メガネと魔法と時々お菓子

 「やあやあ【wizzard-魔法遣い-】!今日もくたびれた面構えだ。まるでチョコレイトの気品高い装飾品が溶けたみたいに残念な出立ちだね」テンションが高いセリフなのに、引くほど静かな声量だった。いつもなにかにヘラヘラしていて、疲れているようだった。彼女の表面はいつもどこか危うい。


 もう日も沈みはじめて、異かいのモノが人のモノマネをしていそうな時間帯だ。


 この場所にいるのも自分の家から繋がりやすい場所が幾つか点在していて、アトランダムにいる事が好きだったからだ。本当のくじ引きで、僕はその日をなにかに委ねて生きてる。自分の運命から手を放して、それがいい事のようにしてしまう。


 少年はその声に安心すると「メガネ騎士、今日も上澄みと中身の形容が違い過ぎてファニーだね」と返した。


 「私はこれでも聖騎士の称号と能力を持ったボッチだからねぇ」彼女はとてもうやうやしく礼をした。僕もそれに倣って会釈した。彼女はビニルみたいなコートを羽織っていて、メガネを掛けてる。ウェスト・ストラップに剣を帯刀している。けれど、その剣が見える事はない。そういう業物だから。


 僕はそれ以上にいつもどこか軽薄で、その面の皮が剥がれたらなにもないような表情をしている彼女を見た。今も浮ついたような笑顔をしているが、それは彼女なりの空元気で、空洞を埋めるためのエクスキューズなのかも知れない。


 世界に対して、いつもいつも、空虚なのにどうしてか彼女はこの現実を守ろうとする。僕とは違って、秩序めいたものを、矜持を持っているのかも知れない。ある中世の騎士のように。


 「近くに移動式のスイーツが来てたよ。一緒に食べる?奢るよ」僕がそう言うと彼女は微かにいつもより温かい顔をした。きっと彼女は甘いモノが好きなのだろう。心の空白を埋めるのにとてもいい匂いがするから。

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