第8話 友達同盟の過去①

 そして夜になって。


 まいっち:今日のカフェテリアでの会話は、けっこう上手くいった! ドヤッ!


 舞依のトークルーム内で、その舞依の『リア充になる大作戦』が始まってからの日課になっている『本日の反省会』を開いてた。


 ベッドに横になりながら、なんだかなーとスマホに打ち込む。





 トモダチ君☆:でもまあ、まだまいっちは周囲を気にしすぎてるかな? 自分のテーブルで話してるときに、周りをキョドキョド見回したりはせんぞ


 まいっち:だって! トモダチ君やヒナっちとのおしゃべりは、なんとか頑張れるレベルになってきたって自覚はあるけど……。周囲の視線が……どうしても気になる……


 ヒナっち:ぜんぜん気にすることないよ、まいっち。みんな、まいっちの美貌にマイってるだけだって


 まいっち:ヒナっちがギャグ……じゃない、いいこと言った!


 トモダチ君☆:まあ、確かにヒナっちとまいっちが一緒にいると目立つからなぁ。でもそれでヘイト買う可能性があるのは俺なんだぞ。まいっちは周囲を気にしないで俺たちとの会話に集中すべし


 ヒナっち:そう。トモダチ君、いいこと言った


 まいっち:私、周りに変な目で見られてない?


 トモダチ君☆:だから、変な目というか、こいつ気に入らねぇって見られてるの、俺だから!


 まいっち:そうなんだ……


 トモダチ君☆:普通に考えてくれ。お前は『氷姫』。外見的というか、中身を知らない一般人にとっては。いいか?


 まいっち:うん。いい


 トモダチ君☆:そして、ヒナっちは陽キャの人気者女子。狙ってる男子も多い。いいか?


 まいっち:いい


 トモダチ君☆:そんな美少女二人と仲良くお昼してる男子が俺。同じ男子から見たらどう見える?


 まいっち:そりゃあ、そういうキャラはアニメでも漫画でも、男子のヘイト買うっぽい。ざまぁの対象者筆頭かなぁ? 碌な結末向かえないよね草 ざまぁって感じ笑


 トモダチ君☆:草とか笑とか……。まいっちは俺の味方なのか敵なのか?


 まいっち:それは冗談だけど、よくわかった。トモダチ君も大変だよね


 トモダチ君☆:まいっちのせいだろーが。自覚してくれ


 まいっち:自覚した。会話、頑張る


 ヒナっち:まいっちはネットだと会話なめらかなんだけどね


 まいっち:なんでだろう? 相手の顔とか仕草とか。情報量が多すぎて頭パンクするっぽい。なんかいろいろな事、考えちゃうの


 ヒナっち:頭カラッポにして会話するといいよ。楽しくおしゃべりおしゃべり的な


 まいっち:あと、相手の体温みたいなのが直に伝わってくるのがヤバい。地雷踏まないようにしなきゃとか、そんな事、考えちゃう


 トモダチ君☆:でもまあ、まいっちの『リア充になる大作戦』はとりあえず情況を進めつつあるから、気楽に努力してくれ


 まいっち:ラジャー


 ヒナっち:ガンバ!





 そこまでチャットしてから、俺はスマホを置いてベッドに大の字になった。


 昼前。学園屋上での陽キャグループ内での会話が頭をよぎった。


 現状で陽キャグループは、俺と日奈が舞依に構っているのを静観の様子。わりと興味がてらに楽しむ視線が多い。ただ、リーダー格の北条鮎美は舞依の事を相当嫌っている。舞依に接触している俺と日奈にも複雑な思いがあるだろう。


 俺も慎重に振舞っているから、すぐに陽キャグループ内で俺や日奈を糾弾する流れにはならないだろうが……。注意は必要だと認識している。


 今までの流れで、日奈と共に舞依の目標を手伝う事になってしまっているが、適当な所で身を引くのが妥当だと判断もしている。


 昔、『あいつ』――『まどか』との交流で散々地を這いずったではないか。俺は、『まどか』との関係で失敗した後に、他人とは上辺だけの交流で上手くやるだけの『仮面リア充』として生きて行くのだと決めたのだ。


あの苦しみ、苦さは、もう二度と味わいたくない。俺の心はまどかとの隔絶で折れてしまっている。


 舞依とは、ネット上では友達同盟初期の頃からの付き合いでもある。だからこそ、舞依との関係を進めてはいけないのだ。今は舞依とはまだ上っ面だけの付き合いで収まっている。舞依との交流で、下手に互いの心の片鱗を見せる事は絶対に避けなければならない。何故ってその結果、分かり合えないという苦渋をわずかでも味わったら、心の奥に押しつぶしたつもりの過去の残滓が増殖して俺を覆わんばかりになるからだ。


 俺の心はもう折れている。


 舞依とも日奈とも、親交を深めるつもりは毛頭ない。


 俺は目をつむる。


 しまったはずの記憶が浮かんでくる。


 今の俺の力ではいかんともしようがない。


 俺は寝返りを打って、その記憶をかき消すように枕に顔を埋めた。

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