第215話 はじめての吸血鬼 レクチャー編?

「さて、レミリアード。私はお前の望みを叶えた」

「はい。感謝しています。わが君」

「気分はどう? 太陽に背を向け、無明の闇をゆく夜族と成った感想は」

「最高の気分です。もう何も怖くありません。わが君……っ」

「そう、良かったわ(でもそれ死亡フラグだから気をつけなさいよ。マミるわよ)」

「……わが君?」

「うん、まるで奈落の底を見てきたような漆黒の目の色をしている」

「そうなんですね、わが君」

「……あと、マルフォイ父の例のあの人への呼び方みたいなの、やめない?」

「えっと……?」



 思いのほか彼女は逸材なのかもしれない。


 彼女の髪色は金髪に近い銀色だった。プラチナブロンドともいうが。

 いかにも貴族らしい髪色。そして目は灰銀色だった。

 その目の色が、漆黒に変性していた。


 私は彼女の顔を覗き込む。恥ずかしそうに頬を朱に染める彼女。


 うぶで可愛いのだけど、それよりもこの初々しい処女ちゃん。


 あえて繰り返す。


 彼女の目の色は、奈落の闇の底に広がる水辺のように、なっている。

 漆黒だ。

 吸血鬼のスタンダード虹彩色、血のような赤ではない。


 ……うわぁ、なんだろう。イレギュラーパターンにゾクゾクする。


 変異体というか、異形体というか、異常体というか、レア個体というか。


 私は間近で、彼女の顔を覗き込んでいる。



「き、キスしてくださるのですか? 嬉しい……っ」

「しないわよ?」

「そんな、私、生殺しじゃないですか。お股がきゅんってなっているのに」

「いやいや、しないってば」

「じゃあ、私の恥ずかしいオ〇ニー姿、見てください!」

「落ち着きなさい」

「あ痛っ。チョップされましたっ。アソコ周りはキレイに処理してますよっ」

「そんなの年頃の女の子なら当たり前でしょ」

「ハイジニーナは特に、貴族女性のエチケットですもの」

「私は初めからツルツルよ」

「羨ましいです」

「そういえば日本人女性の6割以上は未処理のボーボーらしいわね……」

「愛用の微振動イチゴちゃん、持ってくればよかったかも」

「ダンジョンにおもちゃを持ち込まないで……」

「ではわが君。キスを」

「しないってばー」



 この世界って男が女のようで、女が男のようで。

 つまり彼女の世界の自慰行為は私の世界での男性自慰行為と同じ意味で。


 ムダ毛の処理は前世の欧米では当たり前で、むしろ日本人女性のボーボースタイルに海外の人に驚かれたり。欧米人女性が日本の銭湯に入って驚いた話など、ね。


 頭がバグるわ。


 はあ、ムラムラする。貞操観念が逆転した世界の女の子ってとっても刺激的。

 いやそれでも、普通、こうもべったりとくっついて来るものだっけ?

 幼女時の私がマリーを始めとする幼女たちと仲良くするのとはまた違うよね?

 ああ、うん……。

 スッと目を閉じて、キス待ちするのやめてほしいのだけど……。

 百合っ子なんだね、キミは。私も百合っ子だけど。

 でも。 

 この子と体液交換したら、この子、速攻で更なる変異を遂げそうな気がして怖い。



「……それで、レミィ」

「私のことを、私の中で望んでいた愛称で呼んでくださるのですね!?」

「あ、うん。……私の中で望んでいたって?」

「そう呼んでくれることを願っていたのに、誰も呼んでくれなかったのです」

「生前の話よね」

「はい、生前の話です」

「そうなのね。……それで、レミィ」

「はい」

「私、元の世界に帰るわ。許可するから後は好きになさい。世界征服でもなんでも」

「えーっ!? どうしてですか!? もっといて欲しいのです!」

「うーん……ちょっと前に聞いたでしょ? 無礼召喚した女神を喰い殺した話」

「まさか」

「この世界の女神だったわ。惑星時間で一万年前の出来事っぽいけど」

「えぇ……」

「というわけで帰る。さっさと帰る。お前の強さなら大体のことは好きにできる」

「お……お願いしますっ。わが君ママ、私を見捨てないでくださいー!」

「ママってあなた……さすがの私も後任の女神が気の毒で居づらいというか……」

「その女神も食べてしまいましょう!」

「やめてあげて。ただでさえ代役で、歪んだ信仰心を捧げられて不憫なのに」

「うー。うー」

「えぇ……涙が零れそうになってるし」

「う……ひっく……ぐすすっ。う……むぅ……ママが私を捨てるぅ……」

「……しようのない子ね」

「ご奉仕しますからぁ。心を込めてペロペロしますからぁ」

「うん、それはしなくていいから」



 ぽろぽろと泣き出したので、ぎゅっと抱きしめてあげる。

 女権社会で女が男みたいになったとはいえ――

 この世界風に言うところの『雄々しい』女の子はたまにいるのだった。元の世界風に例え直すと『女々しい』となるが。私視点では別におかしくはないのだけど。


 再度確認しよう。何度も言い聞かせておかないと私が混乱するし。

 鑑定で調べたところ、どうやらこの世界は貞操観念逆転世界であるらしい。

 女が男っぽくて、逆に男が女っぽいとか。……やっぱり頭がバグるわ!



「眷族吸血鬼化すると、自身に秘められた願望が露呈する場合があるのよねー」

「私、こうやって、母上ママに甘えたかったのです……」

「まあ、うん。あの母親は貴族としては正しくても親としては失格だものね」

「あの家は……もう」

「何言ってるの。家はお前が当主になれば解決よ」

「えっ?」

「親子の縁は切れた。でもまだ公的には家名は名乗れる。なぜならお前は世間向けにはダンジョン攻略中に死亡したことになるはずだから。……奪えば良いのよ」

「私以外の家族を全員ぶち殺せば問題ないと?」

「それもアリかもしれないわね。でもせっかく吸血鬼になったのだから」

「ああっ、咬んで従わせればいいと!」

「そういうことねー。あ、でもお前は伯爵級だから太陽は平気だけど、子爵以下は太陽、ダメだから。階位が低くなればなるほど陽光ダメージ幅が大きくなるわ」

「ど、どうしましょう……?」

「そうね、じゃあ、新人吸血鬼ちゃんに吸血鬼の何たるかをレクチャーしてあげる」

「ありがとうございます! わが君!」

「なんだかその呼び方、やっぱり慣れないわぁ……。もうママ呼びでいいわ」

「はい、ママ!」



 いまさら吸血鬼レクチャー、はじまるよ。……なんてね。

 そう、いまさらである。でもレミリアードは吸血鬼一年生だから。

 以前吸血したイケメンたちみたいに強かったりスキルを持っていたりしない彼女。

 フツーの女の子なのだ。

 まあ女権社会の女の子とか、私の感覚ではフツーとは言い難いかもだけど。


 私は解説する。まず吸血鬼とは、人の生き血をすする高等知性の魔族であると。



「吸血鬼の一番の強みは何かわかる?」

「不死身なところですか?」

「それも強みの一つ。伯爵級なら首が落ちても、拾ってくっつけたら元に戻るわ」

「えーと、変身できるからですか?」

「お前は元人間だから変怪のコツを掴むのがちょっと難しいかもしれない。確かにそれも強みの一つになるわよ。でも、一番の強みではない」

「人間には使えない、魔族ならではの魔法の領域の力が使えることですか?」

「この世界も人間は魔術は使えても魔法は無理なのね。後で幾つか、私のオリジナルを教えてあげる。……でも、そうね、これも一番の強みではないわ」

「えーと、えーと。それじゃあ……単純に力が物凄く強い、とかですか?」

「……うん。当たり。単純に力が強い。これが一番の強み。物事はシンプルであるほど即応力があって強い。さて、と。試しにこの私の剣を持ってみなさい」

「鉄塊みたいで、有り得ないほど重そうなのですが……」

「私の世界の単位なのでわからないかもだけど、その剣は500キロあるわ」

「単位がどれほどのものかはわかりませんが、さすがに無理では」

「そんなことないわ。ほら、持ってみて」

「わっ、そんな投げ渡されると……軽く、持てます。えっ、どうして? 重心バランスは無視ですか!? 500キロでしたっけ? こんな、その辺の棒切れみたいに」

「頭でなくて身体で理解しなさい。それはそういうものだと」

「は、はい……っ」



 レミリアードは立ち上がって私の大剣で素振りを始めた。

 私もゆっくりと立ち上がる。コウモリ翼を展開し、浮き上がる。



「奥へ行きましょう」

「はい、ママ。しかし母上から聞く話ではここが最終階層と伺っています」

「そんなことないわよ。あなたの毒親は表向きに騙されている」

「と、申されますと?」

「まだ奥があるはずよ。だってダンジョンコアルームじゃないでしょ、ここ」

「ダンジョンコアルーム」

「そうよ。そこを制圧してこそ、ダンジョンクリアになるわ」

「さすがはママです」

「私、ダンジョンマスターも兼任しているからねー」



 私はじっと周囲を観察する。コアルームへの道を探すのだ。魔力の漏れはないか?

 ……あった。

 私はそちらへ移動する。レミリアードもついてくる。



「ここに隠し扉があるわ。行きましょう」

「はい、ママ」



 フィンガースナップ。魔力で扉を吹き飛ばす。そして進む。


 通路は3メートル×3メートルの幅と高さ。通路自体が薄く発光している。

 その通路を大体50メートルほど歩いただろうか。

 大部屋に出た。広さは100メートル×100メートル、高さは10メートルくらいか。


 中央には教壇のようなオブジェが。その上にピンポン玉大の宝玉が浮いている。


 ただし。


 その真ん中地点で。つまり、私たちから25メートル先に。

 床几に座した、重武装の鎌倉武士っぽい武者が、いる。

 鑑定すると『ミフネ』と出た。おやおや、ウィザードリィかな?



「あれがこのダンジョンの最後のレイドボスってところかしらね」

「元母上が戦っていた武者より圧倒的に強そうなのですが……」

「アレ、レベルはたったの5000らしいわよ」

「ごっ、5000……っ!?」

「つけ加えるとレミィたちが戦っていた武者はレベル800だったわ」

「あの武者、800もあったのですか!? 本来は500なのに」

「レア個体だったのかもね。阿賀野流戦国太刀の使い手だったし」

「あ、あの。母上は600でした。そして猿妹は350。末妹は330で……」

「元々のレミィは?」

「よ、40でした」

「そりゃあ妹たちからバカにされるわね」

「はい……しかも一切の攻撃スキルもジョブもありませんでしたので」

「今は?」

「今の私のレベルは10万、とママより教えられました」

「うんうん。じゃあ、ちょっとその剣でアレを斬り捨ててごらんなさい」

「ええーっ!?」

「あの武者をね、まっすぐいってぶった切る。右袈裟でぶった切る、よ」

「まっすぐ行ってぶった切る!? 右袈裟でぶった切る!?」

「そう。あ、その前に。右へ10歩移動してから突貫ね。でないとコアが危ない」

「どんな心配ですか!? 武者の背後、コアまで15間弱約25メートルはありますよ!」

「さあ行ってみよう。女は度胸。何でも試してみるものさー」

「えぇ……こ、怖いのですが」

「大丈夫大丈夫」

「は、はいぃ。おしっこ、漏れそう……」



 おどおどしながらレミリアードは私に言われた通り右へ10歩移動する。

 まだ剣は構えない。いや違う、剣を構え忘れているのだった。

 ややあって、はっ、とした彼女は剣を構える。


 対して武者『ミフネ』は。かしゃっと武者鎧を僅かに鳴らして立ち上がる。


 レベルにしてはなかなかの迫力じゃないの。

 武者『ミフネ』は十文字槍を構える。

 両者、いざ尋常に。

 始め。


 ドンッ、とレミリアード、吶喊する。

 そして。

 右袈裟斬り。

 剣筋が音速を超える。マッハ2辺りかな。

 武者『ミフネ』は。

 何もできずに、両断される。レミリアードの剣戟の衝撃波が後方を貫く。


 決着。



「よくやったわ。それが、吸血鬼の力。単純暴力。よく覚えて起きなさい」

「え……? 私……え……? 斬ったの? この武者を、一撃で?」

「そうよ。初めてにしてはよくやったわ。レベル差もあるけど、頑張った」

「あ、ありがとうございます……?」



 信じられないって表情のレミリアード。ぺしゃっと、その場にへたり込んだ。

 レベル10万よ? 負ける要素がないじゃない。

 ぱちぱちと、拍手しながら私は彼女の元へゆるゆると移動する。


 ……ん? 水たまり? なんで? 床が割れて水漏れでも起こした?

 あー、うん。そうきたか。

 私と出会った歴代の女の子たちの慣例が適用されちゃったか。


 この子、失禁してるじゃん……。



「お、おしっこ、出ちゃいました……」

「うん、知ってる」



 私は拍手をやめ、ため息半分に想像魔法『秘密の花園』を唱え、洗浄してやった。

 まったく、これは吸血鬼について教えがいがあるわ……。


 これまでの慣例の如く、この子にもオムツつけてあげようかしらね?




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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