第6話 日奈と舞依と友達同盟
舞依が日奈攻略を進める傍ら、クラス内と学園に向けて、舞依と俺とのトモダチ関係設定構築も同時進行で進めていた。
つまり、日直や掃除当番を代わってもらって、舞依が俺と一緒に日直や掃除をやるうちに自然と会話する仲に発展する、という方向性を生徒たちに見せつつあったのだ。
そして今現在、ホームルーム前に氷姫の舞依が俺と一緒にいることが多くなって、クラスの注目を集めるようになっている。
「俺はトモダチキャラだから、そんなに肩肘張らなくていい。日直や掃除を一緒にやって少し話すようになって……という流れで不自然な点はない。舞依も最初はあまり打ち解けた感を出さなくていい。最初は注目されるだろうが、やがて『氷姫』にもトモダチが出来たのか……と自然に流れていけばいい。俺も根回しするから」
その俺の、舞依だけに聞こえるセリフに、舞依がコクコクとうなずく。そこに日奈がやってきた。
「なに? 早瀬さん、優斗君と仲良くなったの?」
クラスメートに聞こえる声で、というか事前の打ち合わせ通りに日奈が輪に加わる。
「そんなに、仲良くは、ないわ。日直とかの、事務連絡とかそういうの」
舞依のセリフは、流れる様にとはいかないものの、なんとかなっているレベルだ。
「そうなんだ。私、クラス委員だから私にもなんでも聞いてね」
にっこりと微笑む日奈。クラスが俺と舞依と日奈の関係性を理解して、ざわつきが鎮まってゆくのがはっきりとわかる。
陽キャの日奈が『氷姫』にアタックしているという図式で、アタックしているのが誰にも明るく接する日奈で、男子とかではないので男女共にヘイトは買いにくい。そりゃあ、成り行きがどうなるのかという注目は集めているが。
「そうだ。今日の昼、一緒に食べようよ。クラスの事とかお話しながら」
日奈が、これも打ち合わせ通りに提案してきた。
「わ、私は別に……」
舞依は逡巡するフリをする。『孤高の氷姫』という設定が学園内に定着している以上、簡単に『落ちる』わけにもいかない。
「今日のカフェテリアはカップルデーだから、私と日奈さんが一緒だとスペシャルランチを注文できるよ」
「それ、なら……」
舞依は渋々と言った様子を見せてから納得する。
「決まりね」
日奈が破顔する。
クラス内の注目は浴びている。でも、さほどのざわつきはない。誰とも仲良く付き合えるという特徴に秀でている日奈が、『氷姫』の攻略の糸口をなんとかつかんだという認識なのだろう。これが男子なら大騒ぎになっているところでもある。
俺?
俺は『男子女子』の『男子』には入らない『トモダチキャラ』だから。今まで多くの男子とも女子ともトモダチになっているが、浮ついた話は一切ない。俺は『彼女』的な存在を求めてはいない。もしそうなって互いの心に深く突っ込むような関係になったら、傷つくのは自分と相手の両方なので、そうならないように相手との関係値を自分で決めて振舞っている。
「昼、楽しみだねっ!」
日奈の声がクラスに響いて、再び注視を浴びる。バツがわるそうに、でも日奈とのやり取りをまんざら悪い気分でもなさそうな面持ちで下を向く舞依なのであった。
◇◇◇◇◇◇
そして夜になった。
俺はパソコンの前に座って、友達同盟のアイコンをクリックする。舞依のトークルーム、『リア充爆発しろ同盟』改め、『まいっちは絶賛友達募集中です』内でメッセージのやり取りが始まった。
ヒナっち:友達同盟ってここでいいの?
友達クン☆:OK。ここは舞依の個人トークルームで、メンバーは俺と舞依と日奈しかいないから、遠慮しなくていいぞ
ヒナっち:他の子は友達同盟って入ってるんだけど、私は入っていなかったから
まいっち:ようこそ、ヒナっちさん
ヒナっち:昼、カフェテリアで注目されたよね。先輩とか後輩ものぞきに来てたし……
まいっち:そうね。今までは一人で食べてたんだけど……
友達クン:って、俺、カフェテリアや食堂を利用してたけど、舞依を見たことないぞ
まいっち:…………
友達クン:まさか……トイレで独り……
まいっち:ち、ちがうわよっ! 校舎裏の緑が多くて日当たりがいいとこあるのっ!
ヒナっち:舞依さん……じゃなくてまいっち、普通に話せるじゃない。カフェテリアとか教室でも、怖がることないから
まいっち:ネットだからよ。リアルだと、あわあわするからっ!
ヒナっち:難儀だね。でも大丈夫。私も優……じゃなくて、友達クンもいるから!
舞依のトークルームに、新しいメンバーヒナっちを迎えて。俺たち三人のにぎわしい夜は更けてゆく……
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