第19話 三人で一緒にお風呂①

 それから四人一緒に、夕食を作った。


 舞依の家のシステムキッチンは広く、俺たちが一度に入っても十分なスペースがあった。


 作ったのは、デミグラスハンバーグとシーザーサラダ、コンソメスープ。


 ユリカが下ごしらえして、俺が味付け、舞依が焼く係で、日奈がその舞依のサポート役。舞依はフライパンを手にしながら、ハンバーグをひっくり返すのに戸惑ったりして右往左往したが、日奈が上手く舞依を誘導して事なきを得た。少々焦げ目がきつくなったが、まあ合格点だという仕上がりだ。


 そしてダイニングで四人そろっての『いただきます』。


 舞依も日奈も俺もユリカも、もう親しい友達の様に会話に参加して、和気あいあいの食事シーンとなった。舞依が話を切り出しユリカが寄りかかる。俺が突っ込んで、日奈が最後に締める。そんな楽しい会話が続いて、舞依の会話訓練の成果が早速出ているという印象だった。


 というか、会話の技術的な訓練の成果というより、互いの事が深くわかるにつれ舞依や日奈やユリカの心の壁がこのお泊り会を通してさらに低くなったというのが実際なのだろう。


 食べ終わって、『ごちそうさま』。


 舞依は洗い物をすると皿を割りそうだという自己申告に基づいて運び役とテーブルの後片付け。流しものは俺と日奈とユリカが受け持った。


 そして――


「お風呂、どうする? 誰から入る?」


 という舞依の質問に、ユリカが我が意を示さんとばかり提案する。


「みんなで一緒に入りましょう。親睦の為に」


 日奈がそうねと相槌を打つ。


「わるくないかも。このタワーマンションのお風呂なら、十分な広さがあると思うし」

「え? でも、そ……」


 舞依がちらちらと俺を見ながら、躊躇するという様子。


「お泊り会だからって、そ、そんなことって……」

「舞依さん。当然の事ですが、私と舞依さんとユリカさんだけですよ」

「舞依さん。しっかりしてください。男は別ですあたりまえでしょう。女子会です」

「へ?」

「だから、男女は別々です舞依さん。あたりまえでしょう?」

「え? そう……なの……」

「そうですよ、舞依さん。さすがに仲良くつるんでる仲とは言っても、ですよ」

「そ、そうなんだ。驚いた……」


 やれやれと深呼吸している舞依に、二人が常識を教える。何かとんでもない勘違いをしていた舞依。そのちらちらと、俺が落胆するのか安堵するのか、という反応をうかがっている様子になんだかなーと胸中でつぶやく。


「残念でしたね、優斗君。女の子とお風呂なんて夢の出来事だったでしょうに。舞依さんだけならよかったんですけど」

「そもそも舞依さんの前にも後にも優斗には同じお風呂に入って欲しくありません。舞依さんが汚れます。ユリカたちが入ったら、お風呂のお湯、入れ替えましょう」

「私は気にならない、かな。お湯入れ替えとか、それはそれで優斗君に失礼かなって思うけど。舞依さんも、優斗君なら気にならないでしょ」

「さすがに一緒にって言われた時はあわあわしたけど……別に一緒に入らないのなら……」


 舞依も気にしないという応答だった。


「好きにしてくれ」


 俺はあまり女子たちのお風呂話に口を出したくないという気分もあって、短く答えた。クラスで女子が男子の話題で盛り上がっている時とか。そういう時に口を挟むといいことはない。それは経験として知っていた。


「みんな上がって、俺が入れるようになったら教えてくれ」


 そう答えて、ダイニングのソファに横になった。


 日奈たちは舞依を従えてわいわいと仲の良い様子で、LDK外に見えなくなった。

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