第34話 エピローグ②

 アメリカ。


 時間は昼。


 ピッツバーグにある高級タワーマンションの一室で、綾崎まどかは友達同盟にメッセージを投稿し終わってからアメリカンコーヒーを口に運び、ふぅと一息ついた。


「優斗たちの友達同盟、ずっと見てたけど……」


 誰もいない広い室内で、昔と少しだけ違う髪型、茶髪ゆるふわロングの少女が独り言ちる。大勢の大人に混じって仕事をこなしている中で、立ち振る舞いだけは成熟したが、外見は未だに思春期の色が濃いことは自分でもわかっている。


 さらに一口。温かい液体が身体に流れ込んで心地よい。


「優斗も一歩踏み出したんだね。私も変わらなくちゃって思うよ」


 昔を思い出す。優斗と付き合って一緒に友達同盟をつくって。互いに笑みを交わし笑い合ってはしゃいで。楽しくて心弾んで、毎日が煌めいていた。


 そして……ふとしたきっかけで上手くいかなくなってすれ違いの末にその恋は砕け散った。今飲んでいるアメリカンコーヒーと同じ苦い味。でも、と思い直す。まどかにとってはずっとずっと大切で今でも輝いている記憶だ。


 失敗したとは思うし、我ながら若かったとも思う。でも今なら、その失敗を経験に変えて、新たな未来に結び付けられるという自信がある。


 このまま終わったらしくじりのままだけど、自分が選ぶ道によってはその躓きを奇貨として光り輝く明日に結び付けられるという確信がある。


 友達同盟も優斗と一緒に作っていた頃と比べると全く全然比較にならないくらいに成長した。当初に想定していた通り、いやそれをも上回って、『世界の形を変える』事が出来るだけのツールに膨れ上がった。


 友達同盟は自分と優斗の絆だ。自分と優斗の遺伝子だ。それが自分たちの子供の様に世界中に拡散してゆくのは、まどかにとっては心震える事象だ。


 その友達同盟でずっと優斗たちの学園生活を見ていた。優斗が傷ついた足を引きずりながらも自らの意志で氷姫という友達を作ったことは素直に嬉しく、同時にそれが今の自分でない事は歯噛みする思いだった。これは嫉妬だ。嫉妬と呼ばれる感情、情念だということを成長したまどかははっきり自覚している。


 元カノの自分――綾崎まどか――と、今カノ……に近い存在の――早瀬舞依。


 コーヒーをもう一口含み、その味と流れで自分の思考を整理する。


「三年ぶり。懐かしいというのが素直な気持ちだけど……」


 まだ見ぬ近しい未来に思いをはせる。


「彩雲学園高等部。優斗に会うのは楽しみ。でもどうなるかな。優斗、驚くかな? 困った顔するかな? それとも……喜んでくれるかな?」


 ふふっとまどかは笑う。パソコンチェアから立ち上がって、壁にまで歩いてゆく。まどかは、張り付けてある写真、優斗と二人で昔撮ったプリント写真を指で軽く撫でる。


「今度こそ二人で一緒に成功しないとね。優斗」

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