第20話 三人で一緒にお風呂②
「ここが舞依さんのお風呂場ですか!」
浴室内に、バスタオルをまとった三人、興奮した様子のユリカとあくまで落ち着いている日奈。そして最後に舞依が、少し恥ずかしいという面持ちで中に入る。
薄ブラウンのタイルに囲まれた、綺麗で清潔感のある空間だった。湯舟は二人入っても大丈夫そうだ。洗い場は広く、ちょっとした運動もできる様に設計されていて、三人が中に入っても十分な余裕があった。
皆で仲良くシャワーの前に並んで、タオルをはだける。
ちらちらと舞依の身体に目線を走らせるユリカは別として、舞依と日奈は身体を洗い始めた。
その舞依が、泡立ったスポンジで柔肌をこすりながら、日奈に語りかけた。
「日奈さんって、その……」
少し間をおいて、日奈の出方をうかがう様子。日奈はなんでもきいてね、という打ち解けた表情を舞依に見せていた。
「前から一緒にいるけど桜木君の恋人って……わけじゃなさそうだけど。桜木君の事、気になったりしない……の?」
思い切って聞いてみたという様子の舞依。日奈は自然な調子でその舞依に答えた。
「そうね。優斗君は『友達』だね、今の所。恋人になってもいいとは思うけど、今の関係が心地よいかな? たぶん」
日奈は、うんそうだね、と自分の言ったことに納得しているという顔を見せていた。
「そういう舞依さんは優斗君のこと、実は相当好きでしょ、今となっては。かなり好きに近いって見てるけど」
「うーーーーーー」
と、舞依は日奈の指摘に、苦し気にうめいた。
「正直言って……けっこう気になっている……かも」
言いたくはない。だが日奈に質問した流れで、白状しなくてはならないという調子だ。
「舞依さんと優斗君って結構お似合いかなって、私思ってる」
「そう……かな……」
「うん。舞依さん、最初はネットでは好意を寄せていた『友達クン』なのにリアルでは『気に入らないクソリア充』の優斗君のこと、どう思っていいかって惑ってる風だったけど、今では気心もしれて、結構いい感じになったって思ってる」
風呂椅子に座って腕をこすりながら、日奈は舞依に言葉を振ってくる。
「………………」
舞依は座ったままスポンジを握りしめて動きを止めていた。
「日奈の言う通り……かもしれない。自分ではまだ頭の中散らかってるけど、桜木君に惹かれての否定できないし……。ああっもうっ!」
舞依は両手で頭を抱えて声を上げた。
「難しくてイライラして、でもなんかちょっとドキドキする!」
「ふふっ」と日奈が、親友の舞依をおもんばかるように笑った。
「そうだね。舞依さん、今はちょっと苦しいよね。でもリア充が目標なんだから、優斗君とくっついちゃえばいいって私は思ってる」
「むーーーーーー。私、桜木君とくっつきたい……のかな?」
「舞依さん。優斗君じゃ、ダメ?」
「……ダメじゃないと思う。桜木君とは会話は弾むし一緒にいて楽しい。でも私、男性経験とか皆無だから、男の人との距離感とか気の持ちようとか、よくわからなくて。今とは違った『彼氏』という関係って、よくわからなくって……」
「そうかもね。なかなか男女間の機微って、難しい所があるかも……だけど。あとは……」
日奈が一拍置いたので、舞依は「あとは……?」とその後を促す。
「あとは舞依さんにその気があっても、優斗君、意外と手ごわいかも?」
「桜木君が手ごわい? それって、女の子になびかないって意味? それとも、桜木君は、私じゃ……ダメって……意味……」
「最初の方。優斗君は女の子になびかない、って方。優斗君、リア充で鮎美のグループと交流があって、鮎美のグループには陽キャの女の子いっぱいいるのに手を出したとか浮いた話一個もない。女子とのカラオケとか合コンとか、角が立たないようにだけど、全部断ってる」
「それって……」
「うん。最初は優斗君、女の子には興味ない系なのかなって思ってたけど、舞依さんが現れて、優斗君も人並みに女の子と交流するんだって思って。でも……」
「でも?」
「見てるとわかるんだけど、優斗君、舞依さん相手でも一線は超えないようにしてる」
「それって……」
「勘違いしないで。エッチい話じゃなくて気持ちの問題。優斗君、舞依さんのリア充大作戦に付き合ってくれてるけど、舞依さんの心の中に介入まではしてきてない。その証拠に、何で舞依さんがそんなにリア充にこだわるのか……なんて、少しも聞いてこないでしょ」
「そう……ね。本当に……そう、ね」
舞依は複雑な面持ちを浮かべ押し黙った。のち、
「男と女って。いえ人間って、私が思っていた以上に複雑なのかもしれないわね。リア充になりたいって気持ちに揺らぎはないけれど、私が想像していたのとはちょっと違うのかな、って今思ってる」
――と、今まで舞依と日奈の会話を黙って聞きながら身体を洗っていたユリカが、声を上げた。
「不純です、舞依さんも日奈さんも! 女子会のお風呂で男の話とか、ありえません! 舞依さんの真っ白な柔肌をあの男に汚されるって想像するだけで耐えられません!」
「なんでユリカはソッチ方面の方向に話を振るの! エロいのは男じゃなくて、貴女だから!全然汚されるなんて話してないから! とか言って、どさくさに紛れて私の二の腕に触らないで!」
「舞依さんのいけずぅ」
「ふふふっ」
日奈が楽しそうに笑った。
「女子が集まったら気になる男の子の話になるのが普通、当たり前の事よ、ユリカさん」
「そんなぁ……」
「とかいいつつ、ユリカは抱き付いてこないでっ! 洗い流したのにまた泡だらけじゃない!」
「舞依さんは肌がきれいだから触りたくなるのよね、ユリカさん?」
「そう! その通り! 日奈さん、いいこと言った!」
「だからっ!」
舞依はユリカを振りほどいて……にこにことした笑みを浮かべていた日奈に目を向ける。
「………………」
少し日奈の身体を見つめる。
「え? な、なに、舞依さん」
舞依は、少し戸惑っている日奈に、改めて気づいたという調子で口にした。
「日奈……大きくて……いいわね」
「え? なに? なにが?」
「…………胸」
ぽつりを舞依がつぶやき、日奈が自分の胸に目を当てる。それから日奈は少しだけ恥ずかしいという様子で自分の胸を腕で隠して、舞依に応対する。
「舞依さんだって……綺麗じゃない」
舞依は日奈の言葉を受けて、自分の胸を確かめるように手を当てた。
「そんなに不満はないんだけど、もう少し大きい方が……。リアルが充実している女の子っぽいかなって。日奈ぐらい。あとは……」
舞依が頬を染めて。
「究極目標の『彼氏』――それは桜木君かもしれないしそうじゃないかもしれないけど――を作るのにも、ある程度あった方がいいかなって。もっと言うと、理屈じゃないのかも。女の子が大きいのに憧れるっての」
日奈と舞依が二人、そうかもね? という面持ちで顔を合わせる。ぶーぶーというブーイングが聞こえて、舞依はその発信源、ユリカを見た。ユリカは仏頂面をして押し黙っていた。
「どうしたの、ユリカ」
「…………何でもありません!」
「なんでもなさそうじゃないじゃない!」
ユリカが、哀しいという様子で自分の薄い胸に両手を当てた。
「ユリカは……毎日、骨太牛乳飲んで、おっぱい体操してるのに……」
ユリカは胸に当てていた手を顔面に移して悲痛な声を上げる。
「全然努力が報われません! 努力なんて無駄なんです!! 全部生まれた時に決まってるんです!!!」
舞依は慌ててユリカを慰める。
「そんなこと、ないから。ユリカぐらいの方が好きな人、結構いるから。その証拠に、ユリカ、一部の男子に熱狂的なファンがいるじゃない」
「うええええーーーーーーんっ! その舞依さんのその柔らかい胸の中でなぐさめてくださいーーーーーー!!」
「ちょっと! 調子に乗りすぎっ! きゃっ! どこ触ってるのヘンタイ!」
舞依と日奈とユリカのお風呂会の夜はにぎやかに更けてゆくのであった。
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