第218話 簒奪者レミリアード

 ※今回は微妙に短いです。代わりに予定の水曜日ではなく月曜日投稿になります。



 レミリアードは自らを殺しにかかった――実際、実の娘を死の直前まで追いやった母親を逆に弑逆しいぎゃくせしめ、そして『母の血液』を己が内側なかに取り込んだ。


 なかなか悪辣なことをする。対象を殺すことでスキルを簒奪したのだから。

 その後のレミリアードの狂的な行為に対しては私は何も触れない。


 ちなみに私も似たことはできる。殺して簒奪という意味合いでは、同じ行為を。

 そう、吸血による眷族化の際に付属される、いわゆるスキル同化だった。


 念のために繰り言をさせてもらうと、眷族化吸血とは――

『寄親となる吸血鬼に対象を吸血によって殺すことで、吸血鬼として転化』

 させているのだった。ある種の転生とも表現できる行為なのである。


 私が5人のイケメンを眷族化させたとき、自動的に彼らの特技やスキルをわが手の内に同化せしめていた。ただし、こう言うのもなんだけど……それらはすべて人間としてのレベルであり、私のレベルには合わないため公言を控えていた。


 使わないスキルとか、ないのと同じだからね。死蔵させているわけ。


 それはともかく。


 その後、レミリアードはなんのためらいもなく、妹たちにも手をかけた。


 猿っぽいモンキー妹は失禁しながら命乞いをした。だが首を撥ねられた。

 憎悪を隠さず、ずっと呪いの言葉を吐きつけてる末妹も、首を撥ねて処した。


 無表情のまま、漆黒の意志を瞳の中で業火のように燃やすレミリアード。


 面白い。弱いくせに一人前いっちょまえの殺気を纏うだなんて。


 くるり、と彼女は私を見据える。



「……元母上は、私が7歳までは、厳しくもとても優しい方でした」

「そうなのね」

「7歳の誕生日、天からのスキル拝受を受けて、すべては狂いました」

「……そう」

。私はこの世界における普遍的な職を、ただ一つも得られませんでした」


「……代わりにユニーク職につけたじゃないの」

「希望師、ですね。私にとってはある時点まで絶望の敬虔な信徒でしたよ」


「まあ、ね。ユニーク過ぎて逆に救いが霧散したというか。(そしてこの絶望こそが漆黒の意志を育み、今となっては瞳の中に恐るべき呪詛となってはべっている)」


「デザイア。なんの役にも立たないSSSSS+クラスのスキル。あまりにも存在が大き過ぎて他のサブスキル生成すら阻害された謎のお荷物スキル」


「発動にはすべてを捨て去った先の、切実なる願いに反応する、だったわね?」

「はい。そして、ママに出会い、私は自分を変えることが出来ました」


「デザイアスキルは、まだあなたの中に存在しているわよね?」

「条件を満たして活性化させると、その後は永続的に効果を持続させるようです」


「つまり?」


「私の本気で願う内容に対して、その願いを叶えようと自動で動いてくれます」


「ふぅん?」



 随分と万能性を持つスキルになったのね。なろう小説の主人公みたい。

 併せて、このスキル。

 眷族吸血した私の中にも、同化しているのは、言わずもがなで……。


 しかもデザイアスキルが活性常態でレミリアードを眷族化吸血したため、そのまま聞いた通りの効果が私にも付与されているのだった。

 デザイア万能の願望機は、いつでも私の願いを、叶えんと動く。レミリアードよりも強烈に。


 しかして私に願いはない。このスキルも死蔵される定めにある。

 なにせ。

 その気になればいつでも欲求はもぎ取れるので、わざわざ願う必要ないのだった。



「……妹たちには特に感慨はないようね」

「いえ、んー。確かにフレイアは傲慢でモンキーで大嫌いでしたが、ああ……殺してこんなにも甘美にスッキリするとは思わなかったです。親族――卑属殺しなのに」


「……」


「一方、クリスティアは……」

「うん」

「あの子が私を憎悪するようになったのは、私のせいでもあるので」

「……話してごらんなさい」


「はい、ママ。……この世界は7歳になるとスキルが与えられます。主に親の能力が遺伝する形で、剣士なら剣士スキルが、魔術師なら魔術スキルが付きます。この世界を統べる――いえ、代理女神さまでしたか、ご尊名は口にしませんが建前上ではお方さまの神力によって子には最適と思われるスキルが与えられることになります」


「それで?」


「うん。スキルを持つ者と持たざる者の大きな壁のことね」


「クリスティアは魔塔主になれるほどの魔力と、四大属性魔術スキル持ちの『魔導師』でした。が、最初からそうだったわけではないのです」

「インチアップしたと?」


「えっと……インチアップがどういう意味なのかは分かりませんが、彼女は当初水魔術のみの『魔術師』だったのです。ですがそれを良しとせず努力して……」


「才能の欠如を努力でカバーしたと」


「はい」


「それはスキルの器を最適化させただけでは? 小さなスキルを育てて磨き上げたのはわかるけど、器が小さいと零れ落ちるわよ。魔術師のレア度はいくつ?」


「D+からAの間です。扱える属性数でランクは変わりますので」


「……あなたの万能の願望機は神の権能に近い特殊なもの。世界が違ったら聖杯戦争の聖杯にされていたかもね。だからこそのSSSSS+レアランクでしょう?」


「……はい」


「人を辞めて魔族となり、レベルも10万にボアアップしたおかげでレミィの器は人のそれを遥かに超える大きさになった。ただ、レミィのスキルの器は、元々5S+スキルを取り囲んで保持できるほど大きかった。人としてそれ自体が異常なほどに」


「……慰めてくださるのですね、ママ」


「いいえ、本当のことよ。あなたは、スキル容量がもう残っていなかっただけの話」


「ありがとうございます。……クリスティアは努力型の秀才でした。そんな彼女からすれば、私は怠惰な愚物に映ったことでしょう。しだいに憎悪に変状するほどに」


「でも殺した」


「はい、殺しました。彼女には、こんな形で終わるけど、あなたのことは心から愛していたと耳元に囁きました。……血の混じった唾を吐きつけられました」


「人間って、分かり合えないのよねー」

「……はい」

「業深きゆえにいつまでたっても同族で殺し合うの。1500。神さまが、こいつらちっとも成長しないなって」


「なんか……申し訳ありません……」

「レミィ。あなたは魔族よ。伯爵級吸血鬼。もう人間ではないわ」

「はい……」


「拠点は確保して後顧の憂いも処したので、あなたの実家へ向かいましょうか」

「あの……吸血鬼的なスキルの伝授はどうなるのでしょうか……?」


「当主になるのが先決。これに伴って身体の使い方に慣れなさい。そうすればあなたの中にある魂が、あなたに吸血鬼としての特性と能力を教えてくれるわ」

「……なるほど!」


「では出発ね」


「行こう」

「行こう」


 そういうことになった。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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