第27話 舞依覚醒②

「ええと。舞依さんは……悪くないと……思うかな?」


 日奈の突然の割り込みではあったのだが、陽キャたちには予想外だったらしく、戸惑いが生まれたようだ。


「その一年生の子も、舞依っちも、悪くないと……思うかな?」


 一瞬、ギャルたちの反応が遅れ、ギャル二人の顔付きがお気楽ご気楽なものから少し真面目な表情に変わる。


「ふぅん」


 と、ギャルの一人が少し不快だという感じで声を出した。


「ヒナっち……そっち側につくんだ?」

「いや、ええと……。さすがにともみっちがマズいと……思うよ」


 ギャル二人の雰囲気が変わる。


「ふーん。ヒナっち、そうなんだ」

「ヒナっちで、こっち側のナカマだったんじゃないんだ?」


 それから、陽キャ二人は言葉を止め、じろじろと二人して日奈を見やる。対する日奈も黙ってはいるが、まじめな顔で二人に対している。


 じいっと、じれるような時間が陽キャ生徒と日奈の間に流れ……


「行こっか?」


 ギャル生徒一人がぽつりとつぶやく。


「だね。もうここはいいっか」


 もう一人が応対して、二人して背を向けた。そのまま興味を失ったという様子で去ってゆくギャル二人。いなくなって、周囲の生徒たちも出し物が終わったという様子で別れてゆき、「ふぅ~」と大きく日奈が息を吐いた。


「やれやれ……だったね」


 日奈が、まだ気分が悪いという様子のユリカ、敵との対峙を終えて放心状態の舞依、それから絡まれていた一年生の順に目を向ける。


「大丈夫ですか?」

「助かり……ました」


 胸に手を当てて安堵と感謝の面持ちで、その後輩生徒さんは日奈に微笑を送ってきた。


「でもあいつら、先輩のくせに後輩に絡むなんて! それも二人で一人に!」


 ユリカはまだ興奮冷めやらぬ様子。


「陽キャグループは、グループ内カーストが重要で、他の一般生徒とか陰キャは自分ら以下の認識だからな」

「ふーん。言われてみるとそんな感じね。すっごい嫌な奴ら」


 ぷんすかと、ユリカはまだ腹の虫は収まらない。ユリカが絡まれたわけでもないのにこれだけ他人の為に怒れるのだから、強気のワガママツンデレに見えても根は優しい女の子なんだと再認識する。


 そして日奈とユリカが、立ったまま反応を見せない舞依に向き直る。


「舞依さん、お手柄です! タワマンでの特訓の成果、すぐに出たね!」

「舞依さん。素敵でした! ユリカ、惚れなおしました!」


 舞依は反応を返してこなかった。


「舞依さん……?」

「舞依さん!」


 二人が再び舞依の名を呼び、呆けていた舞依が僅かな反応を示した。


「え?」

「しっかりしろ、舞依。意識が跳んでるぞ」


 舞依が、はっと意識が戻ったという反応を見せた。


「え、ええ! はぁぁぁぁぁぁっ!」


 舞依は胸に手を当てて大きく息を吐いた。


「ふううううぅっ! 死ぬかと思ったわ」


 何度も、ゆっくりと深い深呼吸をして心を整えているという様子。


 俺はそんな舞依を見ながら、とりあえず舞依の踏み出しは成功してよかったと思う一方で気になっていたことを日奈に聞いてみた。


「でもあの陽キャたち、鮎美のグループだろ。日奈、よかったのか?」


 日奈は表情を少し曇らせて複雑な心中を見せた。


「うーん。あまりよくないかな? でも、あれはともみっちが良くないと思うよ」

「それはそうなんだが……。それが通用する鮎美グループでもないだろ? 俺も鮎美と付き合いはあるが部外者的な立ち位置だから責められることもないだろうし、責められても『悪かったよ気をつける』ですむが……。日奈は女の子同士の関係だし、そう簡単でもないだろ?」

「そうなんだけど……。でも舞依さんが勇気だしてるのに、自分の陽キャグループでの立ち位置ばかり気にして知らんぷりとか……できなかったんだ」

「そうか……」


 俺は日奈の言葉に納得した。


「悪かった。俺がつまらないことを聞いた」

「ううん。心配してくれるのは嬉しいよ。でも、こればっかりは私やともみっちやアユっちたち女の子同士の問題だから」


 日奈が心配ないよといういつも通りの朗らかで明るい笑みを見せてくれた。





 そんなこんなで。


 陽キャギャルたちが後輩に絡んでいた場面に出くわした時はどうなるか? とは思ったが、舞依の格段の成長が見られるという嬉しい結末に至った昼休みだった。


 絡まれていた一年生に「気を付けてね」と言葉をかけると「ありがとうございました」とにこやかで丁寧な返答が返ってきて。再びカフェテリアを目指す俺たちなのであった。

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