話外 しんこんりょこう 前編

 ロリ神さまの転移で辿りついた先は、いつかに訪れた宮殿の謁見の間だった。

 しかも私がデコピンした王女までいる。めっちゃ顔を引きつらせている。そうそう、わざとアホの子になって暴れたりこの世界の魔王に会ったりしたっけ。


 魔術的な召喚陣。または勇者聖女召喚陣。


 私、マリー、ロリ神さま。あと学ラン姿の影の薄いメガネ少年がオマケにつく。



「――お、お前は!?」

「にゃー。まだ異世界人召喚してるのー?」

「カミラ、この娘と知合いなの?」

「数年前に異世界召喚されて、腹が立ったのでデコピンしてやった王女にゃし」

脳震盪のうしんとうで3日寝込んだわよ!」

「はいはーい。この世界は鉄道で言う乗り継ぎ駅なので、次に飛びますよー」

「あ、ちょっと待って。ついでにこの世界の魔王に会いに行きたいにゃー。前回会ったとき、とごはんが美味しくなる祝福されたしゃもじをあげたのよ」

「そうなんですか? じゃあ少しの間でも会いに行きましょうか」

「え……何かおかしくない? しゃもじ……どうしてしゃもじ……?」

「突撃隣の晩御飯ーってね。それで記念にあげたのよー」

「意味わからないし……」

「にゃははっ」

「――あの、これってもしかして、異世界召喚なのではっ!?」

「そうだよ少年。お前は巻き込まれた一般人。にゃあの見立てではただの高校生。勇者でも賢者でもなくチートも秘められた才能もない。追放されたら野垂れ死ぬー」

「ガーンッ!?」

「現実は物語みたいにはならないにゃー」



 まあそんな異世界人とかどうでも良くて。知り合いの魔王に会いに行こう。

 私はダンジョンコアゲートを展開し、魔王城へと乗り込んでいく。



「にゃー♪ こんにちはー♪」

「……おおっ!? いつぞやの娘さんではないですか。今回はお友だち連れですか」



 空間移動した先には以前会った魔王がいた。和室っぽい部屋。たぶん執務室。相変わらず甚平じんべい姿。今回は幼い息子と娘はいないのようだった。


 彼は咥えていた煙管のタバコをポンと灰皿に捨て、にこっと微笑む。



「えっとね、にゃあたちは今に出かけてるの。この娘はにゃあのお嫁さんで、皇后のマリーなの。で、もう一人はにゃあの住む世界の主神さま」

「……すみません、情報量があまりに多すぎて鼻血が出そうなのですが」

「にゃははっ。魔帝と皇后の旅行で、神さまがツアーコンダクターなのよー」

「Oh……」

「ところであれからちょっと太った?」

「あなたがくれた祝福のしゃもじでご飯をと、とても美味しくて……」

「じゃあ今回はこれでお茶を入れるとすっごい美味しくなる急須をあげるにゃ」

「あ、ありがとうございます……? せっかくなので飲んでいきます?」

「うんっ」



 勧められたのでお茶を飲んでいくことに。

 靴を脱いで座布団にペタッと座る私たち幼女が三人。

 急須を受け取った魔王は、その間お茶っ葉を入れていた。茶種は玄米茶らしい。

 お湯を注いで、しばし待つ。湯呑にリズムよくちょんちょんと分けていく。

 ちなみに即興で想像魔法『EL・DO・RA・DO』でこの急須は作られている。

 そして呑む。

 みんなしてほっと息をつく。



「甘みと香りと渋みの高次元バランス。もはや別物みたいに美味しいです……!?」

「でしょー。祝福された急須だよー」

「あ、お茶菓子もどうぞ。春風堂という老舗菓子屋の大福もちです」

「にゃあ。食べるー」



 みんなでもぐもぐする。

 異世界の魔王から食べ物を貰って大丈夫なのかって?

 大丈夫だよ。ちゃんと瞬時に鑑定して安全は確認しているし。



「ちなみにこの急須でお茶を飲むとね」

「はい」

「痩せ気味の人には肥満効果を、太り気味の人には痩身効果を与えるにゃ」

「おお……っ」

「標準体重の人には効果ないけど、いずれにせよ祝福でお茶の旨味が向上にゃし」

「素晴らしいです」



 そんな感じで少しくつろいで、しばらくしてお暇することに。



「今度はにゃあたちの帝国に遊びに来てにゃー。歓迎するにゃー」

「はい、機会があればぜひ」

「世界と帝国の座標はこれにゃ。あと招待状もつけとくね。じゃあ、またねー」

「ええ、また会いましょう」



 ダンジョンコアゲートを開けて先ほどのデコピン王女のいる謁見の間に戻る。

 ……まだ彼女ら、いるのね。無才の学ラン少年も。



「ちょっと、あなた!」

「んー?」

「この少年、どうにかしなさいよ!」

「知らんにゃー。お前が喚んだのだからお前が責任持つにゃー」

「鑑定したら、こいつ、なんの才能もないじゃない。どうしてくれるのよ!」

「だから知らんにゃー」

「もおおおっ、勇者召喚にあなたみたいな魔王が来るとか有り得ないわ!」


「厳密には魔王じゃなくて、魔族の皇帝だよ。スレイミーザ帝国、カミラ・マザーハーロット・スレイミーザ4世にゃし。そしてこちらはにゃあのお嫁さんで皇后のマリアンヌ・ハーロット・スレイミーザ(正式に皇后になったので家名が変わった)。もう一人はにゃあの世界の最高責任者。要するに世界の主神さまにゃし」


「ちょっと。なんで魔王と神さまが仲良くしてるのよ!」

「そういう世界にゃし。なんならお前とも仲良くなれるにゃし」

「あと、幼女同士で同性結婚とか!」

「みゅ? ……女の子、嫌い?」

「大好きに決まってるでしょ! ……あ、いや、その、やっぱり同性同士は」

「自分の気持ちには素直になったほうが幸せになれるにゅ」

「ぐぬぬ……そうかもだけどさ……っ!」



 あはは。このデコピン王女も百合願望を持っているのね。

 可愛いからちょっと祝福してやろう。

 私は想像魔法『EL・DO・RA・DO』でとある魔道具を作った。

 一見すると、一輪の百合の花。



「これをあげる。今度召喚儀式をするとき、陣の中央に置いてみて」

「何よ、これ」

「お前好みの女の子が召喚される。しかも相思相愛になれる。そんな出会いの触媒」

「ちょ。私、そういうのじゃないから」

「自分の気持ちには素直にね」

「……あ、う、うん」

「じゃあ行くね。しんこんりょこうは始まったばかりなの」

「新婚旅行!?」

「そだよ。……ああ、少年も頑張って」

「ぼ、僕を元の世界に帰してください!!」

「それは無理。だってお前の世界の座標、にゃあは知らないもん」

「そんなあ」

「王家から補償金を貰って強く生きろにゃ」

「えぇ……」



 それから私たちはロリ神さまに連れられてこの世界を去った。次に着く世界が目的の世界であるらしい。ハブ世界から乗り継いで目的世界へ行くのだった。


 余談だけど、後日、デコピン王女はまた召喚儀式をした。しかも私がプレゼントした祝福された触媒を使って。うふふ。直感だけどやはり百合っ娘だったね。


 果たして召喚された女の子とは。


 触媒を通して当時の様子を見たところ、どうやら専門の高等教育を受けた農学少女らしかった。前世世界で例えるところの農業大学に在籍する少女である。


 この娘がまた知識チートの塊らしく、荒れた土地ばかりで常に食糧危機を内包していたデコピン王女の国の食料配給率を何段階も改善したという。


 そしてその後の二人は……私の予言通り相思相愛のラブラブ人生を送ったとさ。

 え、ああ、うん。

 あの一緒に召喚されてきた少年はどうなったかって? そんなの知らないよ?



「……はい、到着です」

「おおー。ここはー? 崖に城なのにゃ?」

「この立地条件。ずいぶん以前に、似たような建物を見た覚えがあるわ……」



 そこは、まるで。


 キャッスルヴァニア。


 もしくはメトロイドヴァニア。


 男の娘な側室の、アーカードちゃんの実家。ドラクロワ伯爵のお城にそっくりで。



「ここが宿泊施設になりますよ。うふふ」

「伯爵とかいるのにゃ?」

「いますよー」

「おおー」

「ドラキュラ伯爵は、カミラちゃんたちを今か今かと待っていると思いますよ」

「……あの、神さま」

「はい、マリーちゃん。なんですか?」

「どうして今か今かと伯爵は待っているのでしょう。何か、目的を感じます」

「そりゃあもちろんですよ。うふふふ」

「うわぁ……」

「まぁいいじゃにゃい? にゃあは楽しみだよ。だってだもん」

「カミラがソレでいいなら、いいけど……」



 私たちは崖にそそり立つキャッスルヴァニアな伯爵の城へと、ロリ神さまを伴って向かうのだった。いやあ、ミステリー新婚旅行とか楽しみしかないね。ふふふ。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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