第5話 まずは馬より将②
そして三分後にまた俺の所に戻ってきていた。
「うまく……口が、活舌が回らないっていうか、頭真っ白になって何話していいのかわからなくなるっていうか」
「気持ちと慣れの問題。俺に対してもそうなら何か別の要因があると仮定するが、こうやって普通に話せているんだから、心持ち、メンタルの問題だ。技術の問題じゃない」
「むーん」
舞依が複雑な顔をしてうなった。
「やっぱり桜木君に美島さんを呼び出してもらって、私と友達になってくれるように話してもらった方が……」
「でもそれだと、舞依のリア充訓練にもならないし、舞依が自らトモダチ作ったことにもならない」
「むーん」
舞依は再び難しい顔をしてうめいた。
「やっぱり、陽キャど真ん中の美島さんを狙うのは目標が高すぎるのかな?」
「将を射んと欲すれば、将から!」
俺が言うと、舞依はよくわからないという面持ちを浮かべた。
「陽キャど真ん中に見えて、誰にでもにこやかに仲良く接する日奈。実はトモダチ難易度超低い安パイキャラだ。どのみち舞依は誰が相手でも手こずるだろうし、日奈は(仮面リア充の)俺でも最初にトモダチになれた狙い目だ」
――と、そこに一人、顔を出すヤツがいた。
「私、安パイキャラで狙い目なんだ。ってゆーか、優斗君って私の事そう見てたんだ」
表情はあくまでマイルドで柔らか。でもこの場面で俺と舞依の間に割って入ってくるとは想像していなかった。
「なんで日奈――!」
「なんでみっ、美島さん――!」
俺と舞依が驚いて同時に声を上げる。
「いや、早瀬さんがちょっといつもと違うというか、尋常じゃないから大丈夫かと思って追いかけてきたんだけど……」
「「俺(私)たちの会話……聞いた?」」
「わりと最初から」
「「…………」」
俺と舞依が押し黙る。俺は心中でうめきながら、日奈になんと取り繕うかと頭を巡らす。そんな俺と舞依の苦労を知ってか知らずか、日奈が言葉を続けてきた。
「で、こんなこと私から言うのもなんだけど、早瀬さん」
「ひゃいっ!」
舞依が叱られた様にビクンと一度震えた後、背筋をまっすぐに伸ばす。
「早瀬さん。私と友達になってくれる? 前からクラスで独りだった早瀬さんのこと、気になってたし。早瀬さん、私やクラスメートの事嫌ってるんじゃないってわかったし。仲良くなりたい……かなって」
「わ、わたしとなんてっ、そのっ」
舞依は顔を真っ赤に染めてしどろもどろのセリフを発する。
「そんな難しく考えないで、ね。付き合ってみて私の事合わないって思ったら『ごめんね』でいいから」
日奈がニッコリと日奈スマイルを舞依にかけてくれた。
「日奈。お前、本当にいい奴だな」
俺が割って入ると、日奈は少し考える様子を見せて口元に指をあてる。
「実は……そんなんじゃないの。私、一応、女子の陽キャグループでしょ」
「北条鮎美のグループか?」
「そう。別にアユっちたちの中で浮いてるわけじゃないけど、なんていうか、もっとお互いに気楽な親友みたいな人が欲しいかなってずっと思ってたの」
「それで、俺たちの会話を聞いて舞依に狙いをつけたのか?」
「そう。早瀬さんのこと気になってたのは前からだけど。だからよく見てて、早瀬さんの人となりは知っているつもりだし。早瀬さん、日直はさぼったことないし、掃除当番の時も他の人がさぼっても一人で教室掃除してるし」
「よくみてるなーっ! 感心するわ」
俺は素直な感想を口にした。
「どう? 早瀬さん。早瀬さんにとっても悪い話じゃないと思うの」
日奈が「どうかな?」という様子で舞依の返答を待つ。舞依はうつむいて、フルフルと震えた後、意を決したという感じで顔を上げた。
「ふ、」
「ふ?」
「ふ、ふつつかながら、よろしくおねがいいたしまひゅっ」
舞依はまた噛んだが、そこで終わらなかった。これから夫婦関係を気づいてゆく相手に対する様な丁寧なお辞儀をする。
「私のことは『日奈』でいいわ。よろしくね、『舞依』さん」
日奈がにこやかな笑みと共に手を差し出す。
舞依が、震える手でそれを握り――
こうして、日奈と舞依との取り合えずのトモダチ関係がスタートしたのであった。
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