したパトリックが冷ややかな目でラギウスを見下ろしている。ちょっと……いや、かなり怒っているようだ。


「あー……何? もしかしてマジで怒ってんのかよ?」

「そうだな。君の冗談には慣れているつもりだったが、今回の件に関しては許容できない」

「相変わらずクソ真面目なんだよ、お前は。少しは遊び心を持った方が人生楽しいぞ」

「君は遊びで人に手を出すのか」

「そういうことを言ってんじゃねーよ。いいから手ぇ、離せ」


 可能な限り抵抗を試みるも、ラギウスを押さえつける力はびくともしない。さすがは海軍大佐。絵本から出てきた王子様のような風貌のわりに、細身の体はしっかりと鍛えられているらしい。

 それでもラギウスとて海賊船エルフィリーザ号の船長だ。常日頃からからかっている相手に、いつまでも組み敷かれたままでもいられない。

 今はただパトリックに重力が味方しているだけで、互いの力にそう差はないのだ。再度形勢逆転すれば……と足を上げたところで、不意に電流が走ったような衝撃がラギウスの全身を襲った。


「……っ!」


 危うく変な声が出そうになったが、そこは必死に耐え抜いた。若干の涙目で睨み付けると、ラギウスの上でパトリックが妖しく笑う。


「そういえばメルヴィオラ様から、君の弱点を聞いていた」


 ささやくように呟いて、パトリックの右手が再度ラギウスの尻尾を撫で下ろした。その度に狼の尻尾はブワッと膨らんで、ラギウスの体は痙攣するようにぷるぷると小刻みに震えている。


「くそ。やめ……ろ! そこ触られる、と……気色悪ぃんだよっ!」

「だから触っている」

「リッキー、テメェ!」

「躾のなっていない獣には罰が必要だろう? 今までの君の行いを悔いればいい」

「あーっ! あー、もう! わーったよ! 悪かった! 俺が悪かったから……いい加減、手ぇ離し……」


 ふっと、掠めるように。

 けれど声を奪うには十分過ぎるほどの感触を残して、互いの唇が触れる。

 見開いた瞳の奥、重なり合うのは二つのブルー。驚きに瞼を閉じる間もなく、二度、三度触れ合った唇は、やがてしっとりと濡れ始めて。

 吐息が絡まり合う前に離れていく唇に、ラギウスは呆然としたままパトリックを見つめることしかできなかった。


「君にはこれが一番の罰になるだろう?」


 そう言って、パトリックは嫌味なくらいに綺麗に笑った。



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