第24話 お泊り会の朝
「うぎゃああああああっーーーーーー!!」
大きな声で俺はたたき起こされた。
「ま、舞依さんがっ、け、ケダモノにーーーーーーっっっっ!!」
まだ起き掛けでぼやけている視界で叫びの方を見やると、ユリカと日奈がパジャマ姿で立っていた。ユリカが俺の事を指さして、鬼の形相で震えている。
「なに……」
俺の布団。隣に寝ていた舞依が目をこすりながら、夢心地につぶやく。
「私……朝全然ダメだから、まだねかせといて……」
むにゃむにゃと、俺の布団の中に潜り込む。
「けっ、けっ、ケダモノがああああああっーーーーーーっ!!」
ユリカが再び叫んだ。
「ま、舞依さんに手出しして手籠めにするなんてっ! このケダモノっ、コロすっ!!」
ユリカが台所に走ってゆき、日奈はあらあらといった具合であまり驚いてはいない様子。
「優斗君もやるじゃない。舞依さんに手を出す度胸というか覚悟はないと思っていたんだけど……。でも結果オーライで、これで晴れて二人、彼氏彼女の関係ね」
ニコッと、よかったよかったという笑みを日奈が浮かべ、そしてユリカがキッチンから戻ってくる。その手に出刃包丁を握って、般若の形相を俺に向けてきた。
「覚悟出来てるわね、優斗! 舞依さんのこと汚したんだから、その報いは受け取ってもらうからっ!」
ユリカがしゃああっと吠え、その凶器を俺に突き出しながら狂った瞳で一歩踏み出す。
寝ぼけ眼だった俺は、この時点で自分が置かれた状況を完全に理解する。
「ちょ、ちょっと待て! ユリカ! 誤解だ! 俺と舞依は何もしていない!」
「ならっ! なんで二人して同じ布団に寝てるの! 舞依さんと一緒に! 言い訳は通用しないわよっ!」
「落ち着いて、ユリカさん」
と、日奈が全く完全に落ち着いた抑揚で、今にも俺を突き刺さんばかりのユリカをなだめる。
「優斗君も日奈さんも、二人とも完全にパジャマをピッチリ着ていて着衣の乱れはないわ。布団の様子から見てもきれいなもので、二人してエッチいことをした形跡はないわ」
「そ、それは……」
ユリカがひるみを見せる。
「ちゃんとよく確認して、ユリカさん。あの、布団の中で冬眠しているダンゴムシの様に丸まっている舞依さんが、昨夜優斗君とくんずほぐれつした女性に見える?」
なんつー表現をするんだこいつとは思ったが、日奈の差し出してくれた助け舟は正直ありがたかった。
「……見え……ない……」
ユリカが、その凶器を持っていた腕を下ろす。
「日奈の言う通りだ、ユリカ。俺と舞依は昨日、少し話をしただけで、男女の間ですることはなにもしていない! 舞依を起こして聞いてくれっ!」
「むぅ」
ユリカが未だ不満で不信だが、一応は鉾を収めるという様子を見せてくれた。
「でも優斗君と舞依さんが結ばれるのが本当はめでたしめでたしなんだけどね」
日奈が、戸締りした家に再び風を呼び込む様なセリフを告げる。
「勘弁してくれ」
俺が頭を抱え、日奈がくすりと笑う。ユリカは「舞依さんにきっちり聞いて、優斗には昨晩の事、洗いざらい白状してもらうからねっ!」っとまだ俺を放免したわけじゃないんだから的なツンデレっぽいセリフを吐く。舞依はそんな騒ぎなどどことやらで眠りこけていて、やれやれと俺はため息をつくお泊り会の朝なのであった。
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