第219話 家督は私のモノだ。文句があるならかかってこい!

「あ、あの……ですね、ママ」

「うにゅ?」

「えーと……そ、その姿で行かれるのですか?」

「みゅっふー♪ ウサギさんがぴょんぴょんぴょーん♪」

「あの、その……楽しくぴょんぴょん飛び跳ねるのも結構ですが……?」



 私はある意図から元の姿に戻っていた。

 見た目は3歳児の幼女に。衣服はもちろん、深紅のいつものドレス姿。

 決して幼女姿に戻りたくて堪らなくなって戻ったわけではない。ホントだよ?


 ああ、でも。


 やっぱりこの姿が一番ね。何度も言うけどさ、実家の自室に戻ってきた気分だよ。

 ぴょんぴょん跳ねるの楽しい! さっきから身体がうずうずしてしようがない。


 だって、幼女だもの!


 子どもは跳びはねたり、かけっこをするもの。そうやって運動神経を養うのよ。



「あのねー、カミラのこの身体はねー、生まれてまだ数年しかたってないのー」

「えええっ!?」

「でも前世の記憶もあるからね、あと混沌の魂も受け継いでるからー」

「は、はい……」

「にゃあはめっちゃつおいよ! その気になったらこの宇宙も食べちゃうもんね!」



 ――お願いしますやめてください! ひらにご容赦を! 孫姫さま! 先帝さま!



「んみゅ? 何か聞こえたにゃー?」

「私、後頭部を不意打ちで強打したような衝撃が凄いのです……」

「大丈夫大丈夫。にゃあは身体は幼女、頭はカオスヘッド。その目、誰の目?」

「めちゃくちゃ心配ですぅ……」


「しょーがないにゃー。……安心なさい。この姿も私。幼女の姿も私。精神は肉体の玩具に過ぎない。肉体の形に、精神は万象を変化させる。あなただってそう。吸血鬼化したからこそ、本来自分が内に秘めた性格や口調、精神性があふれ出てきている」


「た、確かに私の口調はもっとガチガチに硬質のもののはずでした。こんな喋り方、したくてもできなかった……」

「幼女の私は、一見すると支離滅裂のようで、ちゃんと理由に基づく行動をとっている。むしろ目的達成のためには手段を択ばない。だから、ママを信じなさい」

「は、はい、ママ!」


「……と、いうわけで。にゃっふぅ! ひあういごー! マンマミーア!」

「だ、大丈夫かなあ……?」



 説得のため私は少しだけ大人モードになって、それですぐ幼女姿に戻っていた。

 やっぱりね、私は幼女でないと本気が出ないのよ。ちっちゃい子ラブなのである。


 さあ、ダンジョンコアを使おう。意味なく背伸びなんかして、掲げてみよう。


 テテテッテ、テーテテー! 


 ダ↑ン↓ジョ↑ン↓コアー!(某のぶよ風のダミ声で)


 ――って、私はドラ◯もんか。しかも昭和の方のド◯えもんとか。 


 呼び出したるは、ダンジョンコアゲート。どこでもドア的なアレである。

 目的地はレミリアードの実家。バトランド辺境伯邸宅。正面入り口。


 アーチ状の転移門ゲートを作り出す。バキバキと空間を問答無用で割りながら。



「さあ、ここを抜けたらレミィ、お前のおうちだよ。戦場とも言うけどねー」

「ごくり……」

「心配にゃいって。めんどくさくなったら、みんなヤっちゃえばいいにゃ」

「屋敷の全員をボコるのですね」

「んみゅ! 兄弟も、メイドもボーイも、私兵騎士団も、全員ブッ飛ばすにゃ!」

「まっすぐいってぶっとばす。右ストレートでぶっとばす!」

「その意気にゃ!」



 ずずいと門を抜け――ると、バトランド家の門番が槍を構えて目をすがめていた。


 はて? なぜゆえ?


 転移先はバトランド辺境伯邸宅ではあれど、さすがに直で転移するのはどうかと思って正面門に面する『公道』にしたのだけど……?



「何奴!」

「愚か者。何奴なものか。この家の主人に決まっている」

「ご、ごくつぶ……いえ、レミリアードさま?」

「良い度胸だ。お前、解雇」

「ふん。私を解雇できるのはあなたのお母上たるセレスティアさまのみ」

「母は死んだ」

「……はあ?」

「もういい。お前如き端女はしためと話をしている場合ではない。……どけ」

「げぶあっ!?」



 レミリアードはすっとまっすぐ進んで、門番の女を右ストレートで殴り飛ばした。


 念のため再確認の意味を込めて断るに、この世界は貞操観念逆転世界であり、女権世界でもあった。大半の力仕事系は男性よりも女性が担うものとなっている。


 ズドゴォ!!


 暴走ダンプにでも撥ねられた勢いでふっとんだ門番の彼女は、辺境伯家正面門にぶちあたりパイプ型柵状ゲートを完全に破壊、無辺世界にすっ飛んでいく。



「あー、あいつ、人生からも解雇されたかも。……どうでもいいか」

「弱い奴なんてどーでもいいー♪」

「ママ。それでは屋敷に参りましょう」

「うんうん♪ ひあうい、ごーごーなのよ♪」



 私たちはバトランド辺境伯家の敷地内に踏み込む。

 とたん、集まり始める私兵騎士団と雑兵たち。もちろん全員女性。



「止まれ! ここをどこだと思っている! 不届き者どもよ!」

「……それが家の者に掛ける言葉か。無礼者。拳でわからせてあげる」

「う、動くな――ぐわぁぁ!?」



 レミリアードの攻撃。

 まっすぐいって、ぶっとばす。右ストレートで、ぶっとばす。

 たんっ、とステップ。

 まっすぐいって、ぶっとばす。右ストレートで、ぶっとばす。

 すり足からの――

 まっすぐいって、ぶっとばす。右ストレートで、ぶっとばす。


 これを繰り返すこと、50数回。


 死屍累々。


 いや、彼女なりに一応手加減はしているっぽいし、そもそもステゴロだからね。


 たぶん死んでないよ。たぶんね。骨折の一つや二つは、もちろんあるだろうけど。



「体の動かし方が、少しわかったかもしれません!」

「にゃはっ。よかったにゃー。いい子いい子だにゅ♪」

「頭を撫でられると嬉し過ぎてお漏らししそうです!」

「しーしー漏らしたらまたキレイに洗浄してあげるにゃー」



 ちなみに私は空間座標指定式のピコピコシューズを履いているため、重力を完全に無視したまま空中をぴこぴこ鳴らしつつレミリアードと肩を並べているのだった。


 さてさて。


 邪魔な兵や騎士たちは全員レミリアードにノックアウトされたわけで。


 どんどん行こうね。


 引かぬ、媚びぬ、顧みぬ!


 正面口を抜けて、邸宅邸内へと向かう。ズバンと扉を開け放つ。



「そこで止まって頂きましょう。レミリアードお嬢さま」



 制止の声がかかる。へえ、と思う。面白い、まだやるつもりか。

 邸内正面ホールは殺気立った使用人たちで埋められていた。


 曰く、バトルメイドたち――どちらかというとアサシン型の護衛というか。

 何やら怪しげなのあるナイフを抜き身のまま握っている。


 アサシンと言えば、ハッシシと毒薬である。

 良くない薬でハイになって、対象を毒を絡めた武器でズブシャー!


 コトが起きれば途端に襲い掛かってきそうだし、まさにその通りだろう。

 まあ、吸血鬼に物理攻撃とか片腹痛いし毒なんて無意味なんだけど。


 それよりも……この気配。視線に渦巻く、嫌悪感と侮りと敵意はどうか。

 レミリアードは常にこんなものを受けつつ生活していたのか。


 そんな中、ただ一人だけ日本刀に酷似する片刃剣を抜き放ち、メイド服の女アサシンたちとは異なる衣装――執事服を纏った老婆がこちらを静かに見据えていた。邸内に侵入してすぐに、ここで止まれと制止しようとした声の主でもあったが……。



「家の主人に向ける言葉ではないな、たかだか執事長の分際で」

「わが主はただ御一人。セレスティア・オールフリード・バトランド辺境伯閣下でございますれば。それ以上でも以下でもありません。ご理解いただきたく」


「そう。ならば今すぐその片刃剣で自分の喉を突くと良いわよ」


「……わが主が死亡なさったのは事実でありましょうか?」

「もう情報が飛んだの? ああ、死んだわ。私を殺そうとしたので返り討ちにした」


「……まさか、よもや。いやしかし……現に、わが主は……お嬢さまを……」


「ははっ。全部知っているくせにどの口が呟くか。……決めた。他の使用人どもは殺さないで済まそうと思っていたが、お前は殺してその血をすすってやろう」


「剣聖には至れませんでしたが、剣豪の私を殺すと? ?」

「そうだよ。、だ。ちなみにお前の死の定めはすでに確定している」


「……正気の沙汰ではありませんな」

「そうかな?」


「そこにいる得体のしれない幼女に、心をかどわかされましたかな?」

「……なるほど、今際に残す言葉は受け取った。その侮辱、よかろう、死ぬが良い」

「――!?」



 がぎんっ、と剣と太刀が交差する。レミリアードの剣は、私が貸し与えた大剣だ。

 相手に二の太刀を与えない。

 レミリアードの一撃に迷いはなかった。私の幼児姿を侮られて怒ったのだ。

 んふふ。予想通り。

 そして先に私はこう言った。


『相手に二の太刀を与えない』


 武器破壊。刀の刀身は砕けた。

 横燕返し。某陰流の虎切の型に似た動き。


 ざんっ、と。


 彼女は向かう太刀を破壊し、返す剣でそのまま執事長とやらを上下輪切りにした。


 どしゃっ、と胴体泣き別れになる執事長。


 そこをすかさず吸血するレミリアード。執事長の首筋に牙を剥く! 喰らいつく!

 ただの吸血ではない。眷族吸血だった。

 真っ二つにしたからって、即死するにも数秒の猶予はある。

 そこを彼女は狙ったらしい――よくやるわ、そんなきわどいこと。



「き、吸血鬼ッ!?」



 使用人の誰かが悲鳴混じりに叫ぶ。

 そう、主に人間の血を糧にする吸血鬼ですよ。あなたの隣人、美味しいあなた。


 動揺。ざわめき。混乱。

 戦闘訓練を修めたであろうアサシン型バトルメイドたちですら動揺を隠せない。


 この世界では吸血鬼は人間の手に負えない意味合いの、高等魔族に属するっぼい。

 混沌とする中、レミリアードは執事長の老婆の首筋に牙を立て、盛大に吸血する。



「……おええええっ。まずーい! でも、ほら、これで胴体をくっつけると……」

「……はっ!? ……なっ? えっ!? 私は斬り殺されたはずなのに……!?」

「お前は男爵家の出だったから、男爵級吸血鬼にしてやろう。私の下僕だよ」

「ぐ!? う……? 頭が割れ……ご主人様に於かれましては御機嫌麗しく……」


「うわー、オババがみるみる若返って、少女になっていく。キモーい」

「お、お目汚しを……申し訳ありませぬ」


「いやいや、そのキモさの果ての姿が少女だからね。あ、でも太陽問題どうしよう」


「大丈夫にゃ。『ユニーク吸血姫の加護』を使ってお前に『ディウォーカー』を下僕に付与できる権利をあげるにゅ。太祖の吸血鬼たるにゃあに不可能はにゃい!」


「ママ。感謝します!」


「ちなみに下僕が裏切るとそいつの『ディウォーカー』付与が消える安心設計!」


「それは頼もしいですね! キモチワルイ太陽光に焼かれて死ね、ですね!」


「陽光に当たると、まるで下水を頭から浴びせられたような気持ちになるんだよ」


「はい!」



 笑顔で私たちは会話する。そして、ギラッと残りの使用人たちを見やる。



「文句があるならかかってこい。お前らごとき、拳で応じてやろう!」


「……!」



 息を呑む使用人たち。ソレもそのはず、漆黒の意志がぶわりとレミリアード目の中で燃え盛ったのだった。激しい殺意。動けば、殺すという焼けるような意思表示。


 フッ、と笑うレミリアード。



「では、ママ。当主執務室へ参りましょう」

「んみゅ!」



 私たちは前世の神話、モーセの紅海割りみたいに使用人たちを圧倒し、歩を進めようとする……のだが。本当に、その時だった。



「魔族! 他は萎縮しようとも、女神ドルメシアスさまの信徒たる私は違う!」



 一人の聖職者と思しき青年が、毅然とした態度で、一歩前に出た。



「ブレナスお兄さま……」

「レミリアード。否、魔族。闇の子、バンパイアよ! 女神の名の元に失せよ!」

「それは無理にゃ。あいつ弱いもん。この星の管理権限しか持ってないし。それに」

「……!?」

「なんでにゃあがこの姿になったか」

「何を……?」

「リスリジェアス、出ておいで。今度は、お前を、食べちゃうぞー!」

「やめてください先輩みたいに食べられたくないですペロペロしますからぁ!」

「い、一体!?」



 カッとホールを光で満たしたかと思えば――土下座スタイルで幼女が蹲っていた。



「やめてくださいやめてください。おしっこ漏らしそうです。やめてください……」


「あ、うん。言い過ぎたにゃ。ゴメンネ」

「はいぃ……」



 顔をくしゃくしゃに涙で汚した幼女が――また幼女なんだよね、まあいいけどさ。

 しかもイヌ耳とくる。イヌ耳幼女である。

 本来は獣人神として就くはずだったのがこの顛末というサムシング。イヌ耳幼女神、顔を上げて、やおら、私に抱きついてスカートの中に顔を突っ込んでくる。



「にゃあ!? ガータータイツとぱんつ下ろしちゃダメ! ペロペロダメったら!」



 いきなりペロペロされちゃった。どこをって? お察しくださいとしか……。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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