第7話 仮面リア充
そんなこんなで、俺と舞依と日奈が徐々に仲良くなってゆく様を『見せる』日々が続いたある日。リア充グループ内でその話題がでた。休講の四時間目で、場所は屋上。俺と鮎美と男子女子がだべっているときにだった。
「そういえば、優斗。氷姫と仲良くなったっぽいけど」
鮎美が話を振ってきた。
「見てる限りカレカノって感じじゃないけど、氷姫に告白したの? さえっちとかマコとか、誰が誘っても乗らなかった優斗っぽくないけど」
鮎美の口調はあくまで普通。でも俺に探りを入れている抑揚も含まれている。氷姫を気に入らない鮎美の心の奥底に、俺に対する不満が隠れているのが見え隠れしていた。
俺は、鮎美の機嫌を損ねないように細心の注意を払って答えを返す。もちろん、そんなことはおくびにも出さないが。
「告白とかしてないよ。特に氷姫って好みでもないし。偶然話す機会が何度かあって……。なりゆき、かな?」
「でも、まんざらでもない様子じゃない?」
ほかの男女も話に乗ってきた。
「優斗とヒナっちと氷姫って、最近の話題だよね?」
「そうそう。マジなところ、氷姫ってどんな感じ? 性格はお断りだけど、俺、あの顔は好みだわ」
「優斗君、隅に置けないよね。カレカノとかあまり興味ないっぽいキャラだと思ってたけど、てーだすの早いじゃん」
「いやいやいや!」
俺は、手を振って否定する。
「マジ、氷姫って、ヒナっちを絡めてのタダのクラスメイトだから。少し話した感じ、ガード固くてマジ氷姫様って感じだから。てーだすとか、俺レベルだとムリゲーだから」
「ならさ」
男子が俺の首に腕を絡めてきた。
「氷姫をカノジョにするつもりないなら俺に紹介しろよ。俺、氷姫をオトす自身あるぜ」
「きゃははっ!」
女子連中が楽しそうというより嘲笑っぽい笑い声を上げる。
「トモヤに氷姫がオトせるわけないじゃん」
「なら賭けるか? グッチでもプラダでもいいぜ」
「その勝負、私らの勝確じゃん」
けらけらと別の女子が続く。
「氷姫。トモヤみたいなチャラ男より、優斗みたいな好アイソ系が好みっぽいって、友動でも一致した意見だよね」
「このまま優斗が氷姫、攻略しちゃうんじゃない?」
「だからさ」
俺が、タイミングを計って会話に言葉を挟む。
「ないんだなーこれが。氷姫様、彼氏とか全然興味ないっぽくて。俺、泣いちゃうって感じ」
えんえんと、俺は腕に顔を埋めて鳴きまねをする。女子の一人が、俺の頭をなでて「よしよし」をしてくれた。
「まあ、優斗じゃあ無理だよね。わかってるから。トモヤは、論外」
「けらけらっ!」
男女の関係を話題にした女子連中のテンションはあくまで高かった。
「でも、優斗」
鮎美が再び話を振ってた。
「ヒナっちにも言っとかないといけないんだけど、あまり氷姫と仲良くしない方がいいわよ。氷姫、私らから見たら絶対に『ミカタ』じゃないから。これは忠告」
「わかってるって」
俺は鮎美に合わせる。
「まあ、適当に氷姫に合わせて、クラスや学園で好ポジションに付けたら別れるから。それまで、利用させてもらうって感じかな? そのためには、氷姫を邪険には出来ないってこと」
「ならいいけど」
ふふっと鮎美が悪者の笑みを浮かべる。その笑いを見て、まあこいつも変わらんというか、ホントにわかりやすい自尊心高い系のタカビーだなと思い返す。
でも、鮎美の指摘は一理あって。
あまり氷姫の要望に親身になって自分の立ち位置、『仮面リア充』を見失ったら元も子もない。
わかってますよと、俺は胸中で鮎美にではなく自分に対して再び言葉にする。俺は、過去の人間関係の失敗から、他人の中には深く踏み込まないと決めた『仮面リア充』なのだから……
目の前で笑い話を続けている男女に混じって一人だけ、全く違う意識でセリフを発していることは自覚せざるを得ない、ある日の昼前だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます