第25話 トモダチと友達
なんとか無事に終わったお泊り会。あのお泊り会から、俺たち四人の距離感が変わった気がする。
今までは共に過ごしながらもぎこちなさを排除しきれないというか、仲良くしようと努力している気配だったのが、本物の仲間になった感がある。
今も昼休み、カフェテリアに向かって廊下を進んでいるのだが、長年連れ添った友人グループという実感がある。以前は目的地が同じ四人が移動を共にしているだけだったのだが、今は四人の目的が同じになったと言ったらよいだろうか。互いの行動や考えを忖度することもなく、自然な流れで一緒に歩みを進めている。
そしてそんな俺たちを見て、学園生たちも俺たちをグループとして認めてくれた雰囲気があった。
そりゃあ元孤高の氷姫に陽キャど真ん中の日奈、隠れ人気者ロリのユリカと男子生徒(俺)が一緒にいるのだから未だに若干の注目があるのは致し方ないのだが、ほぼもう、あまり興味はないというか特段の注視には値しないというか。ありふれたいつもの学園の日常の中に溶け込んでいるという感触に、こんな風になるとはと素直に驚いている俺がいるのが実際なのであった。
「舞依さん、ユリカさん。今日、カップルデーだから、四人で一緒に松花堂弁当にしない。ちょっと高いけど、和食だからカロリー控えめだし、いいかなって思う」
「和食? 骨の多い魚、入ってない?」
日奈のおすすめに答えた舞依だったが、昔のポンコツ具合はもう見えない。舞依が自然に作ってしまっていた心の壁は、日奈たちに対しては溶け切った様に見える。
「お弁当だから魚はあるかな?」
「ならお断りね。考えたくもないわ」
「舞依さん、魚嫌いなんですか?」
ユリカが割って入った。
「嫌い嫌い。大っ嫌い。というか怖いわ」
「なんでそこまで」
「昔、骨が喉に刺さって病院に運ばれたトラウマが……って、思い出しちゃったじゃない! ぞわぞわするっ!」
舞依が自分の肩を両腕で抱いて、震えている。
マジ、涙目で怯えている。舞依……さん? 大丈夫ですか? と声をかけたが反応は帰ってこない。そんな元氷姫の舞依のまた新たなポンコツ面を見せられて、舞依には申し訳ないが少しだけ、ほんの少しだけ新鮮な印象を植え付けられている俺がいるのも事実なのであった。
これが「萌える」というヤツなのだろうか?
『仮面リア充』の俺が「舞依のポンコツ具合」に「萌える」?
以前はやれやれとしか思ってなかった舞依のポンコツ面が新鮮に思える?
ちょっと想像もしていなかったことなのだが、否定しきれない。
そして舞依は三分ほどで回復した。さすがポンコツとは言え仮にも元氷姫。立ち直りが早い。
「でも……松花堂弁当。魚……は優斗に押し付けるとして。カロリー控え目は嬉しいけど、私は和食より洋食派なのよ」
「そうなんだ、舞依さん。洋食だと、デミグラスオムライスがお薦めかな? カロリーは多くなっちゃうけど」
「二人とも……なんでそんなにカロリーとか気にするんだ?」
「「カロリーは女性の敵よっ!」」
二人が同時にハモった。
「でも二人とも……なんというか、全然太ってないぞ」
「それは甘いものを我慢して我慢して我慢して……食べ過ぎないようにしてるからっ! 優斗君、女の子の努力、わかってないっ!」
「いや……そうなのか? ごめん」
「優斗君だって男の子だから、スタイルのいい女の子に惹かれるでしょ」
「いや、確かに俺も男だからそういう部分はあるんだが……舞依はバランスいいし、日奈も別に気にする必要はないぞ」
ちらと舞依と日奈の胸と臀部に視線を走らせてしまった。
日奈はそれに気づいた様子。思春期の女の子の感度は全く侮れない。
「優斗君が私の凸ってるところ、見たーーーーーーっ!!」
うええええーーんと、日奈が舞依に泣きついた。舞依が日奈の頭をよしよしと撫でる。
「男はケダモノです、日奈さん、舞依さん」
ユリカがいつもの主張を始め出した。やれやれと思うが、反論する気はない。俺が舞依と日奈に視線を走らせたのは事実で、『仮面リア充』と言えども思春期の男子だということだ。ユリカとぐだぐだな会話を楽しむのも一興だとは思うのだが、ユリカの主張は間違ってない。
「今からでも遅くありません。優斗はユリカたちの友達ですが、適切な男女の距離を取りましょう。男女八歳にして同衾せず、です」
「それはダメ」
「なんでですかっ!」
全くわからないという調子でユリカが声を出す。
「今はまだ、私と優斗は『私がリア充になる大作戦』継続中。お泊り会で約束したんだし最後まで付き合ってもらわないと」
そして舞依と日奈が顔を見合わせて笑い合う。
俺の入り込む隙間がない。というか、俺、ケダモノ? お泊り会での誤解はとけたはずなんだがそこはいかに?
とはいえ、舞依と日奈は完全に打ち解けたようでよかったよかったと思い直す。舞依のリア充になる大作戦も成功に向けて一歩近づいたという証だ。
あとは、舞依が他人とのコミュニケーションを普通にこなせるようになれば、晴れてリア充の仲間入りだろう。俺の役割も終わりを告げる。
ふと、そうなったら俺と舞依はどうなるのだろう? という疑問、不安に駆られた。舞依が俺を必要としてくれている理由も消滅する。お役御免というところだろうか。そのとき、俺と舞依の付き合いはどうなってしまうのだろうかと思う。舞依と近づきつつあった関係が元のトモダチごっこに戻ってしまうのだろうか。あるいは、さらに俺はお払い箱になってしまうのだろうか。
不安といったが、それ以上の感情、『言い知れない怖さ』を覚えていることに気づく。『怖い』のだ。舞依と離れ離れになってしまうのが。自分が『怖い』と思っていることを自覚してしまった。
なぜだ……と自問自答する。舞依に近づいて互いの心を交わすような間柄になってしまえば、また過去に味わった『あの分かり合えない苦しみ』に苛まれる可能性におびえて過ごさなくてはならない。舞依と上手く心分かち合っていたとしても、いつ、関係が崩れてすれ違う日々に陥るかもしれないのだ。
人と人とはそういうものだ。俺は過去からそれを学んで、だからこそ他人と表面上だけうまくやる『仮面リア充』として生きて行こうと決めたはずなのだ。その決意は固く揺らぎないはずだ。確固とした想いで決めたことのはずだ。しかし今俺は舞依にもっと近づきたいと思っている。
自分の心がわからない。舞依と接する内に揺らぎ初めて、そしてわからなくなってしまった。
その舞依は日奈と笑い合いながら、ユリカと掛け合いながら廊下を進んでいる。
俺は舞依と一緒に歩きながら心中でうめきを吐露する。
俺は舞依と『トモダチ』でいたいのか?
俺は舞依と『友達』になりたいのか?
その答えは、今は出そうにない。
俺は、舞依たちと表向きは和気あいあいと、でも心中には懊悩を抱えて、共に廊下を進んでいる。
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