第9話 友達同盟の過去②

「優斗、起きてる!?」


 俺の部屋の扉が開いて、茶髪ゆるふわショートの女の子が飛び込んできた。綺麗な目鼻立ちの、実際の年齢よりは大人びた美少女だ。


「まどか……か? ちょうどよかった。このプログラム、見てくれ。サーバ上の設定が上手くいかなくて……」


 俺はパソコンを前に、デスクチェアからまどかに声をかける。まどかはふふんと鼻を鳴らした後、どれどれと俺を押しのける様にして脇に座った。


「ちょっと! 狭いぞ!」


 俺が不満の声を漏らすも、まどかはどこ吹く風。一つの椅子に二人で身を寄せている格好で、まどかの身体を感じざるを得ない状況なのは、恋人と言えどドキドキする。髪からのシャンプーの淡い香りが俺の鼻をくすぐる。


「恋人と言えど」といったが、まどかは俺の彼女だ。付き合い始めて一年以上経つ。中一の時に、教室で二人きりの掃除時、なんとなくいい雰囲気になって――


 まどか「ねえ。付き合おっか……」


 と、突拍子もなく言われて、


 俺「ええええええっ!!」


 という調子の成り行きで付き合い始めた間柄。付き合い始めた時点ではまどかの手さえ握れなかった俺だったが、中二になった今では仲の良い彼氏彼女の関係だ。ちなみにキスは何度かした。それ以上の身体関係はまだ。


「うんうん。プラットフォームまで自作する意味はあまりないんだけど、せっかくできるんだからやりたいよね」


 まどかは両手をキーボードに乗せ、リズミカルにキーを叩いてゆく。この綾崎まどか(あやさきまどか)は凄腕のプログラマーで、プロSE顔負けの異能力者。知る人ぞ知る世界的なハッカー(いわゆるクラッカーとは違う)で、『MADOKA』の名前は欧米の巨大IT企業のその筋の人間には知れ渡っている。どこのチーターかと時折話題になるのだが、日本の一般女子中学生だとは思いもよらないだろう。


「サーバ代とか管理費用とか、大丈夫なのか?」

「だいじょぶだいじょぶ。いや、ぶっちゃけ管理は私が持ってる小さな会社に丸投げするんだけど……。SE追加で雇う余裕はあるから無問題」

「…………」


 こいつ、小さいとは言え会社持ってたのか?知らなかった。というか、色々なIT系大企業のプログラム設計に関わっているらしきことを俺に匂わしてきたりして計り知れない。おそるべし、綾崎まどか、十四歳。


「エラーは、見えるところは直しといた。ほめてほめて!」


 まどかが顔を寄せてきた。にこにこと、ご褒美を要求するまなこ。俺はまどかの求めに従って、その頭部をなでなでした。


「ちょっと! 違うっ! 私、女の子! わかる!?」


 まどかが不満だという様子でぷうっと頬を膨らました。モデルの様な美しい女の子なのに小動物の様な愛嬌があって、その仕草がなんとも可愛らしい。俺はこの少女にぞっこんだ。


 すりすりと、俺の顔に頬を擦り付けてくるまどかが、目をつむる。俺はそのまどかの唇に、自分の唇を重ねる。一時の逢瀬。そののち、まどかが身体をゆだねるように、俺にもたれかかってきた。


「優斗にも少しだけ手伝ってもらってるこのプログラム――『友達同盟』――は、私が大企業に根回して広げる予定。中高生たちの交流ツールにするのが第一段階の目標よ」

「ステマ……かっ!」

「ステマ違う! ちゃんとした広告企業を通したプロジェクトも進んでるの!」

「第一目標って聞こえたが……」

「言った言った。きちんと言った」

「じゃあ、それ以上の目標とか……」

「あるある。でも、まだ優斗にも内緒。私の心の深い奥底の闇の中にしまっていて、でもいずれ優斗にも見せてあげる。その時は、優斗と私の人生、一蓮托生だからね」


 にこっと無邪気に悪魔の微笑みで笑うまどかに、恐れおののくと同時に、心を射抜かれる。





 俺は中学二年生の時、そのまどかとの将来を夢見心地で漠然と想像しながら、楽しい毎日を送る日々を過ごしていた……


 そして今は高校二年生の『仮面リア充』。俺は昔の記憶に心震える。

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