【wizzard-魔法遣い-】
ロヴィン
扉を繋げる言の魔法
『起きて、【wizzard-魔法遣い-】』
瞼を開く。
彼は細身の体躯をゆっくりと起こし、少し黒みがかった顔に手を当てた。ぎこちなく起き上がると、ベットの毛布が彼の後を追う。まだ少し疲れの残った眼でカーテンを開けた。肌にチリチリと朝焼けの加護を受けると、彼は気だるげにくせっ毛をかいた。
洗面台で顔を洗い、ハーブで洗たくしたタオルを棚の籠から取り出す。それからじっとりした眼で鏡を見つめた。虹彩がやや灰色だ。彼自体も、少し希薄な佇まいをしている。残った水滴を髪から払うと、ほんのコンマ数秒その雫が空中で緩やかに動いた。それを彼は一瞥もせずに次の行動に移行する。
クローゼットからオリーヴ色のパーカを取り出し着ると、スキニ・ボトムを履いた。中には似たような衣類が収納されている。「おはよう」そう声がして、おはようと少年も返した。
「今日もとても疲れているね」酷く朗らかだが、何所か無機質な声色が響いている。
「いつも通りだよ」少年が自嘲気味に言うとそうだねと暗黙の返事が返ってきた。そのやり取りに少年は些細に安心すると、軽い朝食を摂った。ライ麦パンをスライスし、崩れたチーズを塗り、豆スープにつけて食べた。芳醇な味わいが鼻を通る。
眠気は少しだけ晴れて、彼は出掛ける事にした。パーカの上から、ファーが着いたポンチョを羽織ると過剰にモールドが彫られた杖を取り出した。彼の部屋には、様々な杖が置かれ加工する道具が散見される。
「いないモノ、見えないモノ、継ぎはぎの絆、寄る辺のない月」少年がそう言うと、玄関が少しだけ振動した。それを確認すると、短い杖をボトムのストラップに取り付けた。
扉が開くと、少年はその薄い膜に覆われた空間へと歩みはじめる。不確かな感触を感じながら、彼はまどろみの地面を踏んだ。
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