第11話 ユリカと友達同盟①

 そしてその日の六時間目が終わった。終齢のチャイムが鳴り、同時に教室がざわざわとにぎわしくなる。


 その俺と舞依と日奈のいる二年二組の教室入り口の扉を、ガラリと開いた人物がいて、動き始めていたクラス中の注視を集める。


 金髪ツインテールの小柄な女性徒。彩雲学園高等部の制服、青のブレザーに同色のミニスカートをはいている。首にかけたリボンは赤なので一年生。森島ユリカその人が、仁王立ちで舞依に視線を注いでいるのであった。


「舞依さん! 来ました! 一緒に帰りましょう!」


 クラスの面々に臆することなく、というか自分たちの関係を宣言するようにセリフを発する。声を向けられた舞依は、周囲の注目を一身に浴びて、下を向いて縮こまってしまっている。


 ユリカの登場は、正直、あまり良い流れではない。舞依がその分厚い氷の衣を溶かして日奈とトモダチになり、俺も加わって友人付き合いという認識が学園内に広がっている。まあ、氷姫といえどそういうこともあるか、という認識だ。


 その安定を覆す様なユリカの登場。ユリカも学園内では有名人で、一部の男子には熱狂的な人気があるといった生徒だ。いったん落ち着きかけた氷姫の噂話が再燃するという意味で、あまり良い流れではない。


 しかしユリカはそんな事を考えている様子もなく、なおも畳みかけてくる。


「舞依さんが私の事を伴侶にしてくれて、幸せの絶頂です! 私は舞依さんのこと絶対に裏切りません! 寄ってくる男共は今までどおりちぎっては捨ててボロ雑巾にするのでそこの所は安心してください!」


 ユリカのセリフに、教室内が波打った。


「どういうこと?」

「あの子、一年の森島ユリカ……だよな?」

「早瀬さんって、日奈さんと仲良しになったんじゃなかったの?」


 口々にクラスメイト達が疑問を発して、三々五々と会話を始める。このままの流れで進ませるわけにはいかないなと、俺は立ち上がった。入り口に立っているユリカに寄って行って、ユリカの後ろからユリカを紹介するようにその両肩に手をのせた。


「みんな、聞いてくれ!」


 俺が教室内の面々に対して言葉を発する。


「この森島ユリカさんは、早瀬さんの遠縁にあたるんだ。早瀬さんが幼い頃、森島さんと遊んだこともある間柄だ。最近それがわかったので、学園でもこれから一緒にいることも多いと思う。そういうことでお願いいたします」


 ユリカが、「え?」という目をして俺を見るが、俺はにこにこ顔で無言の圧力。ユリカは、ううっ……と少しうめいた後、俺に屈するのは不満だという表情を浮かべながらも渋々と言葉を発する。


「よろしく……おねがいします」


 ユリカの納得はしていないという顔だったが、教室は「おおっ、そうだったのか!」という安堵と納得の反応に満たされた。


「早瀬さん。日奈。みんなで一緒に帰ろう」


 俺が自然な流れで舞依たちを教室外に誘導する。舞依は努めて平静を保つという面持ち。努めてというのは、舞依を知らないはたからみれば、いつもと同じクールな様子の中に少しだけ波が見える程度ということなのだが、舞依を知っている俺からすれば舞依の心臓はバクバクでいつ卒倒してもおかしくない程テンパっているのは想像に難くない。


 その証拠に舞依は無言。いや、いつも寡黙なのだが、歩みがいつもと違って油をさしていないロボットの様だ。


「いこう」


 こんな状況でも変わりないトモダチキャラの俺に先導されて、舞依たち三人は教室の面々を置いて昇降口に進むのであった。

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