第33話 エピローグ①

 その晩。北条鮎美は不快な夜を過ごしていた。


 昼間のカフェテリア。想定したようには進まなかった。日奈を追い詰めたのに氷姫がしゃしゃり出てきて。さらには害にもならないだろうと放っておいた優斗が訳の分からない勢いで周囲をかっさらっていって。鮎美は今、ベッドの上でスマホに向かっていた。





ともみっち:ねえアユっち。氷姫や優斗、このままでいいの?


サオリ:いいわけない陰キャ風情が!


エリ:きにいらないよねーなにさまのつもり


アユっち:ダイジョブ。ネットで叩くから


ともみっち:それでこそアユっち!


サオリ:やろうやろう


アユっち:つーか優斗マジむかつく





 鮎美は友達同盟のフリートークルームに匿名で書き込む。


 早瀬舞依と桜木優斗と美島日奈はカラダの関係。毎日三人でヤリまくってる

 #彩雲学園


 これでよし。友達同盟を使ってない学園生はまずいないし、学園の事は「#彩雲学園」でメッセージ投稿するのが暗黙の了解になっている。優斗や氷姫をディスれば、噂は広がってゆくだろう。さまあみろっ! 偉そうにしやがって! 私をコケにしてただで済むと思ってんのかっクソ陰キャが!


 ――と、すぐにタイムラインに反応があった。よし、とガッツポーズをする。


 MADOKA☆:お願い。


 え? っと思った。最初は疑問が先に立った。「お願い」ってなに? リアクションで投稿されたメッセージの意味が不明だった。


 次に、☆マークが目に入ってくる。☆マークは限られた管理者だけのアカウントだ。おいそれと目にするものではない。


 つーか、MADAKA☆って、『あの』MADOKA……なの? 友達同盟の設立者で管理人。現在は友達同盟を管理している巨大IT企業FREINDSの相談役。


 いや。いやいやいや。ありえないでしょ、常識的に。なんで一般女子学生の私の投稿に、『あの』『MADOKA☆』が投稿を返してくるのか。


 でも……と、再び投稿を見る。本人確認の☆ついてるし、フォロワー数六千万人とか……ありえない! でも本物っぽい。見れば見る程、本物としか思えない!


 しかしなんで匿名の私の投稿にMADOKAが反応してるの!?


 思考がぐるぐる回りする。鮎美には全く理解できなかった。しかも、『お願い』というのが、なんだか怖い感じでもある。





 MADOKA☆:桜木優斗と早川舞依と美島日奈は私の『友達』なの。誹謗中傷はやめて欲しいな(ハート)。コメントは削除しといたから。優斗たちとリアルでも仲良くしてね。お願い聞いてくれないとお仕置きだゾ(ハート)。#彩雲学園





 確かに投稿が削除されていた。ありえない! 友達同盟のメッセージ管理はFREINDSの管理人にしか不可能だ。


 心臓が止まりそうになった。背筋が怖気だった。


 わからなかった。なぜ、MADAKA☆が出てきたのか。全く理解できない。だが、このMADOKA☆が本物であろうとなかろうと、鮎美が逆らえる相手ではないことは確実だった。優斗たちと仲良くしないという選択はありえなかった。友達同盟の鮎美のアカウントは筒抜けなのだ。過去の自分のトークルームでのやり取りを暴露されれば終わりだ。


 鮎美はあわててMADOKA☆にメッセージを送る。


 あゆっち:了解ですぅ。優斗たちとは仲良くしますぅ。お仕置き、勘弁してね(ハート)。


 北条鮎美の思考はそこで止まった。

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