第10話 ストーカー?

 そんなこんなで。


 俺と舞依と日奈が成り行きでつるむ様になって、一週間ほどが過ぎた。舞依の『リア充になりたい大作戦』を進めている俺たちは、トモダチになったということを学園内にアピールする為に努めて一緒にいる様にしていた。


 また、舞依もリアルの日奈に対して「あわあわする」ことが少なくなってきており同時に時折柔らかい表情を見せるようになり、徐々にあの『氷姫』がトモダチを作ったという既成事実が認められつつあった。


 そんな学園内で、俺には目についた事が一つあった。廊下で今、三時間目のある化学室に向かって三人で歩いている。俺は、その気になることを舞依と日奈に告げる。


「舞依。さっきから後ろに……」


 舞依ではなく日奈が返してきた。


「そうね。ちっちゃい娘。後輩かしら」

「日奈も気が付いてるか。隠れながらあとをつけて。アレで隠れてるつもりなんだろうが、ここのところ毎日だよな」


 ちらと背後に目線を走らせる。


 金髪ツインテールのロリっこが廊下の柱の陰に見え隠れしている。釣り上がり気味の目に強気の面立ちだが美少女の部類。外見はいわゆる気性の激しいツンデレ系。不機嫌マックスという感じで俺たちをにらみつけている。


 アレ……なに?


 というか、実は知っている。学園では結構有名な一年生の森島ユリカ(もりしまゆりか)。ちっちゃい子好みの男子生徒たちには断然人気がある。


「舞依?」


 俺は聞いてみた。舞依は難しい顔で答えにくそうな感じ。


「アレは……ええと……」


 言葉が途切れる。そののち、舞依は言わないと仕方がないという面持ちで続けてきた。


「好かれてるの」

「「好かれてる?」」


 俺と日奈が同時に質問する。


「そう。何度も校舎裏で……『告白』されてるの。最初はあわあわしたけど、何度目かからは無視してる。あと、毎日下駄箱にラブレターが入ってる」


 俺はそのロリっこを見やる。柱の陰から俺と日奈を親の仇の様な目でにらんでいる。


「……お前、いい加減にしてくれよ」


 俺が声をかけると、その舞依を好いているというロリっこユリカが、ばっと俺たち三人の前に飛び出してきた。


「酷いです、舞依さんっ! 私のこと放っておいてそんな人たちと恋仲になるなんて! しかも二人も!」

「いや、恋仲じゃないから。トモダチだから」

「同じことです! 二人とも、舞依さんから離れてください! 舞依さんと愛を交わすのは私だけなんです!」


 ユリカが俺と日奈を敵だという強い目線でにらみつけてきて、舞依がそれを制する。


「ちょっと、お、落ち着いて。みんなが見てる……わ」


 舞依は周囲を気にしている様子。周りに対してキョドっているが、何故か不思議とその原因のユリカとはある程度の普通の会話ができている。


「関係ありません。今は大切な愛の話をしているんです!」


 きっとした目で、俺を親の仇の様な視線で射抜いてくる。うーんと俺は胸中でうめいた。なんか、突拍子のないのが出てきたな。しかも人の話を聞かない系。


「俺と日奈と舞依は友人、トモダチ。わかる?」

「わかりません!」


 と、ユリカは吠える。


「舞依さんの事、『舞依』って呼び捨てにしないでください! 舞依さんをカドワカす邪悪な男子と女子。舞依さんは私が救います! 邪悪が舞依さんに悪さしないように、舞依さんから離れるまで、私が見張ります!」


 むーんと再び声にしないでうめいた。どうしたもんかなーと思いつつ、ユリカを見る。強気ワガママ思い込み激しい系金髪ツインテール美少女。でも悪いうわさは聞かない。一部のそれ系男子に熱狂的に人気がある。舞依にご執心らしい。というか……百合……さん?


 俺は隣で困った顔をしている舞依に振ってみた。


「舞依。この娘、どうする?」

「困ってる。悪い娘じゃないんだけど、ちょっと尖りすぎてて。女の子とも友達にはなりたいけど、恋愛関係は……。彼氏……が欲しいわ」


 舞依は俺相手なのでセリフをつっかえることもなく、『彼氏』という言葉に恥じらっている様子。


「それは気の迷いです! ラブコメコンテンツに洗脳されているだけです!」


 ユリカには舞依の言葉に臆する様子はない。


「大丈夫です。舞依さんと私の相性ばっちりだってタロットにも出てました。肌を……」


 言葉を切って一拍置く。


「重ねてみればわかります」


 ユリカがぽっと染まった頬に両手を添えた。『その』場面を想像して嬉し恥ずかしという様子で身をよじる。


 俺は、三度目のうめきを発しながら、ユリカに聞いてみる。


「君、俺たちが別れるまで、付きまとうの?」

「頑張ります!」


 むんっと両拳を握って、ガンバリマスのポーズをする。


 俺は思考を整理する。森島ユリカ一年生。見て話した感じ、舞依にぞっこんだが悪い娘じゃないし、学園の有名人の一人だが変な噂も聞かない。


 舞依に付きまとっているということが良い方向に作用して、舞依の精神的な壁がこのユリカに対しては少ない。その証拠に、舞依はユリカに対して臆することもないし、ほとんどきょどきょどする様子もない。


 そして、ユリカは俺たちが舞依と別れるまでは付きまとうと宣言している。


「舞依はこの娘、嫌いじゃないって言ったよな」


 確認の為に聞いてみる。


「言ったわ」

「女の子とのトモダチならなりたいって」

「ええ」

「なら、ユリカさん。俺と日奈と舞依と、トモダチになろう。恋愛関係じゃなくて、トモダチ。恋愛関係は、お互いの事をもっとよく知ってからでもいいだろう。舞依が君と仲良くなって付き合いたいっていうなら、それはそれでいい」


 どう? という感じで。猛獣に優しく手を差し出すという調子で、ユリカに提案してみた。


「いいね、それ。すごくいい案」


 日奈が同意してくれた。ユリカは、「え?」という表情を浮かべている。俺の言っていることがよくわからないという顔。そして舞依が俺の後押しをしてくれた。


「そう……ね。付きまとわれるのは……迷惑だけど、友達としてなら歓迎かも。私、今、絶賛友達募集中だから」


ぱあっと、ユリカの顔が晴れた。


「舞依さん! ありがとうございます! まずは友達ですね! わかりました! 一緒にお風呂とか入って洗いっこしましょう!」


 きゃっと、ユリカが舞依に抱き付いてきた。舞依は、流石に困っているという顔で天を仰いでいる。


 トモダチという関係をわかってるのだろうか、この娘は? と俺は思ったが、延々学園内で付きまとわれるわけにもいかないので、ここは奇貨とするべきだろう。


 ということで、舞依グループにユリカが加わることになった。というかなってしまった。


 俺と舞依たちの運命やいかに、という程のことではないのだろうが、ユリカにはかき回されそうな予感がする異動時間の廊下なのであった。

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